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Chikirinの日記 RSSフィード

2015-08-20 急成長する読書市場

出版不況とか言われてるけど、昔より今の方が読まれる本は増えてるんだよね。

ほら

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※資料: 日本著者販促センター  ブックオフ販売冊数 2013


過去 10年ちょっとの間に書店で売れる本の冊数は年間 1億冊くらい減ってるんだけど、その間に図書館の貸出冊数は 2億冊も増えてるし、ブックオフなど中古店の販売数も 1億冊以上増えてて、

合計すると個人が 1年の間に手にする本の数は、3億冊近く増えてるんです。人口で割っても、一人あたり年間 2.5冊も多くの本を手に取るようになってる。


しかも上のデータには、

・大学など学校図書館の貸出数の伸び

・ヤフーオークションやアマゾン経由の中古本販売数

・電子書籍の販売数

が含まれていないので、それらを入れると個人が手にする本の冊数は、上記グラフよりさらに増えてると思われます。


どう?

すごい増え方じゃない? 

「活字離れ」なんて大嘘な話で、実際にはみんな過去より今の方が、圧倒的にたくさんの文章を読むようになってるんです。


ただし、アマゾンの新品本の販売数は書店での販売数に含まれてるはずなので、日本で 2000年に営業を開始したアマゾンのその後の売上げ増を考えると、既存書店での販売数は、上記ピンクの部分よりさらに減っています。

つまり「新刊本が既存の書店経由で、今までほど売れなくなった」のは事実なんです。

でもそれは、「読書離れ」を意味するわけではまったくありません。読書量は、むしろかなり増えてるんだから。


★★★


ではなぜ皆、こんなによく本を読むようになったのでしょう?


理由1)中古本の流通市場が整備されたから

ブックオフ、アマゾン、ヤフオクなどによって中古販売市場が整備され、圧倒的に手軽な値段で本が手に入るようになったからです。

安いだけではありません。書店の棚からはすぐに消えてしまう「半年前に出た本」が、ブックオフなら長く並んでるのも大きい。


これにより「発売直後に買いそびれた層」の読書意欲が刺激されてるんでしょう。 3ヶ月後にブックオフに「火花」が並んでたら、文芸書にあんまり興味なくても「読んでみようかな」って思うでしょ?

そもそも書店で売れない本はブックオフにも回ってきません。たくさん売れた本しか持ち込まれない。

だからブックオフはごく自然に、「ちょっと前のベストセラー本が揃った店」になる。


それに、神田の古書街を回って絶版本を探すなんて普通の人にはできないけど、アマゾンで絶版本の中古本を探すのは超簡単。

これにより、今までなら手に入らなくて諦めてた本も簡単に読めるようになりました。あたしなんてこの分だけでも年間 2冊くらい読む本が増えてる。


理由2)無料で読める図書館が便利になったから

図書館は蔵書を増やしたりサービスを充実させたりと、どんどん便利になってる上、

退職した高齢者など平日の昼間に図書館に通える人が増え、

子育て世代も昔ほど豊かでないので、子供の本は買わずに借りたいと考える親が増え、

この市場も急拡大。


理由3)魅力的な本が探しやすくなったから

過去 10年で、300坪以上の大型書店数は倍以上に増えました。書店の総坪数も 10年前から 2割増。

つまり、「以前は品揃えの少ない“しょぼい書店”しか近所になかったのに、最近は充実した大型書店が家や職場のすぐ近くにある」時代になった。これは大都市だけでなく地方中核都市でも同じです。

既に終わったような本しか置いてない小型書店では買う気のしなかった人でも、大量の本が並ぶ大型書店を一時間も歩いてると、あれもこれも読みたくなっちゃったりするでしょ? この効果も大きい。


加えて、ブログやフェースブック、読書感想の共有サイトなど、「この本はこんな内容ですよ! おもしろいですよ!」と内容を紹介、勧めてくれる人が急増。

みなさんだってネットを見てて、「この本、俺も私も読んで見たい!」と思う機会が増えてるのでは? これも読書量を増やしてる要因です。


最初に紹介したグラフは 2012年までのデータだから、電子書籍の影響はまだ出ていません。

今後、電子書籍が本格的に普及期すれば、みんなが読む本は更に増えるはず。

当たり前っちゃ当たり前ですが、「本を手に入れるのが簡単になれば、本を読もうとする人は増える」んです。

これ、本以外の商品でもみんな同じ。コンビニがワインを売り始めたり格安ワイン店が増えれば、ワインの消費量は増えるでしょ。


★★★


じゃあなんで「出版不況」かというと、(消費者じゃなくて)供給者側が困ってるからです。


なんで供給者側が困ってるかというと、最大の理由は「品揃えが豊かになったから」

一年間に発売される書籍の点数(商品数)は、直近だと 8万冊くらいなんだけど、これは過去 15年くらいで倍になってます。


ちなみに、商品点数が増えたのは本に限ったことではありません。どんな商品でも、人々の生活が豊かになると商品数は増えます。

たとえば牛乳でも、あたしが子供の頃は各メーカーが一種類ずつ出してるくらいで、「森永にする? それとも雪印?」って感じだったけど、

今や成分無調整乳に低脂肪乳に無脂肪乳に低温殺菌牛乳にカルシウムプラスやら鉄分補給やら、ひとつのメーカーだけでも何種類もの牛乳を売ってるでしょ。


ヨーグルトもプリンも菓子パンもお菓子も、さらに言えば野菜だって種類はめちゃくちゃ増えてます。

洋服や靴やカバンだって「どんだけ?」ってくらいブランドも店も商品数も増えた。 

昔はブーツと言えば黒か茶色のロングブーツくらいしかなかったのに、今や、ムートンブーツにジョッキーブーツにワークブーツにフリンジブーツにスプリングブーツと、どんどん増えてる。


書籍に関しては「取り次ぎの“つなぎ融資機能”が商品数を増やす原因」と指摘され、それも事実ではあるのですが、

なにより基本的に生活が豊かになると、個々人の好みが多様化するから何の市場においても商品点数は急増するものなんです。しかもそれって消費者にとっては「とても良いコト」ですよね。


だってヤじゃん。

商品の種類の少ない市場なんて。

消費者としては、いろんな商品が並んでたほうがいいよね?


でも、みなさんが販売者側だったら? 


商品数が倍になったら、売るのが、めっちゃ大変じゃない?


商売やったことある人なら分かると思いますが、同じ売上額でも商品の種類が倍になったら、販売コストは急増します。

すべて並べるためには倍のスペースが必要となり、その分の家賃だけでも高くなる。陳列や在庫管理や返品の手間だって、商品数が倍になれば激増する=店員はめっちゃ忙しくなり人件費が増える。

8万冊って、毎日毎日 200冊の新刊本が入ってくるってことですからね。書店としては、段ボールを開けて本を取り出し、棚に並べるだけでも一苦労です。


一方のネット書店は、商品数が増えると相対的にはかなり有利になります。だって、どんだけ本が増えても陳列場所が必要になるわけじゃないし、人件費の増加も限定的。探すのも検索で一発。

「欲しい本が決まってる人」「特定の本を探してる人」にとっては、大量の本が溢れてるのに欲しい本が見つけにくいリアル書店より、一秒でその本が見つかるネット書店の方が圧倒的に便利になってしまいました。


加えて商品数が増えると、「どれが売れるか」を見極めて仕入れる眼が必要になる。仕入れ力や販売力が問われる時代になります。

でもね、毎日 200冊も新刊書が運び込まれたら、書店がその中から本を選ぶのは至難の業です。どんだけ人力が必要になることやら。

ところがこれもネット書店の場合、「どれが売れるか、どれがおもしろい本か」という本のセレクション機能は、本のレビューを自発的に書いてくれ、わざわざ自分ちのサイトまでリンクを張ってくれる無数の外部読者やブロガーに任せてしまえばいい。

これは大きな違いだよね。


★★★


書店に加え、著者&編集者も大変な時代になりました。市場規模が同じで商品点数が倍になれば、ひとつの商品の売上数は当然、減ります。

あたしが昔、訪問したソビエト連邦時代のモスクワでは、「冬用の婦人コートは一種類しか売ってない」ような状況でした。

あれが 1年に 100着売れるとしたら、資本主義になって販売されるコートの種類が 10種類になった場合、ひとつのコートの売上げは 10着ずつに減ってしまいます。

旧来のデザイナーやメーカーから見れば、「コートが売れない時代になってしまった・・」って嘆きたくもなるでしょう。だって今までなら 100着売れてたのに、今や 10着しか売れないんだもん。


でもそれって、明らかに「多様な商品が揃う豊かな市場」になったってことだよね? 

商品数が少なかった、共産主義時代の市場のほうがいいと思う?


商品数が多すぎると選べないって? だから「本を売る」ではなく「本を選ぶ手間と眼を売る」ほうがいい時代になってきたよと書いたわけ。


→ キンドル版ページ 

→ 楽天ブックス


結果、出版社はより多くの本を出すことで売上げを維持しようとし、これが更に“多すぎる品揃え”を呼び、年間の出版点数は倍増しました。

でも、10冊の本が 1万冊ずつ売れるより、1冊が 10万冊のベストセラーになったほうが、出版社が儲かるのは自明のこと。(固定費が 10倍違うので)

結局は「たくさんだしても儲からない」という話になる。(アパレルメーカーとかと全く同じことが起こってる)


また、10冊の本が 1万冊ずつ売れる世界では「本が売れないと嘆く著者 10人」が生まれてしまうのに、1冊が 10万冊売れる世界では「本は儲かる!」と考えるベストセラー著者が生まれる。

昔の市場が忘れられない出版社や著者にとっては、「今はほんとーに本が売れない時代」なんです。


んが、

これも消費者目線でみれば、書籍市場は過去 10数年の間に、商品も販売チャネルも多様化し、非常に豊かな市場になったということです。

新刊でも絶版本でも、特定の本を探すのが超容易になったし、どれを読むべきかという情報も手軽に入るようになった。

おかげで、読まれる本の数もぐっと増えた。

めでたしめでたし。


今回は書籍の話でしたが、より売上げが落ちてるといわれる雑誌だって、

メルマガやブログ、メディアサイトのコラムなど、事実上、雑誌記事として読まれてるサイトのページ数を全部合計すれば、

「人が読んでる記事ページ総数」はぜんぜん減ってない、むしろ増えてるって可能性もあるのでは?


もちろん(これも全ての市場に言えることですが)豊かになれば何でも二極化するので、全く読書しない人も増えてるんでしょう。でも、読む人はすごく読むようになってる。

全体として読まれる本の数が増えてきたのは、ほんとーに素晴らしい。


著者の私としても、収入の最大化のためには「全員に書店で新刊本を買って欲しい」と思うけど、

「できるだけたくさんの人に読んで欲しい」という視点から言えば、書店でも売れて欲しいし、図書館でも人気になって欲しいし、ブックオフでも売れ筋になってほしい。

読み終わった私の本を親とか子とか友達とか恋人に、無料で渡して(勧めて)くれるのも嬉しい。


みんな、もっともっと本を読みましょう。


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そんじゃーね。


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本と書店の価値を考える参加型イベントをやったよ!


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