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Chikirinの日記 RSSフィード

2012-03-28 4月から新社会人になる皆さんへ

読者の方の中には、来週から新社会人になるという人もいますよね。

なので今日は、それらの方々への「贈る言葉」を書いてみます。

自分が社会人になったばかりの時のことを思い出し、その頃、何を言われてたらよかったかな、と考えながら。


1.自立しよう!

まずはコレに尽きます。いろんな意味で早めに自立しましょう。

日本では法的には 20歳で大人になるけれど、この時期は当時の私もそうだったように、大半の人が親に食べさせてもらっていると思います。働き始めたら、まずは経済的に自立しましょう。

まだまだ先のコトに思えるかもしれないけれど、あなたもそのうち、自分の子供を養い、さらに自分の親を養わないといけない時がやってきます。

加えて社会にだって、なんらか返していきたいと思っているはず。その第一歩が、まずは自分で食べていく、ということです。

仕事の上でも、できるだけ早く自立しましょう。

上司がいなくても、先輩がいなくても、なんとか仕事がこなせるように。必要な知識やスキルを貪欲に吸収して、早めに一人前になりましょう。



2.自分のコアを見つけよう!

最初の 3年から 5年の間に、自分の“コア”を見つけましょう。

私の場合、最初の 5年をバブル期の証券会社で過ごし、「マーケットとは何なのか」という感覚を、身を以て学び、身につけました。

この「市場=マーケット」に関する感覚を身につけたことが、今にいたるまで「ちきりん」のバックボーンとなり、私が食べていくことの根源的な価値を供給し続けてくれています。

何が自分のコアになるのか、すぐにはわからないだろうし、そんなに明示的に示されるわけではありません。

だけど 3年から 5年たったとき、「自分はコレを信じてる!」というものが必ず見つかります。

それを大事にしましょう。

それにこだわりましょう。

自分が働いていく上で、判断をする上で、迷った時にはいつも拠り所となりうる、最初の“コア”をぜひ手にれましょう。



3.自分のアタマで考えよう!

社会人になると、学生の時には見えていなかった驚くべき世界が目の前に拡がります。

その中には、ワクワクどきどきのすばらしいダイナミックな世界もあれば、「まじかよ、これ?」みたいな世界もあります。

世の大人達は、すべてを受け入れろ、すべてを飲み込めと言ってきます。

でも、どんな時にも、自分のアタマでよーく考えましょう。


明らかにおかしいと思えることを、思考停止して飲み込んでしまったら絶対にダメです。

それを飲み込んだらその時点で、人生の最初の、大事な大事な分岐点で大きく間違った道を歩むことになってしまいます。

自分のアタマで考えて「これは違うだろ?」と思ったら、その感覚をどうぞ大切にして下さい。



4.自分を大事にしよう!

仕事も会社もキャリアも、家族も友人も仲間も大事だけれど、なによりもまず自分を大事にしましょう。

「自分さえ我慢すれば」とか「自分が犠牲になれば」というのは、ほとんどの場合、欺瞞に過ぎません。

自分の価値を、まずは自分で信じましょう。私たちは皆、生きているだけで大きな価値があります。


誰も評価をしてくれなくても、自分があまりにつまらない人間に見えても、あなたにはあなたの価値がある。

まずは自分で、「オレは(私は)ものすごく価値のある人間だ!」と思い込みましょう。


大変なこともあるでしょう。つらいこともあるでしょう。

でも、自分を責めすぎないようにしましょう。

自分を痛めつけすぎないようにしましょう。

時にはさっさと逃げ出しましょう。

自分のことを、自分でうんと大事にしてあげましょう。



5.人生を楽しもう!

人生を楽しみましょう。

働くことは、つらいことでも我慢すべきことでもありません。

働くことは喜びです。自分が生み出すものに誰かが対価を払ってくれるというのは、驚くべき僥倖です。

仕事以外でも、趣味も、恋愛も、冒険も、興味のあることは全部やってみましょう。 

20代に持っているものの大事さは、40代になったらよくわかります。

やりたいことは全部やっておきましょう。

楽しいと思えることを先延ばしにするのは愚行中の愚行です。今やりたいことは、今やるんです!


新しい人生を楽しんでください。私は(今はチンタラしているけれど)バリバリ働くことも大好きでした。

Welcome to the real world !


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そんじゃーね!


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2012-03-24 エンジニア人生のリアル

セブ島のビーチで読んだ『世界で勝負する仕事術』〜最先端ITに挑むエンジニアの激走記〜がおもしろかった。

著者の竹内健氏は、1967年生まれ、東大工学部から「誰もやっていないことをやりたい」と研究者を目指して修士課程に進学。

「企業への就職など考えてもいなかった」のに、東芝の企業訪問に誘われ、ちょっと行ってみたら舛岡富士雄氏の熱いトークに感激し、一転、就職することを決めます。

しかし「入社したら話が全然違った!」、理想と現実はかけ離れており、入社後は延々と誰でもできる単純作業をやらされるはめに・・。

・・超ありがちな話ですね。

少々優秀でも、学生なんて社会人の熱い言葉にはコロッとだまされるし感動するし、志高く入社してみたらすべてが嘘ばっかりだし。今でも竹内氏と同じ思いをしている学生さんは、毎年 3000人くらい、いそうです。


その後、氏は「執念で雑用からはい上がる」と決め、「突然の研究所閉鎖、そして冷遇」にも負けず、「会社が認めないなら、世界に認めさせてやる」と奮起します。

会社が開発中止を指示した「多値フラッシュメモリ」の研究を、上司の目を盗んで進めたのです。この技術は今、ほぼすべてのフラッシュメモリで使われています。

しかし「フラッシュメモリが事業として成功した時には、こうした自称立役者がたくさん現れ、成功の果実を奪いあいました。私もドロドロした人間模様に巻き込まれることになり、それが後に東芝を去る一因となりました。」


そして、「当時そういう自覚はなかったのですが、フラッシュメモリが注目されていない時に、論文を書いて特許を取り、自分がオリジナルの開発者である客観的な証拠を残したことはとても重要でした」、なぜなら、

「私が大学に移ってから様々な企業と共同研究をしたり、国家プロジェクトを受託できるようになったのは、フラッシュメモリがマイナーだった90年代に、私が学会で論文を発表したり特許をとったりしていたのを、東芝以外の方々が見て、評価してくださっているからです」

つまり、組織内の評価より市場の評価を築いておくことが大事ってことですよね。


その後、竹内氏は技術留学を勧める会社と掛け合い、MBA留学を目指します。スタンフォード大学 MBAに進むのですが、そのことに「技術部は大賛成、人事部は大反対」だったそうです。

技術部の人たちが賛成してくれたのは、「これから新事業を立ち上げ、市場を広げる必要に迫られているのに、技術者だけで固まっていて、ビジネスの進め方がよくわからない状態でいいのか。みんなそういう危機感を抱いていたからだと思います」とのこと。


留学先では「英語の壁に阻まれ、人生初の劣等生に」なりながらも、MBAで行われている教育が「金の亡者になるための授業ではない」と理解し、「意外にもウエットなシリコンバレー」で大事なのは、「業績以上にものを言う、コミュニティ内での評判」だと気づきます。

そして「「会社を変えてみせる」という決意を胸に」東芝に戻り、花形ビジネスとなっていたフラッシュメモリ事業でプロジェクトマネージャーに任命され、MS,インテル、アップルなどと関わりながら活躍します。


この経験の中、氏が高く評価しているのがアップルで、「アップルはデザインやユーザーエクスペリエンスばかりもてはやされがちで、「アップルには技術がない」などという人もいます。

これは大いなる誤解です。自ら半導体の開発こそしていませんが、技術を理解して、半導体メーカーをリードしてきたのはアップルです」とのこと。


その後、特許訴訟でアメリカの法廷に立ったり、SSCCという半導体回路技術で最も権威のある国際会議で賞を得たりと活躍されるわけですが、その頃、東芝の過去の主力だった DRAM事業がサムソンなどに圧倒され、東芝はDRAM部門のリストラを余儀なくされます。

その結果、当時儲かっていたフラッシュメモリ部門に、DRAM部門の人材がたくさん送り込まれてくるわけですが、彼らは年齢が高いため、年功序列人事に沿って、フラッシュメモリの技術者の上司になります。

著者は書いています。

「事業に失敗した人たちが、成功しつつある事業に吸収され、組織の中で、成功の立役者の上に立つ、というのは欧米企業ではありえません。ところが、日本の年功序列の人事制度では、当たり前のようにこのようなことが起こります」と。

そんな理不尽に「戦友が次々と東芝を去っていく」中、竹内氏も「一晩で決めた東大への転身」とあるように、東大の准教授への転職を決意します。


しかし、東大も大変です。企業とはかってが違い、「「企業出身者は悲惨だぞ」と脅されて・・・」、研究資金も事務サポートもなく、どうやって成果をあげればいいのか、呆然とする状態に。

そんな中でも著者は「「東芝あっての竹内」とは言わせない」と奮起し、「最初の一年で世界最大の学会(ISSCC)に論文を通すと決意」します。

この気持ち、ちきりんにもよくわかります。

(竹内氏の実績とは比べようもありませんが)私も“組織名あってのちきりん”とは絶対に言われたくありません。“自分の価値は、自分が所属した組織にあるのではなく、自分にある”、これはプロフェッショナルの基本的な覚悟でしょう。


その後は、「研究費獲得のための公募連敗から学んだこと」を活かして、数多くの研究資金を獲得、「 MBAで学んだことがそのまま役に立つ」と感じ、実績をあげつつも、「教育と研究開発のジレンマ」に悩み、「優秀な技術者がどんどん日本から去っていく」現実にため息します。

ちなみに、技術者は日本からどこに去っているのでしょう? 欧米ではありません。「そこから飛び出した優秀な技術者の多くは、韓国や台湾などにわたってしまいます」なのです。


ここから先は竹内先生の本をお読みください。


★★★


この本は、東芝、日立、NEC、富士通、パナソニックからソニーまで、日本の一流と言われる技術系メーカー、特に大企業に入社する理系学生さんに、是非読んでもらいたいと思います。

著者とちきりんのバックグラウンドは 180度といっていいほど異なります。にも関わらずこの本には、いつも私が言っているのと同じことがたくさん書いてあります。

「誰も注目していない分野、歴史の浅い分野を狙う」という竹内氏の考え方は、私が『ゆるく考えよう』で、“もっとも大事な戦略は、勝てる市場を選ぶこと”と書いたのと全く同じです。

「積み上げ式で考えていたら何もできない」、「挑戦しないことが最大のリスク」なのであり、「いま旬の分野でポジションを守るのは消耗戦」だ、「勝ち残るのは、見る前に跳んで、たくさん失敗した人」だ、などの主張も、ちきりんがいつも書いていることと同じです。


“Chikirinの日記”を読んでくださっている理系の方、技術者の方の中には、頭ではその意見に納得しつつも“ちきりんの主張はもっともにも聞こえるけど、ほんとに自分にも当てはまるのかな? ちきりんは技術者じゃないし・・”と思われている方もいらっしゃるでしょう。

そういう方に是非、この本を読んで欲しいです。東大工学部、修士課程から東芝に就職し、フラッシュメモリのプロジェクトマネージャーを務め、多くの特許や論文をもち、今は東大の工学部の准教授である竹内健氏が同じことを言うのなら、みなさんにも信じられるはず。


なによりもこの本には、工学系の学部をでて、一流と言われる大企業に就職するエンジニアの人たちが直面するであろう、多くの事柄の“リアル”が記されています。

若手エンジニアがキャリアを積む中で直面する様々な判断ポイントが具体的に描かれ、それぞれのポイントで竹内氏がどう決断したかが描かれているのです。

こういった企業への就職を目指している方、内定者、入社数年目までの方にとって、キャリアの道標となりえる一冊だと思います。

もちろん、私のような完全なる門外漢にも日本のものづくり企業の内情がよくわかる、興味深い本でした。読めてよかったです。


当エントリで「  」内に記載した文章は、すべてこの本からの引用です。“ ”の中の文章は、引用ではなくちきりんの文章です。


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2012-03-21 間欠泉的キャリアの薦め

10日間ほどセブ島の英語学校に滞在していました。日本から来ている生徒さんは、春休み中の大学生と、30代、40代の社会人が半々程度。

そのうち社会人の方と話していて「なるほど!」と思ったのは、その多くが転職の合間の留学であり、かつ、次の仕事を見つけることにほとんど不安のない人たちだと気づいた時でした。


今の日本で、退職して語学留学するなどインターバルをあけても再就職に困らないのは、どんな職業でしょう?

ひとつは、医療・介護系です。看護士や薬剤師はもちろん、介護士、保健士、医療関係の技師、理学療法士、言語聴覚士などのリハビリエキスパート。この分野は圧倒的な需給ギャップがあり、どこもかしこも常に求人がかかっています。

なので、いったん会社を辞めてブランクをつくっても、次の仕事には困らない。海外に英語を勉強しにいったり、旅行をしたり、リフレッシュしてから次の仕事に転職する、ということが可能になるのです。


もうひとつの職種は、IT関係のスキルを持つ人たちです。プログラマーであったりウエブデザイナーであったり、エンジニア以外でもウエブやスマホ、ソーシャルなんちゃら関係のお仕事の方々ですね。

この分野も今はほぼ失業を懸念する必要がありません。一定の経験とスキルがあれば、職場とは選べるものであり、引く手あまたなのでしょう。


ちきりんは今回、こういった職業に就くことの大きなメリットを現実に目にしました。再就職に不安を持たなくていい仕事を得ると、「何年か働いたら、何ヶ月かは休みをとる」という働き方が可能になるのです。


同じく英語を学びに来ていた、卒業まであと1年という学生さんが、「就職したらもう休めないから、残りの一年はひたすらダラダラしたい」と言ってたので、「20代のくせに、1970年代の日本人みたいなことを言うのね・・」とからかったのですが、今までの日本人はまさに「就職したら、次の長期休暇は定年後」を覚悟していました。

特に、「就職勝ち組」とされる大企業や公務員組織へ入った人の多くは、一生転職もしないので、長期休暇がとれるのは家族が死んだ時と新婚旅行だけ、とさえ言われます。

そういった企業から派遣されて海外留学する人が、留学中ひたすら旅行とゴルフと家族サービスに熱中するのも、「これが個人生活を堪能できる最後のチャンス!」という悲壮感をもっているからでしょう。


ところが大企業や公務員になるのではなく、需要が圧倒的に大きな市場において「手に職」をつけることで、それとは一線を画した新しい働き方を手に入れることができるのです。

それは一定期間働くごとに、リフレッシュや個人の趣味のために数ヶ月の休みを挟みながら働く「間欠泉的キャリア」です。

休みの間に世界放浪をしてもいいし、英語留学や中国留学を挟んでもいい。趣味について極めるため専門学校にいくもよし、子育てに没頭するもいいでしょう。

本当の意味で「手に職」があり、恒常的に人手不足の業界でキャリアを築くと、こういうキャリア形成が可能になるのです。


今までは公務員になるとか、大企業に入って一生働き続けることが得な(いい)キャリアだとされていました。

でも、ちきりんもそうなのですが、「たとえ大企業で環境や条件がよく、ステイタスが高くて仕事もおもしろい職場であったとしても、20代半ばから65歳まで40年間も働き続けるのは、あたしには無理!」という人は一定数いるはずなんです。

そういう場合、ちきりんのようにある程度のお金を貯めて引退するという方法もあるのですが、より現実的には、上に挙げたような分野でスキルと経験値を確保し、「働く」と「働かない」を繰り返して生きるという自由度を得る方法もあるわけです。


大企業に一生囲われて生きる「安泰だけれど中断できないキャリア」、それとは別の、「5年働いて数ヶ月休む」、「10年働いて2年間勉強する」、「3年働いて、半年は専業主夫」のような間欠泉的キャリア。

それぞれの人が、自分のむいている方を意識的に選べるようになったら、多彩な人生設計が可能になって、ちょっとはいい感じだよね、などと思ったのでした。


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2012-03-18 姓を変えるということ

以前、 「イクメンどころの騒ぎじゃない時代が来ます」 というエントリで、「出産のために仕事や働き方を変える」という判断を、これからは男性も迫られる時代が来るよん、と書きました。

それに加え、これも今のところ実質的に女性だけが背負ってるのが「婚姻による姓の変更」による諸処の負担です。


結婚により、複数の銀行口座やクレジットカード、オンライン証券会社の口座や免許類、保険からパスポートまで、あらゆるものの名義変更を実行する手間は、想像以上にめんどくさいものです。

それぞれに公的書類を添付して送らないといけなかったりするんですから。

ましてや離婚後、さらに再婚後に、いちいちすべてを変更するのは、マジで大変。


日本では夫婦は同姓である必要があり、どちらの姓を選択してもいいのですが、今は大半が男性姓を選びます。(別姓を選べない先進国は日本だけと言われてます)

最近は仕事上では旧姓を使い続ける女性も増えていますが、この使い分けも簡単ではありません。


パスポート、飛行機予約、そして最近は(セキュリティの理由により)ホテルの予約も原則として正式氏名でしかできません。

特に 911のテロ以降、様々な場面で公的 ID の提示が必須となったため、実務的に非常に面倒なことが起こっています。


たとえば、ニューヨークで取引先のオフィスを訪ねる。

でもセキュリティが強化されたため、事前に申請して入館カードを発行してもらう必要がある。

そのカードを、取引先の担当者が作っておいてくれたのだけど、そのカードの名前は当然に、いつもメールでやりとりしてる通称名で作られてる。


いざニューヨークに到着し、そのカードを受け取ろうとすると「本人確認のため、IDを見せてください」と言われる・・・でも、通称の ID なんて存在しない。パスポートは当然に(いつもは使っていない)正式名だから。

みたいなことが、あちこちで起こるんです。


それ以外でも、共に出張する上司や現地での取引先の人には、いつも使っていない正式名(=ホテルの予約名)を伝えておかないと、彼らはゲストがホテルに到着したかどうかの確認さえできない。

ホテル側は正式名でしか予約を把握してないし、取引先の人はいつも使ってる名前しか知らないから。


「それくらい簡単だろ」と言われるかもしれませんが、取引先がアメリカ人の場合、「ふたつの日本名」を正確に伝えるのは想像以上に難儀です。

ドタバタした出張直前のタイミングで、「私の入館証とかを用意してくれるなら、こっちがパスポートネームだから、これで作っておいてくださいね」とか、「ホテルの予約はいつもとは違う名前でしてるからね!」みたいなメールをいちいち送る面倒くささといったら・・。


ビザが必要な国での国際学会に呼ばれる女性研究者なんて、もっと大変な苦労をされているでしょう。これまでに発表した論文の著者名とビザの申請名が一致しないと、ビザ要件を満たしていると証明するのも一苦労です。

親を預けてる介護施設や子どもを預けてる保育園、家族が入院してる病院(←通常、正式名でしか利用できない)からの緊急の電話を同僚が取って、「○○さん? そんな人、うちの会社にはいません」って切っちゃうこともあります。

職場の同僚達は通常、本人の正式名を覚えていないので。てか、誰の名前が通称で、誰の名前が正式名かさえ、周りの人は知らないのが普通だからです。


★★★


また、結婚して夫の姓で仕事をしていた女性は、離婚した時に大きな問題に直面します。

離婚によって姓を変えたのに、「結婚されたんですね! おめでとうございます!」とお祝いメールを送ってくる同僚や取引先の人も少なくないからです。


私の知人には、それらの無邪気なお祝いにいちいち対応するのがめんどくさくなり、そんなに親しいわけでもない同僚や取引先には、

(実際には離婚したのに)「ご結婚ですか! おめでとうございます!」と言われると、「ありがとうございます」と答えている人までいます。

が、そうするとまた「お相手はどんな方ですか?」みたいにツッコンでくる人もおり、本当にウザイと言ってました。


みなさんも取引先の女性の姓が変更された時、その理由が「離婚ではなく結婚である」と確実にわかるまでは、あんまりプライベートな質問をしないよう気をつけてくださいませ。

相手が若く見えても、名前が変わった理由が結婚であるとは限らないんです。


さらに、こういった問題を避けるため(=周りの人に離婚したことを言いたくないため)、離婚しても姓を戻さず、職場ではずっと「元夫の姓」を使い続ける女性もいます。

で、転職のタイミングに合わせて姓を変える。


もっと大変なのが、結婚している間に名前が売れ、有名になった女性です。

彼女らの中には、ビジネス上の観点から離婚後も元夫の姓を使い続ける人がいます。

名前自体がブランドになってるレベルの人だと、離婚後に再婚しても、新たな夫の名前ではなく、そのまま元夫の姓を使ったりします。

おそらく継続的にテレビに出るレベルまで売れた女性の場合、離婚しても名前を変える人なんていないんじゃないでしょうか?

みなさんがよく知る「文化人枠でテレビにでてる女性有名人」の中にも、元夫の姓で活躍してる人、少なくないと思いますよ。


元夫としても、自分の名前で有名になった元妻をテレビで見るのは妙な気分でしょうし、新しい夫も「元夫の名前で大活躍する妻」を見るのは複雑な気持ちでしょう。

ふたりの間に子どもが生まれても、妻がテレビで紹介される時の名前は「前の夫」の名だし、妻が出版した本に求められたサインをする時も、そこに書く名は元夫の姓・・・


結婚しても離婚しても名前(芸名)が変わらないタレントさんや女優さんのように、

(たとえば広末涼子さんが常に広末涼子さんであり、松田聖子さんが常に松田聖子さんであるように)

自分もそうありたいと考える普通の女性の願いをかなえてくれるのが、選択制の別姓制度なのです。


私もすでに 7年もブログを書いています。もし私が本名でブログを書いていたとしましょう。

そして、ブログを書き始めた時に結婚していて夫の姓を名乗っており、その名前を開示していたとしましょう。


7年の間に離婚したりすれば、私は、

・姓を戻して、 6万 5千人のフォロアーと 5万人の読者に「離婚した」と開示するか、

・元夫の姓でブログを書き続けるか、のいずれかを選ばねばなりません。


全く知らない人にまで、そんな個人的な出来事を開示しなければならないなんて、本当にばかげたことだし、

個人的な事情で 7年間その名前で積み上げてきた認知度や信頼を手放さねばならないのも、容易には納得しがたいものがあります。


先日、飲みにいった知人は、ずっと前に離婚した際、「いろいろ聞かれるのがうっとうしいから、再婚するまでは元夫の姓のままでいく」と言っていたのですが、

最近は「もう再婚しない気がしてきた。とはいえ、このまま元夫の姓で死ぬのは絶対にイヤだ」と言い出し、

でもいまさら姓を変えて(「えっ、10年も前に離婚してたの?」などと)詮索されるのを避けるため、姓を戻すためだけに転職しようかとさえ考えています。


夫婦別姓の選択制に反対する人のなかには、「別姓にするとこんな弊害がある」とあれこれ問題を列挙する人もいるのですが、

私達が求めているのは夫婦別姓ではなく、夫婦別姓を(望む人だけが選べる)選択制の導入です。

別姓にすると問題が大きいと思う人に、むりやり別姓を選べと言ってるわけではありません。

そうではなく、こんなに困ってる人がいるのだから、できれば関係ない人には反対してほしくないってお願いしてるだけです。


先進国で唯一の日本のこの制度は、国際人権機関からも実質的な女性差別だ(形式的には平等でも実態的には女性のほうが姓を変えるのが当然とされている)と指摘され、是正を求められています。

離婚して心身ともに憔悴しきっている時に、「結婚したの? おめでとう!」とあちこちから言われる鬱陶しさを、男性の皆様にも是非、理解してほしいと思います。


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2012-03-15 Opportunity, Tool or Duty

縁あってセブ島で、英語学校に体験留学しています。寒くて花粉が舞う冬の東京から、明るく暖かいセブに移り、「やっぱり冬は南の島ですごすに限る」と実感。いろいろ「ひえー」なことはありつつも、楽しくすごしています。


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今日、初めてのレッスンで先生が“ What is English to you ? ”という質問を投げかけてきました。

皆さんなら、この問いになんと答えるでしょう?


私はなにげなく“ It's a tool to communicate with people in other countries. ”と答えました。日本人としてはきわめて一般的な答えだと思います。

でもその後で、「今、世界中の人が、必死で英語の勉強を始めている」という内容について先生とディスカッションをしながら、ちきりんは「そうか、だから日本人はなかなか英語が巧くならないんだ」と理解しました。


今、中国でもインドでも、南米でも東南アジアでもロシアでも、多くの人が必死で英語を勉強し始めています。もし彼らに「あなたにとって、英語とは何か?」と問えば、“ communication tool ”だなどと答える人は、決して多くないでしょう。

最も多い答えはおそらく“ Opportunity ”であり、“ Chance ”だと思うのです。


彼らにとって英語ができるようになることは、今の生活とはレベルの違う、よりよい生活を手に入れられることに他なりません。

英語ができれば海外に行けるかもしれない、英語ができれば高い教育を受けられるかもしれない、英語ができれば病気の家族を病院につれていけるかもしれない、英語ができれば欲しかったあの服を買えるかもしれない。

英語ができれば・・・自分にもそういった生活ができるかもしれないのです。


私の答えた“ communication tool ”とは、なんと牧歌的な言葉でしょう。

自分と違う価値観の人、自分と異なる文化の人と話ができたら楽しいじゃん! ブログネタも見つかるかもしれないし、などと考えている私の脳天気さをそのままに表す回答です。

そこには「今とは違う生活を手に入れたい」という思いも、英語こそが、自分を違う世界に連れて行ってくれる魔法の鍵であるという認識もありません。

私は単に趣味として、ちょっとばかし視野を広めたいという好奇心のために英語をツールと考えているに過ぎないのです。


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日本でも多くの人が英語を学び始め、自分の子供に英語を習わせる親も増えてきました。

そういう人たちに「あなたにとって英語は何ですか?」、「あなたが子供に英語を学ばせる意味はなんですか?」と聞いたら、どんな回答が多いのでしょう?


「最近は英語ができないと、会社でも肩身が狭いから」とか「英語ができないと将来、苦労しそうだから」と答える人も多そうです。

そういった言葉からは、英語を学ぶことを“ Duty ”と捉える人の姿が浮かび上がります。

英語を学ぶことは必須であり、義務であり、やらなくてはならないことであり、できないと困るから学ばせる、できないと苦労するから習わせる、のだとしたら、それは“ Duty ”です。

英語に限らず“ Duty ”だと思っている人が、“ Opportunity ”だと思っている人より、巧くできたり上達したりすることはありません。“ Tool ”だなどと、冷めた見方をしている人も同じです。


このページに掲載している写真は、この英語学校の食堂の食事です。

長くいる生徒さんに聞くと「ちきりんさんが来ることになったからか、先週から急に内容がよくなりました!」とのこと。それは何よりです。


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確かに私には十分に美味しい食事です。もちろん日本で食べているものに比べれば、かなり質素ではあります。この食事を「すばらしい」と思うか、「まあまあ」と思うか、「ひどいな」と思うかには、個人差があるでしょう。

「自分の子供に英語くらいは習得させたい」と思っている親御さんは、こういう食事を数ヶ月食べ続けながら、自分の子供が長期にわたってフィリピンで英語を勉強することになったら、どう思われるでしょう?

かわいそうだと思いますか?不憫に思いますか?それとも「うちの子にはこれなら十分!」と思われるでしょうか。ちなみに下記は併設の宿泊施設のベッドです。


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「あなたにとって英語とは何か?」と聞かれた時、“ Duty ”だと答える人にとっては、これはつらい環境かもしれません。

でも英語の習得が“ Opportunity ”であると即答する人達にとっては、こんな食事が一日3回きっちり用意される環境で英語を学べるなんて、すごく恵まれていると感じることでしょう。


「英語を学ぶことは大きなチャンスよ!」と、ごく当然のように言うフィリピン人の先生と話しながら、日本ではいったいどれくらいの人がこの質問に「英語はチャンスです!」、「英語は人生の機会への扉!」と即答するだろうと考えました。


もしも「英語はあなたにとって何か?」という質問への自分の答えが、迷うことなく" Opportunity ”であり“ Chance ”であったなら、何も心配することはないでしょう。そういう人たちは程なく英語をマスターし、望む機会を手に入れるはずです。


「英語は異なる価値観をもつ人たちとのコミュニケーションツールだ」などと、悠長なことを言っているバブル世代など放っておけばいいのです。


若者よ、チャンスをつかみましょう。

英語をマスターして、日本語だけの世界に生きていたら決して手に入れることができない、大きな機会をモノにするのです。



「あなたにとって英語とはなんですか?」

" What is English to you ? "



そんじゃーね

2012-03-11 311の後の「Chikirinの日記」まとめ

昨年の3月11日の後、東日本大震災、および、福島の原発事故に関して、このブログで書いたエントリをまとめておきます。

真面目なものもあるし、おちゃらけた文章もあります。こういった件について、おちゃらけた文章を読みたくない方もあるかもと思ったので、そういうのには★をつけてます。


・2011年3月13日: 「大惨事とミラクル

英語 Englishスペイン語 Espanolオランダ語 Nederlandsフランス語 Francaisポルトガル語 Portuguesイタリア語 Italiano )


・3月15日: 「首都大混乱 by「計画停電」」★

・3月18日: 「大混乱への便乗のススメ」★

・3月21日: 「生活支援生産性の高い街作り


・3月27日: 「「フクシマ以降」の時代

・3月30日: 「休眠口座とか休眠宝くじとか

・4月7日:「エネルギー史における中東と先進国


・4月8日:「「最悪の事態」は福島ではなく

・4月17日:「原発の名前は変えたらどうだろ?

・4月19日:「福島市の方からのメール


・4月21日:「東京電力があたしと同じくらいアホな件」★

・4月24日:「“絶対安全”という危険思想

・5月3日:「どこに避難します?


・5月5日:「観光客に背を向けるトーキョー

・5月15日:「国民負担はあたりまえ

・6月10日:「東京電力の新しい組織図を考えてあげた!」★


・6月26日:「壮大なる“よかった確認”

・7月24日:「自然エネルギーか原発かという議論の不毛

・9月5日「虚構の自由度、そしてその価値



そんじゃーね。

2012-03-08 日経平均を捨てて、日本を応援しよう!

先日、カリスマ・ファンドマネージャーの藤野英人さんと対談させて頂きました。

藤野さんは日系&外資系運用会社の勤務を経て独立。中小型株、成長株を専門とし、経営者インタビューや消費者目線での事業評価など、実地的な企業分析を重視して投資を行い、過去20年以上、そしてリーマンショック後も高い投資成果を実現されています。

ちきりんも自身で、株式、外貨、投信など投資をしていますが、藤野さんの本を読ませて頂いて再確認したことも多く、大変勉強になったので(対談記事はそのうちダイヤモンドオンラインに掲載予定ですが)今日は、藤野さんの本のポイントをまとめておきます。

それにしてもカリスマ・ファンドマネージャーとカリスマ・ブロガーのツーショットにもかかわらず、このホノボノとした雰囲気はどうよ?って感じですね。。。


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以下、本の感想より


その1 過去20年、日本はものすごく豊かになった

1990年から2010年までの日本経済は「失われた20年」と呼ばれます。けれど実際にはこの間、日本は本当に豊かになりました。

1990年、携帯電話を持っている人はほとんどいませんでした。インターネットも(特別な環境にいる人以外)誰も使っていませんでした。アマゾンも楽天もなかったのです。

新幹線の切符を買おうとしたら(一般的なクレジットカードはJRでは使えず)現金を用意する必要があり、お金をおろすには銀行のATMに並ぶ必要があって(コンビニにATMはありません)、振込みがしたいなら午後3時までに窓口に並べと言われたのです。

ユニクロのような高品質で安い衣料品もなく(1990年にはファーストリテイリングは、まだ小郡商事株式会社でした)、スーパーマーケットは午後8時には閉店していました。写真は撮った後に現像に出し、できあがりを見るまで、巧く撮れているかどうかさえわからなかったのです。

私たちの生活は、この20年で本当に便利になり、豊かになりました。20年は決して「失われた」わけではないのです。



その2 過去20年、日経平均への投資額の大半が失われた

では、過去20年の間に失われたモノはなんだったのでしょう? それは「株価」です。日本企業の時価総額と言ってもいいかもしれません。

1990年の年初、日経平均は「38,712 (.88)円」でした。(最高値はその前年末の38,915 (.87)円です)最近は9600円くらいですから、日経平均はこの20年で約4分の1になったのです。

これは、「もしこの20年間、日経平均インデックス投信を長期保有していたら、元本は25%になってしまった」ということです。TOPIXの方はやや穏やかではありますが、それでもこの20年で約3分の1になっています。まさに「失われた20年」ですよね。

もちろん20年の中にも浮き沈みはありますから、特定の時期を見れば上がっていた時期もあります。そしてそのことは、「日本の代表的な株式指標を見る限り、長期保有なんてしてたら絶対儲からない」ということを意味します。

この期間に市場インデックスで儲けようとするならば、リーマンショック直後など大幅に落ち込んだ時に買って、値がもどったらすぐに売る、など機動的に短期売買をするのが一番よかったのです。



その3 過去20年、多くの有望日本企業が現れ、急成長した!

藤野さんの本には、「2000年以降に株価が5倍になった株は、なんと783銘柄もありました。10倍になった株でも278銘柄に上ります。」と書いてあります。

そして実際に藤野さんはそういった株をコツコツと探し出し、投資をし、日経平均やTOPIXが下がり続ける中、ファンドマネージャーとして一定のリターンを確保してこられたわけです。

藤野さんは「今こそ日本株に投資すべき」と断言されています。それが具体的にどんな企業なのかや、基本的な投資に関する考え方に関しては、本を読んで頂ければと思いますが、私もこの本を読んで、日本株投資を再開しようかなという気になりました。


★★★


さて、この本における藤野さんのメッセージは、“はじめに”にある次の一文に集約されます。

「日経平均は死んだ」


この言葉をみた瞬間、「その通りだよね」と思いました。死んだのは、日経平均指数に組み入れられているような「過去の伝統的な日本の優良企業」です。こういった企業が今後、再生すると思うのであれば、日経平均インデックスを買うことには意味があるでしょう。でも、(おそらく)藤野さんも、そして私も、「それはもう起こらない」と思っています。

そういった会社は少しずつ衰退し、時に暴発し、そして消えゆく運命です。IBMのパソコン事業が中国のレノボになったように、ソニーのテレビ部門がサムソンになり(ブランドはそのまま活かされるでしょうが)、パナソニックの家電部門がLGやハイアールに成る日は、決して非現実的な未来ではありません。

先日、「変わらない。替るだけ」というエントリを書きました。日本経済の成長の原動力であったかっての優良企業は「変わることができないまま」、新たにでてくる企業に「替えられてしまう」のです。


繰り返しですが、過去20年、日経平均を買って長期保有していた大半の人が損をしているはずです。日経平均の主要構成株である多くの「過去の日本の優良企業」の株を持っていた人達も同じでしょう。

そういった人達は、「日本企業はもう成長余力はない。日本株への投資なんて無意味だ」と思っているかもしれません。

でも、そうではないのです。

死んだのは、日本企業でも日本経済でもなく、日経平均的なる伝統的大企業です。将来の成長余地がなく、衰退の道しかみえていないのは、日本経済ではなく、日本経団連企業です。


最近、投資というとFXが大流行です。でもちきりんとしては、やっぱり日本企業の株式で儲けようよ!という気持ちがあります。藤野さんも「応援するつもりでイイ会社の株を買おう!」とおっしゃっています。

この本を読んでちきりんは、「日本経済にも日本株にも未来がある」と再確認しました。「日経平均インデックスやTOPIX投信を買わずに、自分が応援したいと思える会社の株を買う」ことによって、私たちは日本経済の転換を応援することができるのです。



以上、本を読んで考えたことをまとめました。平易な文章なので、投資なんてやったことはないけど、株式市場とは何なのか? 企業に投資するというのはどういうことなのか? について、本質的なことを理解しておきたい、という人に向いてます。

加えて、今まで株式投資をやってきた人にも、もう一度、よく噛みしめてほしいことがたくさん書いてある本でした。

ただし(当然ですが)ここに書いてある株を買えば儲かる、とかいう話ではありません。じゃあどうすればいいのかって? それはもちろん『自分のアタマで考えよう』!


そんじゃーね。

2012-03-05 選挙制度を変えない限り、何も変わらない

衆議院も参議院も、長らく「一票の格差」が放置されたまま、全く改善が成されません。

既に最高裁で「違憲=憲法違反」状態だと指摘されているのに、政府も国会議員も「最高裁なんてみんな腰抜けだから、違憲判決は出せても“選挙無効”の判決はだせない。だからあんまり急ぐ必要もない」とでも思っているかのようです。

実際、裁判官なんて“超安定LOVER”(またの名を“事なかれ主義”)の人ばかりなので、どんだけ政治家に甘くみられても、選挙無効の判決なんて出さないでしょう。この国の司法は、やらなくてもいい余計なことばっかり口をだし、重要なことは何もやらないって感じがします。


加えて、ネット選挙の議論も全く進みません。この国の政治家は、「アジアの中でネット選挙が許されてないのは、共産党独裁の中国と日本だけ」みたいになり、「えっ?日本の選挙って、まだ手書きなの?」とか言われる時代にならない限り、そんなものには関心を示さないのかもしれない。

ちきりんは「選挙制度の改正」が、日本の政治をマトモにする唯一の、そして最重要な施策だと思っています。下記は、2011年01月08日に言論プラットフォーム・アゴラに寄稿した文章の一部抜粋&修正文です。


<最優先課題は選挙制度の改革>

2009年9月に自民党から民主党への政権交代が実現して既に2年半。政権交代によって、停滞した日本経済と、制度疲労甚だしいこの国の抜本的な構造改革が行われると考えた有権者の期待は、完全に打ち砕かれました。

ようやく実現した政権交代が、こんな期待はずれの様相を呈している理由は何でしょう?


それは、民主党に政権をとらせた勢力が、必ずしも「日本の構造改革を心から望んだ有権者だけ」ではなかったからです。

民主党の政権奪取の功労者のひとつは、連合に代表される労働組合組織であり、もうひとつは小規模兼業農家を中心とする地方の有権者でした。

もちろん、改革を切望した都市部有権者の票や若い世代の浮動票が民主党に流れたことは最後の決め手とはなりました。

しかしそれらの票はあくまでも”決め手”となっただけであり、そもそもの勝負の土台となる組織票なしに全国の小選挙区で議席を積み上げることはできなかったでしょう。だから政権担当後は、それらの組織票の意向に政策も政局も振り回されるのです。

では「抜本的な構造改革を求める勢力」の力だけで、政権をとらせることは不可能なのでしょうか?


その実現には、2つの障害があります。ひとつは一票の価値の格差です。

抜本的な構造改革を求める勢力は都市部に多く、その票の価値は司法の場で違憲判決がでるほどに低いものです。まずは公正な票の重みを取り返さない限り、この勢力だけで支持する政党に政権を取らせることは困難です。

私は一票の格差は、今のこの国では「最も深刻な格差問題」だと考えています。


もうひとつの問題は、抜本的な構造改革を求める層に非常に不利な(時代遅れの)選挙制度です。

現在の選挙制度では、公示日以降にネット上で演説会のスケジュールを知らせることさえ問題といわれます。ツイッターやブログで政策の説明をしたり、有権者からの問いに答えるなどもってのほかです。(追記:2012年3月時点の話です)

また選挙日には、わざわざ住民票登録された地域の小学校や公民館まで出向く必要があり、職場の近くでの投票もできないし、出先からスマートフォンや携帯で投票することもできません。

このため、平日の昼間から公民館に集まっての支持大会にでることが可能な人たちや、活動範囲の狭い人たちと比べて、土日も働いていたり、土日しか遠出できない多忙な都市部の人たちの選挙権行使コストが非常に高くなっています。


またこのような選挙制度の中では、立候補者側も効率的なネット上での政策討議より、毎朝の駅前での連呼のような“根性系”行動を優先するため、それらの非合理な選挙運動が嫌いな人たちは立候補自体をしなくなります。

野田総理も1986年から、財務大臣になる2010年まで24年間、毎朝、駅で演説していました。そういうことに意義を見いだせる人しか政治家になれないのです。


実際、ネットやマスコミ上で政治や政策について継続的に発言している発言者の多くが、「選挙にでるなんてばかげたことは、自分には絶対できない」と考えていることでしょう。

このように、まともな人ではとても立候補する気になれないような選挙制度にしておくことによって、「どんなにバカげたことをやってでも権力を手にしたい」と思う人が当選しやすい制度が維持されているわけです。


★★★


この現状を打破し、“抜本的な構造改革を求める人たち”が支持する政党が政権の中核を担えるようにするには、下記のふたつが必要です。反対にいえばこのふたつだけ実現すれば、政治家の言動も、有権者行動も、当選する人たちの顔ぶれも大きく変えることができるでしょう。

(1) 一票の価値の格差是正

(2) 時代にあわせた選挙制度の合理化


今の制度のまま次々と異なる政党に政権を回しても、結局は「浮動票を獲得するために口では改革を叫びながら、組織票を得るために裏で利益誘導型の政策を着々と推し進める政治家」しか当選できないし、そういう政党しか政権を獲ることができません。

今、私達が声を合わせて主張しなければならないことは、このふたつの政策を争点化すること、そして、それを最優先課題として推し進めると確約した候補者に投票すると宣言することでしょう。


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そんじゃーね


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<過去関連エントリ>

・「農業従事者はごく僅かなのに、農業票が政治的にあまりに強力な理由

・「一票の格差がひどいために落選した人達・・・

・「国民審査に国民の怒りが表れ始めてる!

・「20代、30代の人数は、まだそんなに少なくはない。問題は投票率です

2012-03-02 先進国になるということ

以前は打つ手がなかったHIV感染、現在では薬で AIDS発症を効果的に抑制できると言われています。

多くの高価な薬を併用する治療法のため、月の薬代は約 20万円、年間で 240万円にもなり、基本的には一生飲み続けるので、40歳から 70歳までの 30年分で合計 7200万円もかかります。

こんな高い薬代を払える人は、ほとんどいませんよね。

けれど、日本では障害者認定を受けることにより、患者の個人負担は月 1−2万円程度にできます。

日本の医療保険、社会福祉制度は非常に手厚く国民を守っているため、患者はわずかな負担で命がつながるわけです。

もちろんその差額は、医療保険の他、社会福祉費用として税金から払われます。

そして患者一人当たり 7200万円の薬代は、それらの薬を開発している製薬会社の売上となります。

こちらにそれらの薬を作っている企業名が載っていますが、基本は欧米か日本の製薬会社のようです。 → (参考サイト


ここまでのお金の流れ(月額・一人分)は、簡単に書けばこんなかんじです

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(お金の額は、40歳から70歳までの30年合計なら、6840万円と 360万円です)


さて、みなさん、抗HIV薬に関しては製薬会社には日本の会社もあります。

しかし、ここに日本の製薬会社が入っていなければ、お金は誰から誰に流れることになるのか、よく考えてみて下さい。


★★★


上記ではHIVを例にとりましたが、治療に高額の医療費・薬代がかかる疾病は他にもあります。

たとえば、腎臓の不全から人工透析が必要になると、治療費は約月 40万円(年間 480万円)、これも一生受け続ける必要があります。

たとえ 3割負担でも個人で払える額ではありませんが、「長期高額疾病」に指定されているため、個人負担は月 1万円程度です。


統合失調症などの精神疾患についても、よい薬がどんどん開発される一方、その薬代は月額 10万円を超えるなど、非常に高額になりつつあります。

もちろんこちらについても障害者認定が受けられるので、個人負担は月数万円です。

その他、高血圧や糖尿病など、一生、投薬や治療が必要となる生活習慣病由来の疾病は少なくありません。

これらに関しては、高齢者だと 1割から 2割の自己負担、若い人は 3割負担です。ただし、高額医療費の補助制度があるため、月額の個人負担額にはその人の所得に応じた上限があります。


さて、ここでもう一度、上記の図を見ながら、

「もし欧米の製薬会社が、画期的なアルツハイマー治療薬、画期的な糖尿病薬、画期的な高血圧治療薬を開発し、日本の製薬会社がそれらを開発できなければ、何が起こるのか」考えてみて下さい。


★★★


次に、視点を「それらの画期的な薬を開発する製薬会社」側に移してみましょう。

彼らの売上や利益は「為替の影響」をどれくらい受けるでしょう?

日本の製造業はよく「円高だから売れない、利益がでない」「円安になれば売れたはずだ、利益が出る」と為替に一喜一憂しています。もちろん製薬会社も製造業です。

では、上記の抗 HIV薬を開発した製薬会社も、その売上や利益が、為替の動向に振り回されているのでしょうか? 

反対に言えば、患者が存在する国の方は「為替変動により、薬の購入数を減らしたり、増やしたりする」のでしょうか?


5年ほど前、ユーロは 170円、ポンドは 240円もしていました。

これらの時期、日本人で欧州に旅行する人の数より、日本を旅行する欧州人の数の方が、多かったりしたんでしょうか?

当時、「ユーロが高すぎて赤字だ。為替のせいで赤字なんだ。もっとユーロ安だったら黒字だったのに!」と言っている欧州の高級ブランドはいくつあったのでしょう?


グーグルやアップルは「為替のせいで赤字だ」とか「ドル安だったので、iPhoneがたくさん売れて黒字になった」とか、言ってたりするんでしょうか?


★★★


発展途上国と先進国のビジネスについて比較してみましょう。

発展途上国の間は、どこの国も「安い人件費」「安い為替」「安い社会コスト」を武器に、輸出産業を伸ばします。かっての日本もそうだったし、今の中国も同じです。

けれど、先進国になれば、「為替を人為的に安く抑えて、モノを輸出しまくる」という方法は、許されなくなります。

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先進国になれば、人件費も、社会コストやインフラ負担費も、そして通貨も高い・・・そういったハンディがありながら、それでも世界中が欲しがるものを提供できる産業をもつ必要があるのです。

上記に例示した「命や健康にかかわる画期的な薬」などは、その典型例でしょう。

そしてそれは十分に可能なはずなんです。なぜなら先進国になれば、発展途上国の頃とは違うレベルの、遙かに質の高い教育機会を多くの人が与えられるのですから。


どの国も、中進国から先進国になるまでに 20年くらいはかかります。

この 20年の間に「人件費も為替も安いから売れる」産業を、「どれも高くても売れる」産業にシフトしていく。これが、先進国になろうとするすべての国に求められている産業構造の転換です。

『自分のアタマで考えよう』にも書きましたが、この転換はどの国にとっても大きな負担を伴います。

だからこそ安い人件費や安い為替を利用できた時代に儲けた資金を、立派な公民館や市庁舎を造るためではなく、産業転換を促すためにこそ使うべきなのです。(国だけでなく企業にも同じことが言えます。)


「通貨が強くても世界から求められる商品やサービスを提供していく」ことが、先進国の産業には求められています。

いつまでもいつまでも、「為替さえ安ければ儲かったのに」とか言ってては話にならないのです。


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そんじゃーね。


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