ブログトップ 記事一覧 ログイン 無料ブログ開設

Chikirinの日記 RSSフィード

2014-06-11 仕事と家庭の両立なんて、目指すのやめたらどう?

この前テレビで、妻が関西に単身赴任をしている共働き家庭(子供はふたり)が取材を受けていました。

会社には育児や介護のため、転勤を数年間、猶予する仕組みもあるのですが、妻は「その制度は子供が学校に行き始めた後に使いたい」と考え(お受験の頃?)

今はあえて制度を利用しないと決めたらしい。ちなみに、子供は 2歳と 5歳くらいでした。


また、今回の転勤により彼女は出産後、働く時間を抑えるために就いていた内勤の仕事から(花形の)営業職に戻れており、転勤を避けなかったことでキャリアアップにもつながってる。

一方の男性(父親)は、東京で二人の子育てをしながら働いているのですが、「会社には申し訳ないと思うけど、残業はしないという働き方をさせてもらっている」と。もちろん保育所を利用中。

夫曰く、「大変だけれど、妻が子育てのために仕事をセーブしているのは申し訳なかった。だから今は自分がサポートしたい」


母親は毎週末、関西から東京に戻ってくる。また、平日の朝は毎日スカイプを使って、子供&夫といっしょに(画面の向こうで同時に)朝ご飯を食べてます。


まとめるとこんな感じ↓かな。

・女性も男性も、正社員として働いている


・女性が働く会社では、女性にもキャリアアップの機会が与えられている。


・同時に、本人が望むなら、介護や育児のために転勤を数年猶予する制度もある。


・加えて、これも本人が望むなら、内勤の仕事に異動し、仕事をセーブしながら働くという選択肢も選べる。


・男性の会社も、子育てのために一切残業しない働き方を認めてくれている。


・男性は仕事をしながら、平日はひとりで二人の子供を育てるという覚悟をもっている。


・夫婦、子供とも健康で、親の介護などの問題はまだ発生していない(ようでした)

つまり夫婦ふたりとも、勤める会社にも能力にも健康にも恵まれ、みごと「仕事と家庭の両立に成功」してる。


★★★


ここで私の質問は、「みんなホントにこんな生活がしたいの? これが理想の生活なの?」ってこと。

就活中の女子ってすぐに「仕事と家庭の両立は可能ですか?」と聞くけど、そういう子達って、こういう生活に憧れてるの?


ちょっぴり想像力のある人ならわかるはず。

こういう生活が、どれだけ大変か。


月曜から金曜日までバリバリ仕事をこなし、金曜の夜には新幹線に飛び乗って深夜に自宅に戻り、月曜の早朝には再び東京駅に向かう。

赴任先では洗濯や掃除などすべての家事を、平日、仕事が終わった後に片付ける。

赴任先の家は「寝るだけ」の家になるし、毎日の食事だって、きちんとしたモノを食べるのは至難の業。


しかもせっかく数年間、違う地域に住んでいるのに、その地の文化を経験するために使われる週末はひとつもない。       

ふたりとも自分の趣味に使う時間も皆無だろうし、それどころか、自分たちの健康を維持するための十分な睡眠時間だって、確保できていない可能性が高い。


年老いていく自分の親と時間を共有したり、友人達との時間や、自らの新しい可能性や視野を開くであろう社会的な試みに参加する時間もとれない。

子供の病気やアレルギーという問題が発生すればさらに余裕がなくなり、親も子も一気に疲弊消耗する。


これが本当に、みんなが求めてる「家庭と仕事の両立」なの? 


★★★


目指すべきゴールを間違えたら、苦労してそこに到達しても、誰も幸せになれません。

だからよく確認してね。

これが、この二人のしている生活が、みんなの理想なの?


政府は、みんながこういう生活をできるように、

・企業に育児休暇や介護休暇の制度を整備するよう求め、

・男性に育児や家事を積極的に分担するよう求め、

・女性にもキャリアアップの機会を与え、男性にも、残業をしない働き方を求め、

・保育所を整備しようとしてるの?


長期の海外出張や転勤は断り、たとえ緊急かつ重要でも夕方に始まるミーティングには出席せず、大事な顧客と関係を深められる機会であっても会食には一切でない。

それでも仕事において、自分が納得できる成果を上げ続るのは、男性であれ女性であれ、相当に仕事のできる人だけでは

たとえ 10時から 16時までの時短で働いていたとしても、

夫が“そこそこ”のイクメンであったとしても、

子供二人育てながら週に 5日、正社員で働く女性の忙しさ(てか、テンパってる度合い)は生半可じゃない。

ましてや 2歳と 5歳の子供を置いての単身赴任! 


ここでちょっと別のゴールも考えてみて。


女性に、キャリアアップにつながる関西転勤の話が出たとき、男性側が仕事をやめて、家族で関西に引っ越す。


家族四人で数年間、関西に住む。最初の一年は、男性は育児と家事を担当し、その後は、関西で就職して仕事をする。もちろん週末には、家族みんなで京都や瀬戸内など、関西の名所や自然を楽しむ。


何年か関西で働いた後、男性側が勤める企業がアジア進出を決め、男性に香港転勤を打診。おもしろそうな仕事だということで、今度は女性が会社を辞めて、一家全員で香港に引っ越す。


香港で最初の一年、女性は現地の大学付属の語学学校に通い、英語と中国語を習う。香港では安くお手伝いさんも雇えるので、家族の時間も確保できる。


その後、女性は香港で新たな職を見つけて働き始める。


数年後、男性に日本への帰国辞令が出るが、家族全員で話し合い、男性が退職して(他の仕事を香港で探すことにし)、当面、子供の教育にキリのよいタイミングまで香港で暮らすことを選ぶ。


私なら、こっちのほうを「目指すべき姿」とするかな。  

これなら家族は一度も離れずに済むし、週末ごとの移動にかけていた時間とお金は他のことに使える。

縁あって住むことになった土地を、家族みんなで楽しめる。


転職を繰り返すなんて難しすぎるって? 

上で描かれた生活って、転職より簡単そう?


理解したほうがいい。仕事と家庭の両立ってのは(転職するのに負けず劣らず)難しい。

どっちも“無理ゲー”と言えるほどに難しいんだけれども、

じゃあ「実現できたら嬉しいのはどっちなの?」「あなたはどっちを目指したいの?」

ってのが、私の質問です。


まずは自分が手に入れたい生活=目標を間違えないようにしましょう。

上のふたつの生活は、どちらも難しいです。

だから、「自分がより魅力的だと思うほう」を目指しましょう。


★★★


なんで皆、大して魅力的でもないゴールを達成するため、こんなに苦労したがるのか。

理由は簡単です。

終身雇用を前提として、すべての社会問題を解決しようとするからだよね。


その(無茶な)前提条件を外さないから、睡眠時間もまともにとれなくなるような過酷な生活を「仕事と家庭の両立」とか言って、みんなで目指すことになる。

子育てで一回、会社を辞めたら、同じレベルの報酬がもらえ、同じレベルのチャレンジと成長機会が得られる仕事には、もう二度と就くことができない。

だからどんなに過酷な状態でも仕事は辞めず、ヨレヨレになりながらも「家庭と仕事を両立させねば! ブヒー!」みたいな話になる。

日本の労働市場に蔓延する「企業の人材抱え込み発想」が & 「個人の終身雇用しがみつき発想」が、異常に過酷な両立神話を多くの人に選ばせている。


「仕事と家庭の両立神話」って、本当に罪が大きい。

両立できて当たり前? 

冗談でしょ。

あんな大変なことができるのは、環境や健康に恵まれた上、めっちゃ能力(もしくは根性か思い込み)のある、ごく一部の人だけです。

両立は、できたら偉いしスゴイですが、「できて当たり前」なんかじゃありません。

出来ない人が卑下する必要も、焦る必要も、肩身を狭くする必要もないんです。


最後にコメントを求められた(関西に単身赴任中の)女性は、「もちろん本当は家族みなで一緒に住むのがいいと思うんですけど・・・でも、自分で選んだ道ですから」と涙ぐんでた。

そりゃそうだよね。

2歳と 5歳の子供と離れて単身赴任してる生活を、「ベストな生活です!」とは言えないでしょう。


だったら、

「仕事と家庭が両立できる社会」ではなく、

「両立なんてできなくても、なーんら問題のない社会」を目指したほうがいいのでは?


「 23歳で新卒就職した会社に 65歳までの 42年間、勤め続けなければならない」という前提の上で家庭と仕事をむりやり両立させようとする社会ではなく、

数年間のインターバルや、

非正規雇用の時期や、

(夢を追うとかモラトリアムとか含め)人生において個人的な試行錯誤をしていた数年間を挟んでも、

いつでもやりがいと適切な報酬を得られる仕事に戻れる、

そういう流動性の高い社会をこそ目指すべきでは?


いえもちろん、みなさんが上記で紹介した二人のような「仕事と家庭を両立してる」状態を、

「素敵! こんな制度の整った会社に勤めたい!」とか、

「素敵! こんな理解のある男性と結婚したい!」と感じ、

心から羨ましくて、自分も是非そういう生活がしたいというなら、それはそれでいーです。

もしくは、

「転職なんかより、パートナーが単身赴任してる間、2歳と 5歳の子供を働きながらひとりで育てるほうが、よっぽど簡単だ!」と思ってるなら、

それはそれでいーです。


f:id:Chikirin:20150810175729j:image:medium

そんじゃーね



★下記の本は、これからの新しい働き方についての私の考えをまとめたものです。

就活女子の方、子育てと仕事の両立に悩む方、男女問わず、これからまだ 30年近く同じ仕事を続けることに疑問を感じる 40代の方、

この本を読んで、「自分が本当に手に入れたい思っている働き方とはどんなものなのか」、一度、自分のアタマでじっくり考えてみてください。もちろん男性も。

未来の働き方を考えよう 人生はニ回、生きられる (文春文庫)
ちきりん
文藝春秋 (2015-11-10)
売り上げランキング: 40,099


→ キンドル版

→ 楽天ブックス


<関連エントリ>


1) 仕事と家庭の両立を目指す女性の前に存在するふたつの道について

2) 上記エントリへの皆様からのコメント 


3) 関西転勤なら毎週戻ってこれるけど、これからはもっと大変な時代になりますよ! って話

4) 分業と非分業と生産性 なぜ共働きは大変なのか


5) 不妊治療に関する課題ポイント

6) 不妊治療について(上記まとめ)


7) 「グローバル人材」って何かわかってる?


http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/  http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/