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Chikirinの日記 RSSフィード

2016-12-30 価値に応じたプライシングの重要さ

連載エントリの途中ですが、年末なので今日は別の話を。

例年お正月は関西で過ごす私。東京からは新幹線で移動するのですが、いつも不思議に思うことがあります。

それは「なんで新幹線の料金って、年末年始など超繁忙期でも平常時とほとんど変わらないんだろう?」ってこと。


帰省には飛行機を使う人も多いと思いますが、飛行機チケットの実勢価格は、閑散期と繁忙期で大きく違いますよね?

閑散期には様々な割引きが使えて安くなるけど、お盆や正月、GWの料金はかなり高い。

買うタイミングまであわせると、3倍くらい違う場合もある。


ところが新幹線の場合、その価格差はこく僅かです。

新幹線には、

・グリーン席

・普通指定席

・普通自由席

があります。


指定席と自由席の差は 500円ほどですが、グリーン料金は普通指定席の倍くらいします。

でもどれも閑散期と繁忙期の価格差は小さく、普通指定席券で数百円ずつ安くなったり高くなったりする程度。

飛行機も新幹線も規制があるので、JRや航空会社が価格を自由に決められるわけではありません。

それでも実際には相当に柔軟なプライシングが行われている飛行機に対し、新幹線は需給による価格変動がものすごく小さい。


★★★


ちなみに 16両編成の東海道新幹線の場合、3両がグリーン席ですが、この 3両の「通路やデッキ」に立って乗りたい人も、グリーン料金が必要です。

なので正月やお盆に全体の乗車率が 180%などとなっても、グリーン車の通路やデッキに立っている人はいません。

トイレにもスムーズに行けるし、車内販売もちゃんと回ってきます。

グリーン料金は普通指定席の倍もするので、「通路もみなさんのために確保しますよ」ってことなのでしょう。


一方、普通指定席に関しては、指定券を持っていれば席は確保できますが、繁忙期、乗車率が 180%ともなると、

通路やデッキには自由席チケットを持つ人がぎっしりと立って(詰まって)います。

繁忙期の客はたいてい荷物も大きいので、指定席のチケットを買った人は、「席には座れるけど、通路もデッキも人でいっぱいなのでトイレにも行けないし、乗り降りにも一苦労」となります。


繁忙期、通路まで混雑するのは自由席も同じです。

こういう時期、自由席に座れているのは(めっちゃ運のいい人を除き通常は)

・東京など始発駅から乗った人で、

・1時間程度、ホームで並んで待った人

です。


繁忙期の場合、品川や新横浜から乗って自由席を確保することはできません。

そして東京駅の新幹線ホーム、自由席車両あたりでは「次の次の次」の新幹線を待ってたりする人もおり、とても混雑します。


★★★


以上が現状なんですが、もし私が自由にプライシングしていいと言われたら、きっと下記のように変えてしまいます。

・繁忙期のチケット価格は、通常期の 2倍程度まで引き上げる

・繁忙期は自由席を廃止し、すべて指定席にする

・指定席チケットの他、格安の「立ち乗りチケット」を売る


まずはお盆、GW、正月休みのピーク日、今年で言えば、12月 29日と 1月 3日は、通常料金の 2倍、それ以外のピーク日でも通常の 1.5倍などとします。

こうすれば、どうしてもその日に乗らないといけない人以外は、帰省日を1日でもずらそうと考えるでしょう。その分、確実に混雑は緩和されます。

また繁忙期のみ自由席を廃止すれば、狭いホームで 3台先の新幹線を待つ人の行列もなくなります。

ホームの混雑解消にも役立つし、人生の貴重な時間を並んで過ごす人も減らせるのです。

さらに「立ち席チケット」を安く売ることで、それぞれ価格に応じたサービスを選べるようになります。

このチケットの値下げ分は、指定席を増やすこと、繁忙期料金を上げることで捻出できるでしょう。


私は基本的に、「価格は、提供されている価値に応じて設定されるべき」と考えています。

これができてないと、無益な行列や不公平が生じるだけでなく、売上げや利益も最大化できないからです。

今はまったく同じ料金を払いながら、自由席に座れる人と、通路やデッキに立ったままの人がいます。

地下鉄や山手線ならともかく、何時間も乗る新幹線でそれってとても不公平なことだし、ガラガラの日と乗車率 180%の日の指定料金が(ほぼ)同じなのも不公平です。

ちなみに東海道新幹線は比較的いつでも乗車率が高いのですが、他の新幹線はガラガラの日もよくあります。

ガラガラの日はもっと安くして(飛行機のように直前には投げ売りでもして)席を埋めた方が、売上げも増やせるのでは?


★★★


宅配サービスについても同じことを思います。

くろねこヤマトも佐川急便も、年末になると遅配が発生します。

どこも毎年謝ってますけど、あんなの「年始年末は通常の 2割増しの特別料金」を設定すればいいんです。

増収分は年末年始に働いてる配達員の方の時給に上乗せしましょう。


もっといえば楽天もアマゾンも、年始年末の注文には特別配達料をとればいい。

そうすればどうしても年始年末に必要なモノ以外は、みんなピークシーズンを避けて買うようになるでしょう。

荷物の集中度合いが下がり、遅配も減るはずです。


宅配に関しては、不在宅への再配達が大幅なコスト増につながっていると聞きますが、それなら、

「コンビニ受取りならポイントがつきます」とか、

宅配ボックスのないアパートや戸建ての人が

「不在の場合は、あらかじめ登録しておいた近くのコンビニに配達しておいてくれたら、後で取りに行きます」

と申請するだけでポイントを与えるとか、なんらか再配達を減らす価格的なインセンティブを付けるべき。

ポイントはナナコでも Tポイントでもいいですが、世の中にはたった 5ポイント(5円分)もらえるだけで、行動の変わる消費者がたくさんいるんです。


しかも今は、細かくプライシングを分けても対応できる技術が存在しています。

宅配の時間指定も(再配達を減らす効果があるため)現在は無料ですが、午前と午後と夕方の 3区分指定なら無料、「いつでもいい」なら 100円引き、二時間ごとのタイムゾーン指定には +200円など、

もっと細かく「サービスの付加価値にあわせて対価を払う」形に変更すべきでは?

そうすれば、「いつでもいい」を選ぶ人が増えて、宅配のロジは相当ラクになりそう。だって今は「いつでもいい」人でも、無料だからと時間指定をしてたりするんですから。

もちろん「いつでもいい」を選んで不在→再配達となった場合は、ちゃんと「再配達料金」をとりましょう。


★★★


年賀状が 1月 2日の配達を止めたのも人手不足が原因と言われてますが、そもそもなんで年賀状が普通の葉書と同じ値段なのかわかりません。

あんな特別な手間や手配が必要なものは、一枚 100円なり 150円なりにすればいいんです。


前に自治体のゴミ収集の担当者で、一月初日の収集日に有休をとる人が多いと問題になってました。

正月明けはゴミの量がめっちゃ多く、仕事がハードだからだと。

だったら年始のゴミ出しには特別なピンクのゴミ袋でも指定し、一枚 300円とかで売ったらどうでしょう? 

多くの家庭では袋代の 300円を節約するため、生ゴミ以外は 中旬になってから出すなど、ゴミの量の平準化を進めるはずです。

もちろん増収分は、正月初日の収集日に働いた人の手当にすればいい。


鉄道各社は大晦日から三が日、それに大きな花火大会が行われる日などにも臨時電車を出して夜通し営業したりしてるけど、ああいう特別な日も運賃は 2倍とか 3倍にすればいい。

いつもなら 390円の運賃が 800円でも構わないでしょ。

増収分で安全を確保し、そんな日に働く人の時給に充てるべき。


他にも、適正な価格がつけられてないものはたくさんあります。

高速道路も、混んでても空いてても同じ値段っておかしくない?

レストランも、早くから予約しても直前でも同じ価格って変じゃない?

飛行機やホテルなら、予約タイミングによって値段が違いますよね。


キャパシティ商売はどれも同じで、早くから「今日は満席」「今日はガラガラ」と分かっていると、バイトの手配から材料の仕入れまで、大幅に無駄が削減できます。

だからレストランでも早めに予約を入れると 5千円のコースが 4700円になりますよ(もしくは、ビール一杯無料!)というのは、十分に合理的なプライシングのはずなんです。


技術とインセンティブシステムを利用して、もっともっと「価値に応じたプライシング」が当たり前になり、

付加価値の高いサービスにはきちんと相応の価格が支払われるようになってこそ、「生産性」が上がるのだってことが、

「生産性=コスト削減」だと思い込んでる人には、わからないのでしょう。

価値あるサービスに正当な対価を取らないから、いつまでもデフレから脱却できないし、生産性も上がらない、そして、働く人がとことんまで疲弊してしまうのだということを、

少しでも多くの人に理解して欲しいです。


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みなさまよいお年を!

そんじゃーね。


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2016-12-24 産業政策としてのハラール認証

このエントリは連載ものです。

第一回 浅草から考える多文化共生

第二回 インバウンド観光にみるムスリムの可能性

第三回 B級グルメから神戸ビーフまで

前回までのエントリを読み、「日本ももっとハラール対応すればいいじゃん!」と思われた方、たくさんいらっしゃると思います。

で、そもそも「食品のハラール対応」とは何なのでしょう?


・アルコールや豚肉を使わないこと

・牛肉や鶏肉もハラールに則って屠殺処理されたものを使うこと

などに加え、

・豚肉を切ったり焼いたりするのに使った調理器具を使ってはダメとか、

・調味料や出汁、精製など加工プロセスにもアルコールを使わないなど、

ハラール認証を受けるためには様々な「決まり」があります。


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(当エントリの食品の写真はすべてちきりん撮影@ハラールエキスポジャパン2016)


日本に来た観光客だけに売るのであれば、使用材料や調理法について詳細な情報開示をすることで受け入れられる場合もあります。

しかし世界に向けて「ハラール対応食品」だと主張するためには、やはり認証を受けることが必要。


ご存じのように、日本では食品衛生法に食品添加物や残留農薬についての規制が、また食品表示法には内容物や原産地の表示について決まりがあります。

「トクホ」と呼ばれる特定保健用食品に関しても、健康増進法に基づいて条件が設定されるなど、基本は「法律」によって一元的な規制が行われています。

しかしハラール認証に関しては、日本にはそういった一元的な法律がありません。

そして実は、日本国内には大小様々な「ハラール認証を行う機関」が存在し、中には実質的に個人が認証しているようなところもあるんです。


このため海外のメディアでは、日本のハラール認証に混乱が生じていると報道され、海外からやってくるムスリムたちにも不安を抱かせてしまっています。

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 (資料提供 ハラールメディアジャパン)


また「日本だけで通用する機関」で認証を受けても、その認証は海外では通用しないため、

「インドネシアに輸出しようと思ってハラール認証を取ったのに、この団体からの認証ではダメだと言われた!」みたいなことも起こってしまっています。


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 (資料提供 ハラールメディアジャパン)


一方、ハラール対応を「国策」「重要産業」と位置づけるマレーシアでは、企業誘致策としてハラール認証制度をフル活用しています。

マレーシアに工場を作り、そこでルールに沿って食品を作ってマレーシアの機関から認証を受けると、

その食品は自動的に世界 32ヵ国(世界のモスリム人口をほぼカバーできる国数)にハラール食品として輸出できるんです。


マレーシアでは材料調達から容器まで、また製造工場から物流まですべてにおいてハラール対応が可能で、

「イスラム圏にも食品を輸出したい!」と考える企業にとって、工場立地として「マレーシアを選ばざるを得ない」状況を作りだしています。


たとえば日本のキユーピーも、マレーシアの工場でムスリム対応のマヨネーズを作っています。

その商品は日本に逆輸入され Amazonでも売られています。

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アマゾンでは他にも、ハラール認証食品がたくさん売られてますね・・ 

→ “アマゾン ハラル認証の検索結果”


ちなみに上記のマヨネーズ、日本で売られてるキユーピーマヨネーズと原材料は同じです。つまり私たちがいつも食べてるマヨネーズだって、実質的にはハラール対応食品なんです。

でも大事なコトは、「この商品なら、マレーシアのハラール認証工場で作られてますよ!」ってこと。

ハラール先進国である「マレーシアが認めてる」からこそ、世界のモスリムコミュニティが安心して購入できるというわけです。


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繰り返しますが、日本に来るムスリム観光客に対応するだけなら、何を使っているかの情報開示であったり、「日本だけで通用する認証」でも問題ありません。

でも!

もし「日本の食品を世界に輸出したい!」と考えるなら、世界に通用する認証が必要です。


なのに日本では認証機関が乱立し、どこから認証してもらえばどの国に輸出できるのかさえよくわからない・・・

そんな状況に国内の主要認証機関も危機感を抱き、つい最近、任意団体「日本ムスリム評議会(仮称)」の設立を発表するなど、基準統一に向けた動きが始まりました。

国内ムスリム対応基準 統一へ


それにしても日本はなにかというとスグに国が出てきて規制を作る国なのに、なぜハラールに関して国は何もやらないのか?

その理由は、「ハラールって宗教上の決まり事でしょ? 政教分離の原則があるんで、政府としては関わりたくありません」ってことらしい。


ふーーーーん!


でもさ。

これってインバウンド観光のキモにも、日本の食材輸出のキモにもなり得るポイントなのに、ほんとにそんな対応でいいの?

マレーシアやインドネシア、中東諸国はもちろん、アメリカや台湾、韓国などでも国(もしくは国に準じる機関)が乗りだし始めているというのに?


てか皆さん、北海道でジンギスカン食べたことあります?

実はあのラム肉、(全部ではないですが)多くがハラール対応のお肉です。


なんでかって?


ジンギスカンで使われるラム肉は(一部に国産肉もありますが)今やその多くがニュージーランドからの輸入肉です。

そして、ニュージーランドが輸出する肉の大半が「ハラール認証」なんです。


ニュージーランドだけでなく、ブラジルやオーストラリア、アメリカも含め、世界に肉を売りまくる「食肉産業が重要な輸出産業である国」は、

もはや「すべての肉を最初からハラール認証がとれるよう屠殺処理する」という作戦をとっています。


そうしないと「売れる国と売れない国」が出てきて面倒でしょ? 

「この肉は日本には売れるが、インドネシアには売れない」とか、イチイチ分けて処理すると、すべてをハラール対応にするより手間がかかってしまうんです。

なので食肉輸出産業の競争力を保つためにも、「全部ハラール対応にしちゃって、世界中に輸出しまくろう!」と考えてるわけ。


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そういえば日本も神戸ビーフなどのブランド牛を、「世界中に売りたい!」と考えてるんじゃなかったっけ? 

だったら「産業として肉を輸出する国」が当たり前のようにやってる方法を、日本も取り入れるべきでは?


今はまだ、ハラール屠畜ができる屠畜場が日本ではとても少ない。

さらに(小さな鶏ならインドネシアなどでは一般の人でもハラール屠殺ができたりするようですが、)どでかい牛に関してはやはり専門の屠殺職人が必要。


マレーシアでは「牛のハラール屠殺ができる資格」も国家資格ですが、当然、日本ではそんな資格は存在せず、

数少ない「ハラール屠殺ができるムスリムの屠殺人が、各地の屠殺場を回って屠殺を行っている」という状況。

これでは量も増やせないし、ハラール肉の価格も高騰してしまいます。

きちんと資格を認定し、ハラール屠殺ができる人、そして屠殺場を増やしていくには、国全体としての取り組みが不可欠です。


日本政府がいつまで「政教分離だから」という理由でハラールから逃げ回るのか知りませんが、

世界にはブラジルやニュージーランドのように、そしてマレーシアのように、ハラール対応を食品輸出の競争力維持に不可欠な政策として位置づけている国もあるんです。

食品業界全体として日本の食材を世界に売りたいと思うなら、「産業政策」として何が必要なのか、

しっかり考えた方がいいのかもしれません。


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そんじゃーね。


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2016-12-19 B級グルメから神戸ビーフまで

このエントリは連載ものです。

第一回 浅草から考える多文化共生

第二回 インバウンド観光にみるムスリムの可能性


今回の取材は、 ハラールメディアジャパン株式会社 の代表取締役、守護さんから、

「ちきりんさん! 今度、HALAL EXPO JAPAN 2016 をやるのでぜひ観に来てください!」とお誘いを受けたところから始まりました。

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11月下旬に台東区の施設で行われたイベントはものすごい盛り上がりで、ムスリム素人の私でも十分に楽しめました。

会場のブースは大きく「食品・食材」と「それ以外」の展示に分かれていたので、今日は主に前者の紹介をします。

ハラール食材と言えば、イベントに行く前は「ハラールのルールに基づき屠殺処理された食肉を売る卸店」くらいしか想定していませんでした。

もちろん、そういうお店の出店もあります。こちらはハラール肉の卸店。日本でハラール屠殺をした食肉の他、ハムやラーメンなど加工品も販売されてます。

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こちらはマレーシアなどから輸入したハラール対応食材。試食してみましたが、どれもかなり美味しかった。近くのスーパーに売ってたらふつうに買うレベル。

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でも行ってみて新たに理解したのは、それ以外にも

1)たこ焼きやラーメン、カラオケ屋など、B級グルメ店の対応が大事

2)パンや鶏ガラ出汁など、思わぬところにもハラール対応が必要

3)日本の食材を世界に売るにはハラール対応だけでは不十分

ということでした。


まず最初の点。アジアからの観光客って寿司や天ぷらだけでなく、ラーメンやたこ焼きなど日本の B級グルメに興味津々なんです。

ところがムスリム観光客の場合、それらの大半が食べられない。だからハラール対応のラーメンとかが大人気になるんです。

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こちらのサムライラーメン。麺にもスープにもアルコールや動物系食材をいっさい使ってない。それでも私には十分の味。コクもあり美味しかった。

ちなみに、ハラールチキンは輸入で手に入りますが、ラーメンなどを作る際の「ハラール鶏ガラ」は輸入では手に入らない。

なので自分で作るか、日本の卸業者さんから購入します。こういう見えない部分の調味料が大事なんだよね。

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B級グルメの代表、たこ焼きもハラール対応!

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通常、たこやきのソースには動物由来の成分、生地に混ぜる出汁にもアルコールが含まれているのですが、

この店ではそれらを自家製造することでハラール対応をしています。

ちなみに大阪でハラール対応ができているたこ焼き屋は一軒だけとのこと。どんだけブルーオーシャンなんだか!?

食べてみたら・・・関西人の私にも十分おいしかったです。

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アジアからの観光客は日本のスイーツをお土産品として爆買いしますが、お菓子でさえムスリムの人にはハラール対応でないと買えません。

だからこいう、外国人に人気の抹茶系スイーツや、

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もみじまんじゅうでハラール対応をすれば(山ほど存在するお土産品の中で)確実な差別化が可能になります。

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それと今回はじめて知ったのですが、実はパン類も難しいらしい。

食パンを焼く時の型の内側にラードが塗られたり、材料であるマーガリンやショートニングにも動物性油脂が含まれることが多いんだって。(詳しくは こちらのサイト

初めてハラール対応の食パンを食べてみたんですが、たしかに普通の食パンとはちょっと食感が違います。でもサクサクして美味しかった。

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こういう和風お弁当も、日本に来た外国人観光客なら一度は食べてみたいよね。

あれこれ入っているので、弁当全体でハラール対応が明確になってると安心です。

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「カラオケ」も外国人観光客、そして日本に留学中のムスリム大学生などに人気なんですが、ここで出されるお料理もハラール対応でないと、彼らは利用ができません。

だから対応してるカラオケ店はとても貴重!

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今や、ワタミのような大企業も対応を始めていたり、

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鹿児島や北海道など、地域ぐるみで取り組もうとするところも、

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それと、会場ではハラール対応の先進国シンガポールから招かれたシェフが調理のデモストレーションを行っていました。

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当たり前のことですが、日本の食材を世界に向けて売り出すとき、「ハラールです」と言うだけでは売れません。

だって見たことも無い日本独特の食材なんて味も使い方も知られてませんから。

そこで、たとえば味噌を売りたいなら、ハラール味噌を開発した上で、味噌を使ったレシピや料理を紹介し、その材料として

「大丈夫。この味噌はハラール認証を受けてますよ!」と勧める必要があるんです。


このエキスポは今年で 3年目。今はハラール対応の食品や商品を扱うお店と、それを買う可能性のあるお店や人を結ぶものですが、

将来的には海外でもエキスポを開き、日本のバイヤーが海外から商品を買い付けたり、日本のハラール対応商品を海外に売り込むお手伝いもしたいとのこと。


おもしろそうやん!


海外でエキスポ行われる時は、ぜひあたしも遊びに取材に行こー!


★★★


そうそう。会場内のお祈りスペースが大きい!と思ったら、お祈りスペース自体のサンプル展示でした。

簡易設置型なので、スペースさえあればホテルや空港にも低コストで設置できそう。

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(写真に写ってくれたのは日本に留学してる学生さん)


会場には日本のマスメディアに加え、海外のメディアも多数取材に訪れていました。

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私もあれこれ試食して周り、山ほどパンフレットを頂きました!

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なお、ムスリムにはインドネシアなどからやってくる「普通の観光客」の他、中東などからやってくる「超富裕層ムスリム」もいます。

西麻布にあるこのレストランでは、ハラール神戸ビーフを使ったコースが最低でも 2万 5千円、上級コースは 4万円もするのに、予約が取れないほどの人気だそう。

B級グルメから超高級神戸ビーフまで、ハラール対応するだけで完全ブルーオーシャンじゃん!


しかも海外からの観光客が日本で使うお金のうち、飲食費は 2割もの割合を占めており、加えてお土産代にもお菓子など食品が含まれてると考えれば、市場規模もかなり大きそう。

なんでみんなもっと積極的に対応しないの??


「でも、ハラール食材ってお高いんでしょ?」って?

それがね・・・・そうでもないんです。

その辺は今後少しずつ明らかにしていきましょう。


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そんじゃーね。


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2016-12-11 インバウンド観光にみるムスリムの可能性

このエントリは連載ものです。

第一回 浅草から考える多文化共生


ご存じのように訪日観光客は毎年どんどん増えていて、昨年は 1974万人、今年は10月で既に 2000万人を突破しました。

政府は急遽、目標を引き上げ、2020年オリンピック年に 4000万人を達成したいとのこと。

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4000万人なんてものすごく高い目標に見えますが、そうでもありません。訪日観光客はそれ以上にまで増える可能性も高いんです。

というのも海外からの観光客は、その多くが近隣エリアからやって来るから。

たとえば世界でもっとも海外からの観光客が多いフランスでも、その半分は「飛行機以外=自動車や鉄道」で来ると言われています。

つまり、スペインやドイツ南部、オランダなどから自動車で来たり、イギリスから鉄道でやってくるような人が半分なんです。

これに欧州内部の各都市から飛行機で来る人を加えると、フランスに来ている外国人観光客の大半は欧州域内からの訪問客です。


これはどこでも同じで、アメリカに来る観光客の半分以上はカナダかメキシコなど北米、中米の人だし、今の日本に来ている人の 8割近くはアジア人です。

つまり国際観光の中心は「近い国を訪れる」という市場なんです。


今まで訪日観光客が少なかったのは、平均的な所得の国民が気軽に海外に行けるほど裕福な国が日本の近隣に存在しなかったからです。

反対に言えば、最近、急激に訪日観光客が増えているのは、ビジットジャパンによる宣伝やビザ要件緩和などの効果の前に、

アジアの多くの国で経済力が上昇し、海外旅行のできる中間層が大幅に増加したことが根本的な理由だと言えます。

だっていくらビザ要件が緩和されても、お金がなければ海外旅行には行けないでしょ?


そして今や訪日観光客の大半は中国、韓国、台湾、そして ASEANなど「アジアの国」です。

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(資料 上記の 2つ=観光庁データ


日本の周辺地域人口は(フランスの周辺国に比べても)極めて多い。

欧州には(定義に依りますが)6億人くらいしか人口がいません。

しかしアジアでは、中国だけで 13億人、ASEANに 6億人の他、韓国や台湾などそれ以外の国にも 1億人くらいの人口がいます。しかも人口の伸び率は、欧州より圧倒的に高い。

ざっくりフランスと比較しても、「近隣諸国の人口は 3倍」なのです。

加えてアジアは欧州より人口の伸び率も高いし、経済的にもこれからますます豊かになります。訪日観光客数はまだ相当に伸び代が大きいと言えるでしょう。


次にこちらを見てください。フランスやスペイン、ギリシャなど観光業が大きな国は、自国の人口より年間の観光客の方が多いとわかります。

イギリスやドイツなど(欧州の中では人気のない国)でも人口の半分近くの観光客が来ています。


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(パブリックデータより ちきりん作成)


そんな中、日本は 2000万人を迎えてもまだ人口比で 2割。

これが 5割になるだけで、観光客数は 5000万を超えてきます。日本の人口はこれから減り続けるので、どこかでその比率が逆転しても不思議ではありません。


フランスと比べての唯一のハンディは、近隣国が地続きでは無いことです。

なので観光客の数は飛行機と大型船のキャパ & 空港と港湾の処理キャパに制限されます。

スペインのように 5000万人以上を飛行機か船で受け入れている国もあるので、それくらいまで増やすことは可能なのですが、

そのためには成田、羽田、関空だけでなく、地方空港や地方の港がどれほど活用できるかにかかってきます。

ところが、日本ではその地方での「ムスリム対応」があまりにお粗末なのです。


ちなみにイスラム教徒の観光客はどれほどいるのか・・・各国の人口とイスラム教徒比率を見てみましょう。

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これを見ると、人口が多くてイスラム教比率も高いインドネシアが中心になることは間違いないのですが、実は中国やインドにも、相当数のイスラム教徒がいると分かります。

また、すでに LCCなどを利用すれば(アッパー中間層の)海外旅行が可能になってきたインドネシアに加え、

今後バングラディッシュなどが経済発展を始めれば、ものすごい数のムスリム観光客がやってくるはずです。

JETROのレポート によれば、その兆しは既に見え始めています。

バングラデシュへの進出日系企業数は、2015年 1月時点で約 220社となり、過去 4年で 2倍以上に増加した。


実質 GDP成長率が 10年に渡り約 6%と安定的に推移しており、BRICs諸国に次いで 21世紀に有数の経済大国に成長する高い潜在性があるとされるネクストイレブンの一つ


それにね。

ご存じのように、中国と韓国には「政治リスク」があります。領土問題や慰安婦、戦後補償の問題が揉めると、これらの国からの観光客は大きな影響を受けます。

ところがインドネシアを始めとする ASEAN諸国は、基本的には極めて親日的です。

これらの国の中にも旧日本軍に迷惑な行為をされた国はあるのですが、なぜか、反日感情は大きくありません。

このためムスリム市場は(観光業に限らずですが)今後、確実に、そして安定的に伸びていく市場なんです。


実際に日本に来ている人の人数で見ると、2015年にはマレーシアから 30万人、インドネシアから 20万人が訪日しているので、

それぞれのイスラム教比率を掛けると、この二ヵ国だけで既に(去年の段階で) 36万人ものムスリムが日本に来ていると想定できます。


豚肉が食べられない。料理酒などアルコールが(調味料に使われていても)食べられない。鶏肉や牛肉に関しても、ハラル処理(屠殺)が行われていないと食べられない。旅行中でもお祈りが欠かせない・・・

こういった観光客にとって、もっとも大変なのが「地方」です。

東京には少ないなりにムスリム・フレンドリーなお店もあるし、ハラール認証を受けた食材を売る店も存在しています。

しかし地方に行く時には、彼らは適格な保存食(カロリーメイト的なもの?)を持参せざるを得ず、その土地の名物料理でさえ自由に愉しむことができません。

これでは地方になんて行く気にならないよね。

せっかくの海外旅行で、3食を保存食とか、悲しすぎない?


なのに多くの地方では「ムスリム? うーん、まあ、ムスリムが来るようになったら考えます」というレベル。

既に JALはすべての国際線でハラール認証を取得した機内食を提供 し始めているというのに、

礼拝スペースやハラール食も見つけられない地方空港に、イスラム圏からの直行便を誘致するのは不可能です。


さっきも書いたように、これからムスリムの観光客は何倍にも増えていきます。

なんたってインドネシアの人口は既に 2億を超えており、その 9割近くがムスリム。人口も経済力も右肩上がり。しかも彼らはほんとーに“ジャパン・ラブ”なんです。

中国や韓国からの観光客について政治リスクが顕在化した場合も、日本の観光地側でハラール対応ができていれば、すぐにターゲットを変更することもできます。

しかし用意をしておかないと、イザという時に慌ててもムスリム対応はすぐにはできません。


私も著書の中で(あたしが今 20代なら、アメリカに留学する代わりにインドネシアに留学するよ! などと)なんども触れているとおり、この分野は完全にブルーオーシャンの有望な市場です。

人口が減ってる。活性化しなくちゃ。観光客に来て欲しい・・・そんな地方は今こそ競って、積極的なムスリム対応を進めるべきでは?


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そんじゃーね。


平成28年版 観光白書について(観光庁)

・取材協力 ハラールメディアジャパン株式会社


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2016-12-08 新連載 浅草から考える多文化共生

先日、浅草に行ったら・・・インバウンド観光の威力にあらためてブチのめされました。浅草は今、日本で一番、海外旅行客増加の恩恵を受けている町のひとつ。

「不景気」とか「デフレ」という言葉は「どこの国の話?」って感じるほどの賑わいだし、

仲見世通りの外国人比率はパリのシャンゼリゼと同じくらいなんじゃないかな。知らない人はみんな一回、見に行ったほうがいい。


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さて、私が浅草を訪ねた目的は取材。

今回もびっくりするほど多くのことを学べたので、少しずつ紹介していきます。まず初回の今日は、取材を受けてくださった守護彰浩さんのご紹介。


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守護さんは千葉大学の経済学部に在学中、半年を休学して世界放浪をした経験の持ち主。その頃はユーロもドルも高かったので、アジアの国での滞在が長かったとのこと。

そこでインドネシアやマレーシアなど、日本ではほとんど見なかったムスリムの人達とも出会います。

とはいえ当時は大学にいるムスリムの留学生にも、「お祈りって毎日するの?」「何の肉が食べられないの?」と質問するレベルのムスリム初心者。

しかし新卒で就職した楽天で、守護さんにはその後の人生を変える体験がありました。


それはパキスタンからの留学生で、楽天で働くエンジニアとの出会い。彼はなんと 5カ国語が話せ、奨学生として東工大に留学し卒業、もちろん開発者としても超優秀。

正直言って自分や自分の周りにいる「普通の日本人」の何倍も優秀な人材。。。


なのに彼は毎日、食べるモノにも困ってた。

といってもお金の話ではありません。


ムスリムの彼には豚肉だけでなく、材料としてアルコールを含む調味料を使った食事も食べられない。たとえば照り焼き肉にみりんや料理酒が使われていてもダメ。

豚肉以外の肉に関しても、ハラールの認証を受けた特別な屠殺処理が行われていないと食べることができません。

だから毎日お弁当を持参。飲み会に参加しても出てくる料理で食べられるのは焼き魚やサラダのみ。。。

食べ物だけではありません。

2010年の英語公用語化以降は外国人社員も増え、今では環境も整った楽天ですが、当時は毎日のお祈りをする慣習や場所への理解も少なく、イスラム教徒の社員は苦労をしていました。


守護さんは思います。

「こんな優秀な人材が、普通に働くだけでこんな苦労をする国ってどうなんだ?」と。


ところが更にショックな事態が発生。

超優秀なパキスタン人社員が、「日本は働きにくい」という理由で、ムスリムフレンドリーな環境が普及するシンガポールに移ってしまったのです。


まじか!? あれほど優秀な人材で、かつ東工大に留学し、日本で働くことを希望してる人をそんな理由で逃してしまうなんて、日本ヤバイだろ!?

そして、ムスリムの人達が普通に働ける環境を日本にも作りたいと楽天を退職して起業。現在のハラールメディアジャパン株式会社を設立します。

この会社がやっていること、守護さんが目指していることなど、これから少しずつ書いていきますが、今日はもうひとつ、

今回の取材を行った浅草のカフェを紹介しておきましょう。


SEKAI CAFE は仲見世通りのごく近くにあるオシャレなカフェ。

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ここではすべての料理がハラールフード。私がいただいたのは鳥の照り焼き丼ですが、これもお酒は使われていないし、鳥もハラール処理されたものです。

お店はモダンなのにお料理がいかにも「日本の定食諷」なのは、外国人観光客の好みに合わせたためかな。

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とはいえお客さんにはムスリムの方だけでなく、日本人、そしてそれ以外の海外観光客も含まれます。

働いている学生アルバイトの方も、ムスリムだったりヒンズー教徒だったりと様々。(左右がアルバイト。真ん中は店長さん)


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そしてなにより驚いたのは、カフェの隅にお祈りスペースまで用意されていたこと。

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壁の掛け軸(?)には「アッラ−」と書いてあるらしい。

あと、矢印がメッカの方向ですね。

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このスペースはカフェのお客さんだけでなく、浅草を訪ねてきたムスリムの観光客の方には自由に使ってもらっているとのこと。

このカフェについても書きたいコトはたくさんあるんですが、最初から余りにたくさん書くと読者のみなさんもお腹いっぱいになってしまうので、今日はこの辺で。


今年は夏から秋にかけて「難民支援」関連の取材をし、その連続エントリを書いてきましたが、この冬は(来年の1,2月も含め)、

ムスリムの方が「食べるものさえ見つけられない国」日本を、守護さんがどう変えていきたいと考えているのか。

現状から問題点、そして私たちが進むべき方向などについて、ゆっくり連載していきたいと思います。


お楽しみに!

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そんじゃーね。


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2016-12-04 新たな経済成長の源

先週、発売された新刊、おかげさまで販売好調です。さっそくに買ってくださった皆様、書評や感想を書いてくださった皆様に心より感謝します。

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さて、今日も小林雅一さんが朝日新聞に書評を書いてくださってました。

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この書評の注目点は、

身の回りにモノが溢れ、一見豊かな現代社会も「生産性」という観点から見ると問題だらけ。ここに改めてメスを入れることが、長らくデフレに悩む日本など先進国にとって次なる経済成長の源になると本書は説く

と書かれた最後の部分です。


私の本は多くの方の手にとっていただけるよう、親しみやすいイラストを使った装丁に身近な事例をちりばめ、平易な文章で書いた本が多いのですが、

一方でその根幹には、「これから現代社会はどちらの方向に向かっていくのか」という社会の潮流の指摘が含まれています。

たとえば前著の「マーケット感覚」の本では、「社会の市場化」というトレンドに基づき、これからの時代を生きる人に不可欠となるスキルについて詳述しました。


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同じように今回は、「社会の高生産性シフト」という流れを紹介しています。

私たちの日常には「無駄に浪費されているお金や時間」が溢れています。

通勤時間はその最たるものですが、他にも、休日の渋滞や駐車場待ち、病院での待ち時間、スーパーのレジに並ぶ時間など、誰のトクにもなっていない時間が1日のうちにもたくさんあるのです。


これは消費者側からだけでなく、事業者側から見ても同じです。

客を探して延々とカラのまま走り続けるタクシー、高い家賃を払っているのに、24時間中半分ほどの時間しか営業できていない美容院や歯科医、ランチタイムなどピークタイム以外はヒマを持てあましているレストランのバイト、大型連休には予約を断っているのに平日はガラガラの温泉旅館・・・

あちこちで、人件費にも設備投資費にも「多大な無駄」が生じています。


時間だけでなくモノも盛大に無駄にされています。

土日にしか稼働しない自家用車、年に10回も着ないフォーマルウエア、売れ残って廃棄される食材・・・


いったい先進国の「先進」とはどういう意味なのでしょう?

私たちは便利な世の中に住んでいるつもりになっているけれど、1日に 24時間しかない人生のうち、下手をすると毎日 3時間以上も通勤やら待ち時間やらで浪費しています。

電車でスマホゲームをしている人が多いけど、あれは本当に「ゲームが好きだから」でしょうか?

私にはそうは思えません。みんな「電車の中で他にできる生産性の高いこと」が見つからないから、仕方なくゲームで暇つぶしをするのです。


睡眠時間も足りないほど超多忙な生活を送りながら、一方で暇潰しせざるを得ない時間が毎日毎日発生している。

年がら年中お金が足りないと嘆きつつ、一方でものすごく稼働率の低いモノが家中に溢れている。

それが今の先進国の生活なんです。


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(12月3日 日経新聞)


でもだからこそ、そこには大きなビジネスチャンスがあります。

これから大きく伸びるのは、人々の物欲を満たすかわいい(かっこいい)商品ではなく、人々の無駄な時間を減らせる=「生産性を上げるビジネス」です。

Uber や Airbnb の成長の源泉もそこにあります。(詳しくは本書をご覧ください)


先日、勝間和代さんが雑誌で「普通の鍋やフライパンは、ずっと見ていないといけないから使わなくなった。自動調理器は材料を入れて放置できるから便利」といった趣旨のことを書かれていました。

この意味、わかります?

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今までは「めんどうだな」くらいに思われていた「料理中、コンロから離れられない時間」が、明確に「無駄な時間」と認識され始め、それが自動調理器の流行につながっているのです。

ルンバの登場で「掃除機をかけるために、貴重な人生の時間を割り当てたくない」と気づいた人たちが、次なる「無駄な時間」を潰すための行動(投資)に乗り出した、といってもいいでしょう。


本書内では他にもさまざまな例を挙げて「今、いかに消費者が時間の無駄に敏感になりつつあるか」を説明しています。

多くの人は、時間やお金といった自分の希少資源を有効活用できる商品やサービスに価値を見いだし始め、そこにお金を使い始めています。

ビジネスに関わっている人は、一度「自分のビジネスは何の生産性をどれくらい上げるビジネスなのか?」、よーく考えてみてください。


さらに重要なのは、「自分の提供しているサービスが、消費者の生産性を下げていないか」という視点です。

典型的なのがテレビで、「決まった時間にテレビ受信機の前にいる」という、ものすごく時間が無駄になりやすい視聴形態を強いるため、

人生に時間があり余っている(何をして人生の時間を埋めればいいかわからない)定年退職者や、同じくヒマを持てあましている中高年主婦以外、テレビを見なくなってしまいました。

若い人=多忙な人のテレビ離れが起こっているのは「コンテンツがおもしろくないから」ではなく、時間の生産性を下げてしまうからです。

これから成功するビジネスには「その商品やサービスは、どういうメカニズムで誰の、何の生産性をどれほど上げるのか?」が厳しく問われ始めるでしょう。


しかし反対にいえば、これだけ無駄な時間の多い現代社会においては、まだまだ無限のビジネスチャンスがある、ということでもあります。

日本をはじめ先進国は軒並みマイナス金利を導入するなど、どこもデフレ克服に苦労しています。

そんなデフレ下でも高額でも売れている商品をよく見てください。ルンバも自動調理器も驚くほど高いけど、売れています。

それはなぜ?

消費者の人生の希少資源を奪わないから、むしろそれを増やしてくれるから、です。

→ 関連エントリ 「全録画マシンの購入で情報収集の生産性が劇的に向上」


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(ブックファースト新宿店の店頭。許可を頂いて撮影)


今回の本は、ふたつの視点から書かれています。

ひとつは、個々人が自分の人生の希少資源である時間やお金をどう有効活用すべきか、という視点です。

限られた資源をできる限り高い生産性で活用し、「やりたいことはぜんぶやれる人生」を手に入れて欲しい。

そう願っています。


そしてもうひとつが、このエントリで紹介した「新しい社会の潮流」です。

世の中がこれからどちらに向かっていくのか。それを理解していないと、人生の選択を誤ります。

私がなぜ「学校がダメダメだ」と考えているのか、その理由も詳述しています。


ぜひお手にとってみてください。


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そんじゃーね。


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