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Chikirinの日記 RSSフィード

2011-10-25 摩擦回避か生産性重視か。コミュニケーションのトレードオフ

何かについて議論する時には、コミュニケーションの生産性を優先すべきか、それとも、できる限り摩擦を避けるべきか、というトレードオフが生じます。

たとえば、ランチについて 3人で話し合う場合、全員が摩擦を避け、「なんでもいいよ」と自分の好みを言わないまま済ませようとすると、「何を食べに行くか」という結論を出すのに余分な時間がかかります。

一方、ひとりひとりが「オレはなんでもいい」「オレは和食か中華がいい」「オレは和食だけはイヤだ」と自分の主張を明確にすれば、「じゃあ、中華に」とすぐ結論がでます。


このように、個々人が主張を明確にした方が結論が早くでる(コミュニケーション効率が高い)ことは間違いないのですが、そうすると意見の相違も明確になるため、それを嫌がる=できるだけ避けたがる組織や個人も存在します。

個人や組織の性格によって、どちらを優先すべきかという志向が異なるのです。


★★★


ところが、この優先度が「人や組織によって異なる」ことを、意識したことのない人もたくさんいます。

そういう人は、自分より生産性重視の人に会うと、「あの人はずいぶんズケズケとモノを言う」と不快に感じるし、

反対に自分より摩擦回避重視の人に会うと、「何が言いたいのか全然わからない」とか「なんでそんな回りくどい説明をするの??」などとイライラします。


一般的に、外資系、特に米系の金融業やベンチャー企業では「少々摩擦が生じても、生産性を重視すべき」と考える人が多く、保守的な日本の大企業では「できる限り摩擦を避けるのが大人の作法」だと思われています。

だから、日本の大企業から外資系やベンチャーに転職すると、「すごいギスギスした職場だ!」と感じたり、「攻撃的な人が多い・・」と戸惑ったりします。

転職してしばらくは、「この組織は摩擦回避より、生産性を優先する組織なんだ!」と気がつかないからです。


反対の方向に移動した場合は、「おっとりした会社だな」と感じ、「みんなもうちょっとはっきりモノを言った方がいいのでは?」と感じます。

摩擦を避けようとするあまり議論に時間がかかり過ぎたり、コミュニケーションが不明確になって誤解を生じたり、はたまた、全員が遠慮しすぎて話がこんがらがったりすると、「こんなやり方では、あまりに非効率では?」と思えます。

また、この「コミュニケーションにおける、生産性と摩擦回避の選好度レベル」は国によっても大きく違うので、日本からアメリカや中国に行った場合なども、その違いに驚く人はたくさんいます。


★★★


効率がすべてと考える企業では、みんな日頃から「摩擦を避けるな!」と教えられており、それらの組織内コミュニケーションは(摩擦回避型の人から見ると)めちゃくちゃアグレッシブに見えます。

でも本人達はそれを「素早い意思決定ができる効率的で理想的なコミュニケーション方法」だと思っているため、多くの社員が、「自宅で職場と同じような話し方をして、家族を怒らせてしまった・・」という経験をしています。

家族なら後から関係修復もできますが、会社でやっている生産性重視、摩擦軽視のコミュニケーションを私的関係に持ち込んで、友達関係や恋人関係をぶっ壊してしまう人もいます。


私が長く勤めていた外資系企業でも「摩擦を避けず、最も生産性の高い方法で議論する」のが組織のルールでしたが、これを外部の人とのコミュニケーションに持ち込むとややこしいことになるのは目に見えているので、外の人と話す際にはそれなりに気を遣います。

特に初めて会った人については、相手の「生産性と摩擦回避の選好度合い」を注意深く探りながら、そのレベルに合せて自分のスタイルを調節します。


さらに、相手が摩擦回避型の場合、「結局、あなたの言いたいことは何?」を探るために、こちら側が頭をフル回転させて想像したり探ったりもします。

それって結構、大変なことなので、そういうことを気にしなくていい人との会話は、めちゃくちゃラクに感じるわけです→ 関連エントリ


いずれにしても、「異なるタイプのコミュニティを経験する」ことは大事です。

ひとつのコミュニティしか知らないと、そこで学んだ「摩擦回避の度合い、生産性重視レベル」を常識だと思い込み、それ以外のスタイルの人には違和感や嫌悪感を感じるだけで、単に「摩擦回避レベルが違うだけ」だと思い至りません。


誰でも、初めて社会人になった時に所属してた組織や業界のスタイルを「普通のスタイル」だと思い込みがちですが、もしかするとそれはものすごく極端な場所かもしれないわけで、

自分や、自分が所属する会社、業界が、世間的にみてどれくらい(生産性側、もしくは摩擦回避側に)偏っているのか、一度は意識しておくとよいかと思います。


そんじゃーね。


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