市場が、組織のルールを変えていく

以前のエントリで、企業にとってクラウドソーシングには3つの意味があると書きました。
1)コスト削減
2)オープン・イノベーション & オープン・プロブレムソルビング3)人事政策の大転換


今日は 3番目のトピックについて書いてみたいと思います。


★★★


クラウドソーシング上での仕事には、いくつかの報酬パターンがあります。

ロゴやイラストの募集では、「応募作の中から、採用されたものだけに○○円支払う」、ウェブサイトの構築なら「こういう機能のサイトを作ってくれたら○○円」、「ブログ記事をひとつ書いたら○○円」、マイクロタスク型では、「ひとつの写真にタグをつけたら0.1円」などとなります。

一方、秘書サービスや、複雑なサイトの構築プロジェクトなどでは「一時間○○円」といった時間給で報酬を支払う場合もあります。


この場合、タスク遂行にかかった時間がワーカーの自己申告だけで決まるのは、納得できないと考える発注者も出てきます。

そこで、アメリカの大手クラウドソーシング企業である、oDesk は「タイムスタンプ制」を導入し、 時間給制の仕事を受注したワーカーの勤務時間中、数分ごとにスクリーンキャプチャを行い、そのデータを発注者が確認できるようにしています。


数分ごとにスクリーンをキャプチャされては、ワーカーも誤魔化しようがありません。発注者はこれを見れば、仕事の進捗状況が手に取るようにわかるでしょう。

さらにデータを分析すれば、ワーカーがサボっていないかどうかだけではなく、「効率的に仕事をするスキルをもっているかどうか」も確認できるはずです。

スクリーンキャプチャに加えキーストロークを記録する方法もあり、それらを合わせれば、仕事の進め方はほぼ完全に開示されることになります。



さて皆さん・・・。


これはまさに「ホワイトカラー・ワーカーの、デスクワーク作業の進捗管理手法」なわけですけど、これって、ふつーの正社員の在宅勤務管理にも使えますよね・・。

これさえあれば、「自宅で一日八時間、きちんと働いている」ことを担保できるわけで、だったら週に二日はオフィスに出てこなくていいよ、という仕事はたくさんあるはず。産休・育休中や直後の時短勤務も、ぐっと導入&管理しやすくなるでしょう。


てか、さらに言えばこれって・・・クラウドワーカーや在宅ワーカーだけでなく、「会社のオフィスで働いている一般社員の勤務態度や生産性管理」にも、使えると思いません?

管理部門や企画開発部門に所属するすべての社員のパソコン画面を数分ごとにキャプチャーし、キーストロークを記録し、ビッグデータ的に自動分析すれば・・・・


1)私用でネットを利用するなど、さぼってる社員を発見するなんて朝飯前だし、
2)仕事のできる人の作業手順とはどのようなものなのか、把握して他のメンバーに共有したり、
3)個々人の仕事の生産性を単位時間ごとに把握し、指導に活かせる


たとえば、やたらと仕事の遅い新人がいれば、その作業中のスクリーンショットやキーストロークのデータを入手して、いったい何にそんな時間がかかっているのか把握すればいい。そして効率的な仕事のやり方や、足りないスキルを指導する。


こういうの、ホワイトカラー職の生産性の把握&向上策の切り札になりそうじゃない?


★★★


別の観点からもうひとつ。クラウドソーシングを実験的に使って、誰かに仕事を頼んでみたとしましょう。そうしたら、思ったより成果物の質もスピードもよかった、と。そういう場合、発注者は何を考えるでしょう?

当然それ以降は、同じ人を指名して、仕事を発注しますよね。何度も同じ人に依頼すれば、お互いに仕事の背景や手順もわかってきて、どんどん生産性は高くなるはずです。


さて、この会社が誰か正社員を雇おうと思ったとします。


そういう時、どうするんでしたっけ? 自社サイトに募集情報を載せ、同時に転職サイトに求人広告を出稿するのかな。

で、応募してきた人の履歴書を審査して、適性検査をして面接をして・・・それで採用して、、、、実際に仕事をしてみたら、「あれっ」ってなることも多くないですか?

履歴書や面接中の印象はよかったのに、働き始めてみたら「なんだんだ、こいつ?」みたいな人、たくさんいますよね。


その一方、クラウドソーシングで何度も仕事を依頼している、すばらしいスタッフがいたとします。顔も見たことないし、声を聴いたこともありません。でも、今回採用した新人より明らかにいい仕事をする。

「だったら、この人を雇っちゃえばいいじゃん!?」って思いません? 思うよね。当然です。そして実際に、そうやって雇われ始めた人も出てきてるんです。


さらに最初からこれを、採用プロセスのひとつと捉えることも可能です。

クラウドソーシングを採用試験の代わりに使えば、デザイン力や技術力だけでなく、受発注に伴う事務能力やレスポンスの早さ、コミュニケーションスキルなどが総合的にチェックできる。

(採用人数が少ないため)採用に失敗できない小さな個人事務所にとってのメリットが大きいことはもちろん、P&Gのような大企業まで、先日紹介したINNOCENTIVEからの採用をすでに始めているのです。


今、ベンチャーや外資系企業では、インターンを経て正社員を採用する会社がたくさんあります。

でもこれからは、わざわざインターンなんてしなくても、「クラウドソーシング市場を経由し、いくつか実際に仕事をしてもらってから採用する方法に切り替えよう」と考える企業がでてくるかもしれません。


今は、地方在住の学生はインターンに参加しにくいよね。反対に関西や九州になど東京以外にある企業の場合、東京の学生をインターンに呼ぶのも難しい。

でも、クラウドソーシングなら距離は関係ありません。
1)最初はごく簡単な仕事をやってもらう(もちろん報酬を払います)
2)次に、その仕事で満足のいく結果を出した人だけに、次の仕事を依頼する。
3)こうやって何段階かにわけて異なる仕事を依頼し、最後に残ったハイパフォーマーの数人に、「内定です」って伝えたらどう?


★★★


あなたの会社がアメリカに進出しよう!と考えたベンチャー企業だとしましょう。外国で人を雇うのって、自国よりはるかに難しいですよね。社内に専門家がいる技術者の採用ならともかく、秘書なんてどうやって雇えばいいのかわからない。

「海外での秘書って、何を評価して採用すればいいんだ?」 そもそも名前も聞いたことのない日本のベンチャー企業に、優秀な秘書が応募してくるわけないし・・・。


大丈夫。そんなときにも、(仕事ができるかどうかさえわからない)人をいきなり雇う必要はありません。まずはこちら、
oDESK の秘書サービスのカテゴリーを見てみましょう。

一時間10ドルから20ドルで、すでに高評価の秘書候補らがたくさん並んでいます。(写真は・・・どうせ会わないだろうということでセレクトされてる可能性が高そうですけど・・)


海外進出して当面は、こういうサービスを使って自分たちが求めているアシスタント業務の内容とレベルを確認すればいいし、気に入った人がいれば雇わなくても、ほんの少し高い時給を示してずうっとキープすればいい。

もちろん、海外から日本に進出する外資系企業やベンチャー企業だって、同じことを考えるでしょう。日本人秘書を雇う前に、クラウドソーシングでその働き方をチェックしたい、と。



ほほー



ちきりんが、「クラウドソーシングは、企業の人事制度を変えていくよん」と書いた理由がわかっていただけましたでしょうか? 

そしてこの話はこのレベルでは終わりません。企業はおそらく、さらに深くクラウドソーシングをその人事政策に利用(活用)していくはず。そのあたりはまた次回のエントリで。


これからホント、働き方は変わっていくと思うよね。



というわけで、「未来の働き方を考えるためのソーシャルブックリーディング」 (ツイッターで話し合う機会)を、2013年 9月14日(土)の午後から夕方にかけて、開催します。

以上、宣伝でした。


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そんじゃーね