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Chikirinの日記 RSSフィード

2011-01-16 戦後の世界経済が俯瞰できる本

「今年は無職だし、本でも読むか」ということで、「月に2冊は本を読む。(ただし暇な月のみ)」という目標を立てました。やや目標が低めではないかと思われるかもしれませんが、これでいいんです。あんまり高い目標をたてると大変ですから。


で、早速1冊読んでみました。


尊敬する野口悠紀雄先生の本です。元々は2008年-2009年の週刊東洋経済の連載なので、ちきりんも一度は読んでるんですけど、本で通して読んでみたらその内容が非常によく理解できました。

戦後の世界経済の変遷が概観されてます。(本のタイトルとはやや違います。)ここでは世界大戦が終結した1945年からリーマンショックの2008年までを、ほぼ20年ごとに分けてみてみましょう。(赤横線の区分)

ステージ1: 1945年から50年代、60年代

ステージ2: 1970年代と80年代

ステージ3: 1990年代と2000年代(リーマンショックまで)


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50年代、60年代のステージ1は“ブレトンウッズ体制”です。1944年に米英中心に戦後の国際金融と貿易の枠組みを取り決めたもので、“金1オンス=35米ドル”という金兌換制度がとられました。また他の通貨は、米ドルとの交換比率で固定されました。これにより米ドルは公的に世界の基軸通貨と認められ(その責務を負わされ)たのです。71年にニクソン大統領が「ドルの金兌換停止」を宣言するまで、世界はこの枠組みの中にありました。

ステージ2の70年、80年代は、ブレトンウッズ体制が崩壊し、世界の通貨が「変動相場制」に移行した時代です。変動相場制により世界経済は市場としてつながり、「通貨の市場」が出現します。またオイルショックがあり、膨大なペトロマネーがこの「通貨の新市場」に流入します。こうして、後の金融業勃興の条件が整ったのです。

ステージ3は90年代と2000年代で、日本にとっては失われた20年ですが、世界は再生と繁栄の新時代です。冷戦構造が終焉を迎え、ユーロが地域統合し、IT革命と金融産業の大勃興が起こりました。


さて、戦勝国である米国・英国、敗戦国であったドイツと日本、そして共産国となった中国、ロシア(ソビエト)について、それぞれの時期に何があったかをまとめたのがこの表、グレーはその国の調子がよくなかった時代(濃いほど悪い)、オレンジはその国が調子がよかった時代を示しています。(濃いほど勢いがある時代)

各国が調子がよかった時代(オレンジ)を丸で囲んでみると下記のようになります。


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まず赤丸。ステージ1→2→3と、世界の繁栄(オレンジ色)は20年ごとに「英米→日独→中ロ」の順で移動しています。

これを野口氏は「工業化による経済成長」と呼びます。この時期にそれぞれの国で、農業から工業へ、第一次産業から第二次産業にシフトが起こり、生産性が大幅に改善したために経済成長したのです。(正確には上図の英と米は反対に配置すべきでした・・)

では、青い丸は何でしょう?これは、「工業化」による経済成長を終えた国が、2番目の経済成長のために「脱工業化」するプロセスです。「工業化&脱工業化」が経済成長を呼ぶのです。


第1回目の経済成長である「工業化」の原動力はイギリスで起った産業革命であり、2回目の「脱工業化」の原動力はアメリカで起ったIT革命です。しかし、これらの技術革新だけでは社会は変わりません。技術に加えて社会を変えるためのリーダーが出現する必要があるのです。

今度は下表で1980年代の行を横に見て下さい。アメリカにはレーガン大統領が、英国にはサッチャー首相が、中国には小平氏が、そしてロシアにはゴルバチョフ書記長(大統領)が現れます。(日独については後で)


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どこの国にとっても「脱工業化」はつらいプロセスです。「(過去の繁栄をもたらしてくれた)ものづくりで将来も生きていくべきだ!」という人達がたくさんいるからです。彼らの多くは成功者であり既得権益を持っています。それらを抑えて改革を進めるリーダーがでてこないと社会は変わりません。

脱工業化の苦悩といえば、英国が長く“英国病”に悩まされたことは、よく知られています。けれどアメリカも同様に苦しんだことは忘れられがちです。アメリカも当時(今の日本と同じように)深く傷つき苦しんでいました。

ベトナム戦争による疲弊、「白人支配の国」という価値観の揺らぎ(by公民権運動)、二度にわたるオイルショックで全く売れなくなった燃費の悪いアメ車、それなのにストに明け暮れる労組労働者、繊維、鉄鋼、テレビ、自動車とすべての工業セクターを潰しにくる日本製品、結果として価値が下がり続ける米ドルに、イランで人質になった大使館員を救出できない頼りない軍と大統領・・・

アメリカは世界大戦後「ずっと強かった」わけではありません。1950年、60年代、「圧倒的な繁栄」を誇っていたこの大国は、70年代にかくも深く落ち込んだのです。

英国にとっても米国にとっても(今の日本と同様に)「脱工業化」の道は厳しく苦難の道であったのです。そして人々は、その苦難を終わらせてくれる強いリーダーを求めました。


そこに現れ、1980年代に米英復活の指揮を執ったのが、レーガン大統領とサッチャー首相です。彼らはケインズ的経済政策や社会主義的な管理体制に徹底した嫌悪感を持っていました。たとえ痛みを伴う改革を行っても「自由な市場に任せること」こそが復活の道だと信じました。こういった考えのリーダーの出現とIT技術の勃興が、「2回目の経済成長=脱工業化」を米英に、もたらしたのです。

一方の中国とロシアにも同じ80年代に希有なリーダーが現れました。「開放」を掲げ、共産主義の国に市場主義を持ち込んだ小平氏、そして、共産主義を名実共に終わらせたゴルバチョフ氏です。

英米で新自由主義的な政策を掲げたリーダーが筆頭に立った80年代に、奇しくも中国とロシアでも「社会主義から市場主義へ」の大転換が起りました。どの国でも1980年代に国の構造の大転換が起ったのです。


その頃、日本は?

・・・ばぶってました。ばぶるに浮かれ、国の構造の大転換が必要とは誰も考えていませんでした。寧ろ、新卒採用から終身雇用につながる既存の日本的経営システムを賛美する声ばかりが存在したのです。


ドイツはどうでしょう?彼らもこの時代に文字通り「国の枠組みを変える」流れに飲み込まれています。最初が「東西ドイツの統一」であり、次が「マルクのユーロへの統合」です。ドイツもまた大きな構造転換を経験していました。



というようなことが、(このエントリの4000倍くらい詳しく洞察に溢れた形で)まとまっている本です。「日本はこれからどうなるんでしょう?」的な議論をしたい人には必読の書でしょう。


そんじゃーね。