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Chikirinの日記 このページをアンテナに追加

2010-12-08 組織と市場 - 人を育てる2つのもの

先日、「メディアの未来像」に関するBLOGOSのシンポジウム、池田信夫さん、田原総一朗さん、蜷川真夫さんのパネル討論があり、聴きに行ってみた。詳細はこちらでみられます → メディアについてのシンポジウム


なにより壇上と会場の対比がおもしろかった。壇上のお三方は57歳から76歳、聴衆は見た感じ、30-40代が大半。このシンポジウムに限ったことではないけど、「30〜40代の人達が、50〜70代の先輩のおっしゃることを一生懸命聞いて学ぼうとしている絵」というのが、今の日本の構図をよく表してると思った。

加えて池田氏が「NHKと朝日新聞に内定をもらったが、NHKを選んだ」、蜷川氏が「当時は就職もそんなに大変じゃなかったので、文春に入ろうかな、朝日新聞に入ろうかなと考えていた。自分で書くのが楽しいかなと思って編集より記者を選んだ。(=朝日新聞に入った)」とおっしゃっていて、さらなる対比も浮きぼりになった。

時代が違うとか思います?そうじゃないです。違うのは時代じゃない。当時の就職状況がいくら今より楽であったとしても、こんなレベルのキャリア選択ができた人が大半だったはずがない。

岩波映画からテレビ東京に引き抜かれた田原氏も含め、壇上の人達は当時から「特別な選ばれた人達」です。会場の聴衆側にそういう人達がどれくらいいたのかはわからないが、(ちきりんも含めて)とても壇上と同じ程度とは思えなかった。(参考までに、田原氏が早稲田の一文、他のふたりは東大卒)

また途中途中ででてくる「昔の記者はまともだったが今はだめ」的な論調や、「当時の新聞記者にとって大事だったのは、体力と胃袋!」等々の発言も・・・・「あたしは日本を見てる!」と思わされるものだった。


別に批判しているわけでもすねてるわけでもない。こういう構造がおもしろいよね、という話。で、今日の本題ですが、最後の方に話題になった「これから人を誰が育てるのか」という話は、ちきりんも最近すごく関心をもっているテーマだった。

話を聞いていて、壇上の人達は(元々優秀な人達なのだけど)やっぱり「NHKなりテレビ東京なり朝日新聞で」育てられた、ということなのね、と思った。そしてその後はそれぞれ独立するなりして「市場」で育てられている。

人を育てるものは、ふたつしかない。「組織と市場」です。組織とは学校とか会社、市場とはコミュニティと仕事。前者は座学であったり徒弟制度であったりし、後者は人付き合いであったり仕事のやりとりであったりする。一番バランスのいい人の育て方は、組織で基礎を学びつつ、市場で実戦経験を積むことです。

たとえば大企業に入れば、まずは研修を受け、その後はOJTで先輩や上司から徒弟制度に基づく手厚い指導を受ける。そのうち自分で仕事を担当し、顧客と市場で向き合いつつ学び、もしくは組織を離れ独立すれば、自分自身を市場の中で売っていきながら成長する。これが「人材育成の黄金のパス」でしょう。


シンポジウムで問題になったのは、組織としてのメディアに余裕がなくなり人を育てることができなくなっている、という話。朝日新聞が早期退職を募集したりする時代、社内で若手をどんどん育てて早めに一人前にしてやろう!という中高年はなかなか奇特な存在になるでしょう(若手が早く育つほど、給与の高い中高年は要らなくなるんだから)

それ以前に新規の正規採用人数だってどんどん減っていく。組織はできる限りの人数を非正規で(育成のコストもかからない立場で)採用しはじめる。

一方で伸び盛りのベンチャー企業は(たとえその意思があったとしても)急成長に人材供給が追いつかず、組織的に人を育てる余裕がない。だから組織の中であるにも関わらず「市場で人を育てる」方式しか提供できない。


つまり人を育てる場である「組織と市場」のうち、組織の人材育成機能が消滅する(もしくは大幅に削減される)、という話。すると人は「市場」で育つしかない。

ところが、組織にいれば育つことができるレベルの人が全体の8割いるとすれば、市場で育つことができる力をもった人は2割程度しかいない。花壇で世話をしてもらえば大半の種子は花を咲かせるが、その辺の土地に種子が蒔かれるなら、花が育つところまで到達できるのは稀なんですよという話。

つまり組織の人材育成機能が失われると、その差の6割の人達は成長できなくなる。トップ2割にもボトム2割にも関係ないけど、まんなかの6割の人には世界が変わってしまう。ちきりんはこれを「もうひとつの中間層の崩壊」、と呼んでいる。


最初に組織で育てられ、だからこそ後から市場で自分を成長させられる基礎力も得られる。今回の壇上の人達だけでなく、最初に組織できっちりとした教育を受け、途中で独立し、市場で自分を鍛えながら成長を続ける人達はたくさんいる。でも今後は、最初の最初から市場で育たなければならない人も増えてくる。だとしたら・・・

メディア界の話だけじゃない。どの業界でも同じことが起こり始める。今でも、大手の企業は組織として人材を育てる力に溢れている。(だから学生は大手企業に殺到する。)でも彼らが抱えられる人材は多くない。人口の減る日本ではどんどん減る一方だ。しかも別の理由で、最初から市場で勝負しようという優秀な学生もでてきている。


市場だけでも育つことの出来る人を増やさないと、どの分野、どの業界でも人材の質が落ちてしまう。組織の人材育成機能が低下する中、市場の人材育成機能を強化する必要がある、という話です。

「市場で人を育てる」ということについて、今までのような完全なジャングルルールではなく、なんらかの「インキュベーションシステム的なプラットフォーム」が必要になるよね、とちきりんは思ってる。この話はまたそのうち。


そんじゃーね。



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