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Chikirinの日記 RSSフィード

2011-02-23 ライターとカメラマン

職業として文章を書く人(広義のライター)と、写真を撮る人(カメラマン)って似てるよね。たとえばこんな↓感じで共通点が多い。

(1) 元々なりたい人が多くて供給過多 なところに

(2) ネットインフラや簡易機材の進化で、ハイスキル素人が大量に市場参入


(3) でも市場が効率的でないからチャンスは偏っており、ごく一部のトップに仕事が集中

(4) そのため大半の人がワープア


(5) 体系的な職業訓練が受けられる組織が限定的 (だから自己流か徒弟制でワザを磨くしかなく)

(6) 仕事の種類には厳然たるヒエラルキーがある。


(6)のヒエラルキー構造も酷似していて、内部の人が「こっちの仕事のほうが高尚である」と思っている順に並べると下記のような感じ。ちなみに赤字は全体に占める人数の比率(ちきりん)推定値。


1.アーティスト ・・・0.1%未満

・カメラマンの場合=写真が美術館に飾られる。個人で個展が開催でき、作品が売れる

・ライターの場合=文芸作品、批評などの分野の作家で、権威有る賞の受賞者、さらには選考委員である大先生。ノーベル賞候補だったりもする。


2.商業トップ・・・0.9%

・カメラマンの場合=一流企業の広告撮影(被写体はトップ女優や海外ロケなど)を担当。有名女優の写真集カメラマンにも指名される。

・ライターの場合=推理小説やサスペンス、娯楽小説、エッセイなどの分野で、出版する本のすべてがベストセラーとなる。


3.商業ハイエンド・・・4%

・カメラマンの場合=一流媒体向けにモデルを撮影。もしくは一流メディアと契約。写真で食べていける。

・ライターの場合=複数の著書があり、雑誌やメディアに掲載枠をもち、文章で食べていける。


4.商業マス・・・15%

・カメラマンの場合=通販雑誌、情報誌、折り込み広告の商品写真からカフェメニュー写真やカットモデルの写真、地域の学校イベント写真まで、幅広く仕事を請け負う。なりふり構わなければなんとか食べていける。

・ライターの場合=街角配布型の無料雑誌の記事、特集雑誌の一部担当、ウエブ媒体での連載、パンフレットの文章作成、インタビューの書き起こしなど、頼まれた仕事は全部受けて休日もなく走りまわり時には経費も請求できない。なりふり構わなければなんとか・・・。


5.大半(上)・・・30%

・カメラマンの場合=選り好みしなければ月に複数の仕事が入るが、カメラだけではとても食べていけない。撮影時間より、勉強時間や営業にかけている時間のほうが長いくらい。

・ライターの場合=同上


6.大半(下)・・・50%

・カメラマンの場合=友人知人依頼のボランティア的な仕事しかない。ごくたまに低額な報酬を受け取るが、主な生活の糧はバイト、配偶者の収入など。

・ライターの場合=無料のブログやウエブ媒体記事のようなボランティア的な仕事しかない。ごくたまに低額な報酬を受け取るが、主な生活の糧は同上。



7.番外:戦場カメラマン(含一発屋タレント)&戦場ジャーナリスト



おそらく市場構造自体は昔から変わってないのだけど、今はネット時代でどんどん“副業系”の人が参入して価格破壊が起こり、プロを目指す人にはより厳しい時代になりつつあるのでしょう。


で、こういう状況が根本的に改善されるには、ふたつの方策が必要で、それは

(1) 市場自体を拡大する(需要拡大)

(2) 実力のある人が迅速に見つけられ評価される“市場の構築”


と思っていたら、おもしろいサービスを見つけたのでご紹介。


これ↓

“あなたのランをプロが撮る!”


フォトクリエイトという会社がやっているサービスで、たとえば東京マラソンの時、各スポットにプロカメラマンが待機していて、走ってきた人の写真をどんどん撮影する。ランナーは後からウエブに掲載された写真を見て、気に入ったらその写真を購入するというサービス(ビジネス)。

類似サービスで原始的なのだと、観光地でフェリーに乗る時に勝手に撮影され、降りた時に「一枚千円」とかで(買っても買わなくてもいいけど)販売してる、のがよくあるでしょ。

あれだと自分達のカメラでとるのとたいして変わらないけど、マラソン途中の臨場感ある写真は素人撮影では難しいし、家族が撮るにしても1地点でしか撮影できない。でもこうやって複数地点でプロに撮ってもらえて、スポーツ雑誌に掲載されるような“かっこいいモード”なスポーツ写真になるなら、それはなかなか素敵かもしれない。しかも複数ポイントで撮影された写真を比較して、一番気に入ったのだけを買えばいい。

というわけで実際、結構人気なんだそうです。特に東京マラソンなんて素敵な写真が残れば一生の思い出になるし。


んでもって今回ちきりんがおもしろいと思ったのは、この「全体の仕組み」です。これ、フォトクリエイトに多くのフリーカメラマンが登録し、フォトクリエイトが日本各地のスポーツイベントの主催者と交渉して写真撮影機会を開拓してカメラマンを送り込む、という仕組みになっている。

このページをみると、スポーツだけじゃなくて学校とかサーキット、ダンス大会やステージなんかにもプロカメラマンを送り込んでいるようです。たしかに動きの速いサーキットやダンス大会なんかも、素人とプロの写真では相当クオリティが違うんじゃないかと思えるので、いいサービスかもしれません。これからは主催者側から「是非派遣してほしい」みたいなのもでてくるかもしれない。


でね。これってつまり、フォトクリエイトという会社は「プロカメラマン」が活動できる市場の新規開拓を担当している、とも言える。もちろん第一義的には自社のビジネスのためにやってるんだけれど、個別のフリーカメラマンがあちこちのスポーツ主催団体と協議して市場開拓するなんてまず無理なわけで、その意味ではこの会社、カメラマン界(?)にそれなりの貢献をしてると言ってもいい。

さらに当然「誰が撮った写真がよく売れる」というフィードバックがフォトクリエイトにもカメラマンにも入るだろうから、売れる写真が撮れるカメラマンはどんどん大きな大会に呼んでもらえるようになる。その中から、上記に書いたヒエラルキーを越えてキャリアアップしていくカメラマンがいてもおかしくない。そうです、「効率的な市場」が形成される一助となるわけ。

となると、上に書いた「解決のために必要なふたつの方策」そのものでしょ。


しかも東京マラソンのように大きなイベントだと、同じスポットで複数のカメラマンが撮影するから、カメラマンにとっても、「自分と同じ立ち位置で撮影した別のカメラマンの写真」を見ることができて、撮影技術の勉強という意味でも役立ちそう。徒弟制度だと自分の師匠の技しか学べないけど、これならいろんな人のスタイルを学べる。

それはつまり、組織による育成機会に恵まれないフリーの人達に、「市場による育成機能」が提供される、ということでもある。


というわけで、別にこの会社(=フォトクリエイト)はカメラマンの育成やら市場化を目的としてるわけではなさそうだけど、でも結果として“けっこういい感じ”になってるんじゃないかと思った。


そんじゃーねー!