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Chikirinの日記 RSSフィード

2015-06-18 自治体が高齢者を取り合う時代

日本創生会議という政策提言集団が、いい仕事をしていて素敵です。

2011年の東日本大震災の後、元総務相で岩手県知事でもあった増田寛也氏を座長として発足した政策提言グループで、

特に大きな話題になったのが、昨年 5月の「若年女性の流出により、2040年には全国 896の市区町村が、人口減少による消滅の可能性がある」としたレポート。

これ、インパクトが大きかった理由は、「消滅可能性都市」の個別名を列挙したことにあります。


今後は日本の人口がどんどん減っていく、だから全自治体が今までどおりの人口を維持するのは不可能。それはみんなわかってる。

とはいえ一般論としてそう言われただけなら、「大変ですなー」とか、他人事みたいなことを言ってても済んでしまう。

ところが、具体的に「あんたの市は無くなるでごじゃる」と名指しされたら、「大変ですなー」とは言ってられない。さすがに当事者意識が出てくるでしょ。


★★★


その組織が出した今年の提言が、「東京圏高齢化危機回避戦略」で、簡単に言うと、

・これから、千葉県、埼玉県、神奈川県など(東京圏)で、医療・介護需要が急増する。


・それらの地域では、医療・介護従事者への求人が非常に多くなる(人の争奪戦が起こる)。


・一方、地方では医療・介護需要はそこまで増えないので、このまま放っておくと、地方から東京圏へ、医療・介護従事者が大量に流出する。


・すると、地方の人口減少が更に加速する。


・これ(=地方の更なる衰退)を防ぐには、一大産業である医療・介護産業を地方に維持すべく、東京圏から客(=医療・介護を必要とする高齢者)を呼び込む必要がある


「東京圏高齢化危機回避戦略」報告書

 同 「図表集」

ってことです。


この提言について、

「東京で行き場がなくなった高齢者を地方に押しつけるなんてケシカラン!」とか

「高齢者を地方に追い出すのか!?」などと、

トンチンカンなこと言ってる人がいますが、そういう話ではありません。寧ろ逆なんです。


高度成長期には東京圏にだけ建設需要があり、地方にはそこまでの需要はなかった。だから建設現場で働くため、地方からどんどん東京に人が集まったでしょ。

あれと同じコトが、今後は医療&介護分野で起こりますよ。地方に客(高齢者)を呼び込めないと、働く人がみんな都会に行っちゃいますよ。大変ですよ。って話です。


つまり日本創生会議は

昨年の提言で「若い人を東京一局集中させずに地方にも呼び込もう!」と言い、

今年は「高齢者を東京一局集中させずに地方に呼び込もう!」と言っており、

一貫して「地方に人を呼び込む方法」を提言してるわけです。

元総務相(昔なら自治相)であり、岩手県知事だった方が座長なんだから、当たり前と言えば当たり前ですが、この組織は常に、「地方をなんとかしなければ」目線です。


このため、この提言に対する地方と都市部の自治体の反応は、真っ二つに分かれています。

 移住先に例示された自治体は総じて歓迎ムードだ。大分県別府市は「評価されたことは正直にうれしい。交流人口を増やし、別府を気に入ってくれた人に定住してもらう」(企画部)と語る。


 人口が年約3千人のペースで減少し「消滅可能性都市」にも挙げられた北海道函館市も「医療施設が充実し、介護面でも有料老人ホームなどには空きがある」(企画部)と歓迎する。


 一方、神奈川県の黒岩祐治知事は4日、「移住策には違和感を覚えざるを得ない」と不快感を示した。


東京都の舛添要一知事も住み慣れた場所で暮らす重要性をかねて指摘している。高齢者が地方に流出すれば、経済の活力がそがれ、税収も減るとの危機感もある。


日経新聞より )


つまり今や高齢者は、「他の自治体に押しつけたい邪魔者」などではなく、

「貴重な人口ソースであり、今後の一大産業となる医療・介護業界の主要顧客」

として、都市部と地方の自治体が取り合いをする対象なわけです。


★★★


そういえば最近は「地方に移住する若者が増えている」みたいな特集をするメディアも多いけど、んなもん数としては“びびんちょ”(めちゃくちゃ少ないという意味の関西弁?)で、今でも東京中心部には、どんどん若い人が流入しています。

今回の資料集によると、2014年に東京 23区では 5万人以上も人口が増え、その大半が 10-29才の若者でした。東京の「若者を呼び寄せるパワー」は今でも圧倒的なんです。

それに、10年後(2025年)には 20代の人数が 1176万人なのにたいして、75才以上人口は 2179万人とダブルスコアに近い多さなんだから、人口減少に悩む地方の自治体が(来て欲しいのは若者だけ、などと言って)高齢者を無視するなんて、できるはずがありません。


というわけで、これから地方の自治体は、地元の雇用を守るため、

「我が市は高齢者にこんなにやさしい環境です!」と必死でアピールし、様々な優遇策を打ち出し始めるはず。

今まで「我が市は工場立地にこんなに向いています!」と必死でアピールし、様々な優遇策を打ち出していたようにね。

(もちろんいずれのケースでも必要になる財源は国から貰うという前提で)


でも、

他の産業は維持できず流出させてしまったのに、医療・介護業界だけは維持できるって考えるのは、ちょっと甘くない?

工場なら優遇税制とかで誘致できるけど、マーケット感覚無くして、長年 都会で暮らしていた高齢者を誘致するのはかなり難しいはず。

そういう人達が何を求めているのか、彼らのインセンティブシステムを深く理解し、求められているものを供給する、そんなことができてる自治体なら、今でも衰退してないって気もします。


そんじゃーね。


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