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Chikirinの日記 RSSフィード

2016-03-02 ルアンパバーンの托鉢に見る伝統と変化

敬虔な仏教国であるラオスでは、黄色い袈裟に身を包んだお坊さんが一列になって歩き、沿道に並ぶ人々から一握りのご飯を受け取る托鉢(たくはつ)というセレモニーが毎日行われています。


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ガイドの Tさんによれば、「托鉢において、お寺は郵便局のような役割です。人々が祖先に届けたいお供え物をお坊さんに託せば、自分の代わりに祖先に届けてくれます」とのこと。

日本だと仏壇に供えるご飯を、ラオスではお坊さんに託す、ということですね。

時にはタイや日本から来たお坊さんも(ラオスのお坊さんに食べ物を渡す側として)参加するため、お坊さんがお坊さんにお供え物を渡すという不思議な絵も見られます。

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托鉢はラオス全土で行われてますが、もっとも観光客向けにアレンジされているのが、古都であり世界遺産でもあるルアンパバーンという街の托鉢です。

まず、ここの托鉢は開始時間が違います。

他都市では通常、朝 5時半頃に行われますが、この時間だと周りはまだ真っ暗。これでは観光客が托鉢の写真をとれません。

不届き者がフラッシュを使うとお坊さんの目にもよくないので、ルアンパバーンでは「托鉢は明るくなる 10分前」(なので季節により異なるのですが、たいていは他都市よりかなり遅い時間)に始まるんです。


また、普通は自分のお寺の周囲を歩くのですが、お寺の数が多いルアンパバーンでは観光客の混乱を避けるため、すべての寺のお坊さんが決められたルートを一筆書きで歩きます。

そしてこの道、托鉢の間は車両が通行禁止になります。

托鉢をカメラに収めようと必死になる観光客が、車に気付かず事故るのを防ぐために。

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(※念のタメ、あたしじゃありません・・・)


お供えをする側は、靴を脱いで膝立ちになるのですが、今は観光客用に、小さなイスまで用意されており、最近は地元の人まで(高齢の人などは)イスを使い始めています。


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お坊さんに渡すのも、もともとは蒸したご飯だけですが、現在はお菓子も渡せるよう付近の路上で売られています。

これは完全に観光客向けです。ご飯は手で摘まむので慣れないと大変ですが、お菓子なら手も汚れません。


またルアンパバーンの托鉢の道には、このようなカゴが置いてあります。

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(※最初、ゴミ箱だと思ったのは私だけではあるまい・・)


ここのところ参加する観光客が急増。お坊さんはちょっと歩いただけで、大量のお供え物を受け取るようになっています。

これでは器もスグに満杯になってしまうので、お坊さんは自分が受け取ったお供え物をこのカゴに移します。

すると托鉢の後、このカゴを置いた近所の人がそれを持ち帰って皆で食べ物を分けるのです。

こんなカゴにご飯は入れられないので、この点でも伝統にはない「お菓子の托鉢」が編み出されたというわけ。


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(※沿道のカゴにお菓子を移すお坊さん)


ちなみに、お寺に持ちかえられたご飯だけでも大量なので、お坊さんが食べた後は、こちらも近所の貧しい家庭の人達に分け与えられます。

(ラオスでは、お坊さんが食べた残りの食べ物には御利益があると言われています。なのでお坊さんも、受け取った食べ物のすべてから一口ずつ食べるという食べ方をします)


この「托鉢でお坊さんが受け取った食料を貧しい人に配る」ことが、1年 365日、雨の日も風の日も全国すべてのお寺で行われているため、最貧国とも言われながらラオスでは、物乞いをほとんど見ません。

この国では少なくとも「食べるものが無い」状態にはなり得ないのです。


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地元の人にも観光客にもマナーを守らない人はいます。

お供えとして使うご飯やお菓子を観光客に売る地元の人。

お供え物はお土産とは違うので、積極的な営業は禁止されているのに、立ってると次々と売り子さんがやってきます。

また、観光客側はフラッシュ禁止の他、お坊さんの前に立ってはならないとされているのですが、

カレンダーやポスター製作、雑誌取材のために雇われた世界中のカメラマンが、歩道の真ん中=お坊さんの進路の前にたち、真正面から写真を撮ろうとします。


まあでも、それくらいはどこの観光地でも起こっていること。

むしろ注目すべきは、本来 5時半から始まる托鉢を「明るくなってから始める」と決めたり、「観光客は裸足にならなくてもよい。イスに座ってもよい」と認めたり、車両を通行止めにしたり、ご飯だけでなくお菓子の托鉢を認めたり・・・

ルアンパバーンで行われている「観光客が托鉢を見学、参加しやすくする様々な施策」のほうです。

そういうのって誰が決めたかガイドの Tさんに聞いてみたところ、「形としては行政側が決めているが、ラオスでは誰もお坊さんに命令はできない。だから位の高いお坊さん達が話し合い、合意して決めているはず」とのこと。


なんか、おもしろくない?


だって観光客の多くは、ルアンパバーンを「昔の伝統をいつまでも守っている素朴な古都」だと思ってるんですよ。

ところが実態は、ビエンチャンを含め他都市では 5時半から行われてる托鉢を「観光客が写真を撮りやすいよう、明るくなってから開始」してるなんて、ものすごい柔軟な姿勢でしょ?


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ルアンパバーンはメコン河のほとりにあり、ラオス王国時代の伝統様式で建てられた家やフランス植民地時代の風情ある欧風建物が数多く残り、街ごと世界遺産に指定されていて、日本でいえば、鎌倉と軽井沢を足して(京都の)鴨川を加えたようなすばらしい街です。


そういう恵まれた観光資産を持ちつつ、一方では、

・伝統ど真ん中の托鉢に様々な「観光客への配慮」を取り入れ、


・「ユネスコの許可が無いと何も変えられない世界遺産の街」なのに中心部でアマンがホテルを経営し、


・バックパッカー向けのゲストハウスと並んで、サービスも料理もワインも先進国並みの高級レストランや、めっちゃおしゃれな雑貨やシルクドレス、アクセサリーのショップが並んでる。


ここは、「敬虔な仏教国ラオスを代表する古都」である一方、ものすごーく「マーケット感覚に溢れた都市」・・・でもあるんです。

だからこそ、早々にユネスコの世界遺産指定も受けている ←これ、けっこう大変なんですよ。

おそらく 10年もたてばこの街は、東南アジアを代表する「世界中のお金持ちとハイソ&アーティスティックな人達がバカンスを過ごしたがる人気スポット」になることでしょう。


最貧国とも言われるラオスに、鎌倉や軽井沢より可能性の高い国際観光都市がある。

「国の時代じゃなくて都市の時代」・・・既に使い古されたフレーズではありますが、そのことをしみじみ再確認した旅となりました。


ラオス、舐めたらあかんぜよ。


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そんじゃーねー


追記) ちなみにこの都市、韓国の仁川空港からは直行便が飛んでます。一方、日本からの直行便は、未だ首都ビエンチャンにさえ飛んでません。

この本に書いた仁川空港の話を思い出しますよね。


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