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Chikirinの日記 RSSフィード

2017-03-30 イベント報告 高生産性社会における本の価値

先日行われたこちらのイベント、私自身は告知しなかったにも関わらず定員の 3倍ものお申し込みがあり、参加は抽選となったらしいです。

なので、「申し込んだけど当たらなかった!」という方のため、簡単に内容報告ブログを書いておきます。


https://honto.jp/cp/hybrid/campaign/chikirin2017-entry.html  


イベントのテーマは、「高生産性シフトが起きたら、書籍はどんな形になっていくのか?」ということでした。

コンテンツとしての質は高くても、生産性が低い(視聴者の時間を無駄にする)テレビが、

コンテンツとしての質はともかく、(見たい動画も検索でスグに探せ、5分で大笑いできる)生産性が極めて高い動画にやられている現実から、

同じコンテンツ商品である書籍についても、中身の善し悪しより消費者にとっての生産性が選ばれる鍵となっていくのでは? 

というのが、下記の本で私が展開した仮説であり、今回のディスカッション・イベントのテーマでもありました。


→ 楽天ブックス 紙版   kobo版

→ アマゾン 紙版   キンドル版


この本で詳述したように、大事なのは「生産性」の要素を確認すること。

多くの場合、分母の希少資源は「お金」と「時間」のどちらかですが、分子の「手に入れたい成果」は極めて多岐にわたります。

f:id:Chikirin:20170328174454j:image:w450


そこでまずは「読み手」が書籍にもとめるもの(成果)は何だろう? というところから議論を開始。

私が叩き台として用意したのは下記なのですが、

f:id:Chikirin:20170328174455j:image:w520


100万部以上も売れたスティーブ・ジョブズ氏の評伝を例に、この本を買った 100万人は、いったい何を手に入れたくて書籍を買ったのだろう? と会場全体で考えてみたところ、

他にも、

「部屋や本棚に飾りたいから買った人もいるはず。いわゆるジャケ買い」とか、

「ジョブズの本、読んだ?」と回りから言われる事態に備えるために買う起業家もいる、

などの意見が出され、

「読み手」が書籍に求める成果ってけっこう多彩なんだなとわかります。


すると、「そういう成果を得るために、もっとも生産性の高い形式はなにか?」という話になる。

たとえば電子書籍と紙の本を比べてみましょう。

電子書籍だと、人にわざわざ「オレ、スティーブ・ジョブズの本を読んでるんだぜ」って口で言わないといけない。

でも紙の本だと、持ち歩くだけ、家の本棚に置いてるだけで、「オレ、この本、読んでるんだ」と伝えられます。

つまり、それが求める成果なら、紙の本のほうが電子書籍より生産性は高いんです。

スティーブ・ジョブズ I
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売り上げランキング: 8,248


次に議論は、じゃあスティーブ・ジョブズの人生について知るという成果を得たい場合、あの分厚い本を買うことは本当に生産性が高い方法なの? という点へ。

すると会場は「それが成果だとすると・・・生産性は必ずしも高くないよね」という雰囲気。

だってネット上には、もっと「さくっ」とスティーブ・ジョブズの人生のハイライトを知る方法が、いくらでも溢れてますからね。


このように今回は、「生産性」という基準で「書籍の今後」について考えてみました。

他にも、「源氏物語」は、マンガ 30巻で読むのと、現代語訳で読むのと、与謝野晶子訳で読むのと、オリジナル(古文)で読むのと、どれが「読み手」にとって生産性が高いのか? について考えてみたり。

これはもっと一般化すると、「マンガって、文字の本より生産性が高いのか?」という話でもあります。

   ↑マンガ   ↓テキスト

ここでも、マンガは「頭を真剣に動かす時間」をあまり消費しない。

だから、それが希少資源だという人にとっては、もしくはそういう場合には、とても生産性が高い」という結論に。


そうなんだよね!

世の中には「消費者の頭を使わせるエンタメ」と「使わなくても楽しめるエンタメ」があり、前者は(他のエンタメだけでなく)仕事や勉強とも競合する。

マンガだと頭を使う勉強で疲れた合間でも読めるのは、そういうこと。


次に話は「読み手」から「作り手」=出版社や編集者に移行します。

「書籍を作ること」の生産性について、こちらはダイヤモンド社の横田さん(ちきりん本の担当編集者)を交えてディスカッション。

電子書籍の生産性についてもあれこれ議論して、その部分もとても面白かったのですが、ここでは別の話をご紹介しましょう。


横田さんによると、「この人を世に出したい」というのも、本の作り手が求める成果のひとつらしい。

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そこで当日は「スゴイけど無名」の人を世に出すために、もっとも生産性の高いメディアや方法論は何か? という点について考えました。

例にとったのが、下記の本が 100万部を軽く超え、今やニューヨークでもサイン会に行列のできる近藤真理恵さん。

人生がときめく片づけの魔法
近藤麻理恵
サンマーク出版
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彼女のように「無名だがスゴイ人」を売り出すのに、もっとも生産性の高い方法はなにか? という議論では、

最初は「書籍よりテレビのほうが生産性が高そう」と考えていた会場の人達も、議論の途中で、

「でも、近藤麻理恵さんは最初に本を書いたからこそ、あそこまで行けたのでは? 実は書籍の「無名のスゴイ人を世に出す生産性」ってスゴク高いのでは?」的な雰囲気に。

長くなるので詳しくは書けませんが、このあたり「話してる間にみんなの意見が変わってくる」のがとてもおもしろかったです。


最後に、「書き手」にとっての書籍の生産性について話したり、

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質疑応答では、「小説の生産性をどう思うか?」という質問も。

ちなみに私自身は、エンタメとしての小説の生産性は非常に高いと思っています。

本好きの人なら、文字通り寝食を忘れて何時間も読み続けた本、というのが一冊や二冊はあるはず。

でも、「寝食を忘れて 10時間見続けたテレビ」とかあります?


ないでしょ。

しかも本は追加課金も要らず、文庫なら 1000円弱で 10時間も楽しめる。

つまり、希少資源がお金だとしても時間だとしても、さらには「ワクワク感」だとしても、エンタメとしての本の生産性はとても高いんです。


なんだけど、問題は「自分がそこまでハマれる本に出会う」ためのプロセスの生産性が低すぎること。

ネットショップの「この本を買った人はこちらの本も買っています」というリコメンド機能は、まだまだ使えるレベルにはほど遠い。

SNSの普及で、ビジネス書や実用書については「あの人の勧める本なら間違いない!」といった判断が、ある程度はできるようになりました。

でも、エンタメは個人によって趣味嗜好がまったく違います。

だから自分と気の合う人が「おもしろい!」と絶賛してても、自分にとっておもしろいかどうかはわからない。


このように、高生産性シフトが起こるこれから、書籍(特に小説などエンタメ系)にまつわる最大の問題は「自分にとってめちゃくちゃ面白い本に出会うプロセスの生産性が低すぎること」なので、

本がこれからも生き残りたければ(内容をおもしろくする云々の前に)この部分の生産性を( AIなりビッグデータなり使って)どこまで高められるかにかかってる。

この部分こそ、大きなイノベーションが必要なのです。

なぜなら、「その部分の生産性が堪えられないほど低い」から。


などなど、当日は「本」を題材として高生産性社会のありかたについて議論しました。

今回は honto さんの主催だったので本を題材に議論しましたが、トピックは自動車や家でもいいし、教育制度、医療制度など社会制度でもいいんです。

それら世の中のモノ、サービス、そして制度について、

1)ユーザーがそれに期待する成果はなにか?


2)その成果をもっとも高い生産性で手に入れられる方法はなにか?

という順番で考えていくと、それらの「未来にまで生き残る形」が浮かび上がってきます。

それが、高生産性シフトが起こる社会の姿を考えるということにつながる。


自分のアタマで考えるのって、ほんとに楽しい!

来てくださった方、ありがとうございました。


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そんじゃーね。



2年前に行われた前回の honto cafe でのイベント報告ブログは、こちらでお読みいただけます。


http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/  http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/

2017-03-17 社会の生産性を上げるため廃止すべき 10の制度

膨大な財政赤字を抱え、人口減少が急速に進む日本。もはや無駄にできるお金と時間はありません。

この「お金」と「人の時間」という希少資源をいかに有効活用するか、というのが「生産性」の話。

そこで今日は社会の生産性を上げるため、廃止を目指して検討を始めるべき 10個の社会制度について考えてみました。

すぐにとは言わないけど、次の 10年くらいをかけてこれらをすべて無くせれば、日本はとっても高生産な社会になれると思います。


1)通勤という習慣

政府はプロジェクトチームを立ち上げ、どうやったら「通勤」を無くせるか、真剣に検討すべき。

特に、1日 1時間半を超えている首都圏の通勤時間は、1週間分で 1日の労働時間に匹敵するほどの長さとなっており、時間もお金もエネルギーも無駄すぎです。

いきなりゼロにするのは難しいとしても、少なくとも

・30分を超える通勤は無くす

・今のラッシュ時のような満員電車はゼロにする

方法を、社会全体で知恵を出し合い、最新のテクノロジーを活用して実現しましょう!


2)投票制度

投票所に足を運び、鉛筆で紙に候補者名や政党名を書いてハコにいれ、それらを人間様が何時間もかけて数えるという原始的な制度を、早く廃止しましょう。

これも多大な時間と税金の無駄を生んでいます。

生体認証とマイナンバーとモバイル端末・・必要なインフラ要素は既に出揃っているのだから。


3)現金制度

たかだかお金を払うためだけに現金を使う必要はありません。

クレジットカードと電子マネーだけにすれば、コンビニ強盗も牛丼屋強盗もタクシー強盗もゼロにできます。

お釣りの両替や毎日の清算業務もなくなり、小売業の生産性も大幅に上昇します。

レジでモタつく客も減り、レジで働く人の生産性も上がるはず。(将来的にはレジ自体も無くなりそうですけど)

客もバイトも店も銀行も、現金さえなければ、みんな生産性が上がるんです。


加えて堀江さんも指摘のとおり、現金は脱税や賄賂、違法薬物や拳銃の購入など「悪いこと」に使われがち(使いやすい形態)なので、それらの犯罪を減らすことにもつながります。


4)長すぎる一律の義務教育

小学校ってホントに 6年も行く必要ありますかね? 

3年くらいで(今、6年で教えられていることを)理解できる子どももいるでしょ。

コア教育は小学校 3年、中学校 1年半にして、できる子はどんどん飛び級させるなり、勉強以外の体験に時間とお金を使う、他国に住んでみるなど、別の経験を積ませたほうが成長の生産性が高いと思います。

もちろん 6年必要な人は 6年かければいいし、9年必要なら 9年かければいいです。

でもね、今、6年でも全部を理解できていない子どもは、ほんとうに 9年かければ理解度が深まるんですかね?? 

てか、3年でも 6年でも 9年でも、結局「わかることはわかるし、わからないことはわからないまま」なのでは?

だったら無駄にする時間は短いほうがいいじゃん。

全員に一律、同じ期間、同じ勉強をさせるのは、教育の生産性が低すぎます。


5)生活保護以外の社会保障制度

5年前も前に書いてるとおり→「生活保護以外、すべて廃止したらどう?

あれこれ複雑な社会保障制度をたくさん作ると、数多くの公務員を必要とするのでスゴク無駄です。

ホントに困ってる人にお金を渡す、というシンプルな制度にすると、プロセスにかかるコストが激減し、福祉の生産性も大幅に高まるはず。


6)決算・納税制度

現金を廃止し、すべてのお金の流れをマイナンバーや企業コードとヒモ付ければ、企業も個人も決算とか納税事務とか不要でしょ。

収入も支出もすべてリアルタイムで電子的に記録されてるんだから、毎月、自動的に決算ができあがるはず。

日本中の会社や労働者が、請求書とか領収書とかの処理にかけている時間の無駄なこと無駄なこと。

会社員が使った経費のレシートに用途をかき込み、専用用紙に貼り付けてイチイチ経費請求してる時間だって、日本全体で合計したら膨大なのでは?

こんな無駄な制度、「どうやったら無くせるか」という方向でスグにでも検討を始めるべき!


7)紙

雑誌とか新聞って、紙で発行するの、禁止したらいいのに。

資源の無駄でしょ。

子どもの教科書だって、毎日毎日「明日の時間割り」を確認し、重い教科書や副読本を「家から学校に持っていき」「学校から家に持って帰る」そんな作業になんの意味が? 筋トレ?

病院のカルテや服薬記録だって、電子化してすべての病院や薬局、そして本人がどこからでも確認できるようにすべき。治療にも役立つし、無駄な投薬も減るはず。

契約書とか住民票とか請求書とか履歴書とか、なんで未だにイチイチ紙で要求されるのかな。

早く改ざんの難しい電子書類フォーマットを開発して、そっちに統一すべきよね。


8)運転制度

人間が運転する必要なんてないよね?

すくなくとも高速道路上の人間の運転はすぐにでも廃止すべき。

スピード出しすぎ、ハンドル操作のミス、居眠り運転、酒気帯び運転、無免許運転、高齢者の運転ミス、ぜんぶ無くせるんですよ。

長距離バスや長距離トラックの「人間による運転」もさっさと禁止しよう!


9)卒業証書

卒業証書なんて無くせばいいのに。

そしたら誰でも「東大卒です」とか言えるので、学歴だけが欲しい人は大学に行かなくなり、ほんとに勉強したい人だけが進学することになる。

新卒就職を有利にするためだけに 4年もの期間と一千万円ものお金を使うなんて、まったくもって生産性が低すぎる。

卒業証書がなくなれば、大半の応募者が東大か京大か慶應を卒業したと言い張るので、雇う企業の側も学歴ではなく人間本位で採用をせざるを得なくなる。

そのほうが圧倒的にまともです。


10)未定

きっと私が見落としている「これが無駄すぎる!」という社会制度が他にもあると思うので、10個目はツイッターなどで寄せられたご意見を見ながら、あとで追記します。

なぜなら!

「すべてを一人で考える」なんて、すごく生産性が低いんだもん。


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そんじゃーね。



★著作のご紹介★

以下は、これからの世の中を生き抜くために必須となる「根幹の力」を解説したシリーズ本です。


一冊目は、知識と思考の違いを理解し、誰かの受け売りではなく、しっかり「自分の意見」を言えるようにするための「考える方法」の本。

自分のアタマで考えよう
ちきりん
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 2,304


→ Kindle 版

→ 楽天ブックス


二冊目は思考力や論理構成力とは異なる、「市場」を理解するための感覚について解説した本。

考えることは大事だけど、それだけでは世の中の動きは理解できない。人間とは本来イロジカル(非論理的)なものなのです。

マーケット感覚はビジネスだけでなく、就職や結婚といった人生の選択にも大きな影響を与えることを知ってほしい。


→ Kindle 版

→ 楽天ブックス


新刊の三冊目は「時間とお金」という人生の希少資源を有効活用し、「忙しいだけの人生」を脱し、「ほんとうに自分がやりたいこと」をすべてやりきるための方法論について書いてます。

社会が高生産シフトを起こすなか、「生産性」の意識を持てるかどうかは、本当に大事になります。


→ 楽天ブックス 紙版   kobo版

→ アマゾン 紙版   キンドル版

ぜひ 3冊まとめてどうぞ!


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2017-03-04 実は面倒な電子書籍

最近は「本を買うなら電子書籍」という人も増えてますよね。

読みたいときにすぐ読める、かさばらず保存も楽、メモや検索も簡単と、読み手にとっては「便利なことばかり」の電子書籍ですが、実は出版社にとっては「けっこうやっかいな商品」だったりもします。

読者の中には「紙代も印刷費もかからない電子書籍の価格が紙の本とほぼ同じなのは納得できない」とか、

「電子書籍の発売開始日が紙の本より遅れるのはなぜ? 同時発売して欲しい」

といった疑問や不満もあるかと思います。

なので今日は私に分かる範囲で、その理由を書いておきます。

なお今日取り上げるのは、著者が自分で出すセルフパブリッシング(ダイレクト出版)の話ではなく、出版社から紙でも発売される商業出版ベースの書籍の、電子版の話です。


1.電子書籍を作るのは紙より面倒

出版社が本を出す場合、まずは中身を作ります。

著者に文章を書いてもらい、著者推敲が終わって目次構造が決まると、

・図や絵が作成され、

・校正、校閲作業が行われ、同時に、

・本の大きさ、文字フォントやページデザインが決まり、

・タイトルを決めて章扉を付けてページ数を確定させ、

・表紙デザインを決める、

といった編集作業が行われます。


ここまでは紙の本だけを作る場合も、電子書籍を併せて出版する場合も同じです。

この後、紙の本だけなら、印刷する紙の種類を決めて、上記原稿のファイルを印刷会社に送れば終わりです。

当然ですが原稿ファイルも、そして印刷 & 製本された本も一種類だけです。


ところがこの本を電子書籍でも出そうと思うと、「その電子ファイルを一括送信して終わり!」とはいきません。

電子書籍には、様々なフォーマットがあるからです。

キンドルに kobo に Kinoppy に ガラパゴスにソニーに iBooks と、多くのリーダーが存在してるのは皆様、ご存じのとおり。(ここで挙げた以外にもまだあります)

さらに、これらのリーダーアプリが使われる端末(OS) も iOS に android に windows にと分かれており、加えてそれぞれ異なるバージョンの OS が併用されています。

こういった「めっちゃたくさんある」フォーマットや端末のすべてでトラブル無く読める電子書籍ファイルを同日配信できるように仕上げるのは、

「印刷会社に原稿ファイルを送って終わり」の紙の本より、遙かに面倒な作業です。


時には「電子書籍を買ったのに文字化けして読めない・・・」みたいな連絡も入ります。

すると出版社はそのユーザーに「恐れ入りますが、アプリのアップデートをお願いします」などと(本来、ユーザー側の責任事項であることについても)丁寧に対応します。

紙の本の場合、購入者と出版社が「本を買ったが文字がぼやけて読めないのだが?」→「老眼が進んだ可能性があるので、眼鏡屋で調整してください」みたいなやりとりをすることはあり得ません。

でも電子書籍の場合、相手の端末やアプリの不具合であっても丁寧に対応しないと、ヒドいレビューを書かれちゃいます。


あと、電子書籍ショップの販売サイトには、本の内容紹介や価格や出版日などが書かれてますよね。あのデータを入力するのも出版社の担当者です。

数多ある電子書籍販売サイトのそれぞれに、出版社名、出版日、ISBM、著者名、本の内容などをそれぞれ入力し、表紙画像をアップロードしていく作業だって、それなりの時間がかかります。

コピペするだけだろって? 

・・・入力できる文字数が、サイトによって違ってたりもするんですよね。


しかも電子書籍ショップの中には、内容審査のためにアップロードから販売開始まで時間が必要なところもあるなど、そのルールもバラバラ。

こうなってくると、すべての電子書籍プラットフォームで同時出版するなんて、個人ではとても無理。

だから私も自主製作した電子書籍については、キンドルだけでしか出していません。


でもね、出版社はそんなことはできません。


だって出版社が「キンドルでしか出さない」なんて始めたら、どーなるか? 

出版界におけるアマゾン様の力が益々巨大化し、それこそ業界の命運をベゾスおじさんに握られてしまいます。

それは困る。だから、できる限り(アマゾンのシェアが上がりすぎないよう)他のプラットフォームにも本を提供する必要があるんです。


もちろん最近はフォーマットの統一も進んで来たし、これらの作業を請け負う外注業者も現れています。

出版社でも、大手なら電子書籍化を担当する社員を雇っていますが、小さな出版社は外注を使います。

でも結局、必要な作業は同じで、外注業者がやるか出版社がやるかの違いだけです。

外注すれば当然、外注費も発生するし、リードタイムも必要となります。

自動化? もちろんそれも、ある程度は進んでます。でもその開発費だって、誰かが払う必要があるんです。


結果として資金力の弱い小さな出版社では、「紙で(ある程度)売れた本だけを電子書籍にしよう」と考えたりするため、今だに「紙の本しか出ない本」が存在します。

また、紙の本と電子書籍で数ヶ月のタイムラグがあるのは、「まずは紙の本を売って、資金回収の目処がついたら電子化しよう」と考えていたり、

単純に人手が足りなくて、最初に紙の本を作るという仕事を終わらせ、「その後で」電子化に取りかかる、みたいな場合もある。

いずれにせよ電子書籍を作るのは、多くの読者が想像しているより、遙かにめんどくさい作業なのです。


2.超面倒な印税支払い

さらに面倒なのが印税の支払い事務です。

紙の本は、「印刷した時」しか著者に印税を払いません。

最初に初版が印刷されると初版印税が支払われ、増刷(重版)になると、増刷した分の印税が支払われます。

重版になる本は 3割ほどらしいので、大半の本は一度も増刷されません。

つまり出版社が著者に印税を払うのは、「最初に本が発売された時だけ」なのです。


また、たとえよく売れて重版される本でも、そのタイミングはせいぜい出版から 1年ほどです。

言い換えると書籍の 9割以上は、初版出版から 1年もたてば、もう永久に増刷されません。

だから、数回の増刷がかかる「よく売れた本」であっても、出版者が著者に印税を払うのは、新刊発売から 1年以内、かつ数回だけなのです。


ところが!

電子書籍には印刷という概念がありません。

このため電子書籍の印税は、「売れた時に、売れた分だけ」支払われます。

多くの場合、年に 2回か 4回、定期的に「その直前の半年(もしくは 3ヶ月)に売れた分の印税」が支払われるという契約になっています。


そして!

この印税は、各電子書籍ショップから別々に出版社に送られてきます。

たとえば、卸値 500円の本がキンドルで10冊、kobo で5冊、Kinoppy で3冊、honto で3冊、iBooks で 2冊売れたとしたら、

出版社には、アマゾンから5000円が、楽天から 2500円が、紀伊國屋 と honto から 1500円が、アップル から 1000円が振り込まれてくるんです。


めんどくさくね?


しかも上記では卸値はすべて 500円で計算しましたが、実際には、各電子書籍ショップへの卸値は同じ出版社、同じ本でも同一ではありません。

各ショップごとに異なる卸値が設定されており、それぞれで過去数ヶ月に売れた分の代金が、

アマゾンからは毎月 5日に、楽天からは毎月 15日にといった形で(←日付は例です)バラバラの支払期日に、出版社の口座に振り込まれます。

紙の本と違ってセールが行われたりすると、月の途中で値段が変わったりもします。

出版社はそういった「めちゃくちゃ細かい売上げデータ」を見ながら、今度は著者別にその印税を集計しなおし、

「ちきりんさんには、今月は○○円を振り込む。別の著者の○○さんには・・・」という再計算を行います。

著者の数、本の数の多さを考えると、これがどんだけめんどくさい作業か、想像できますよね?


繰り返しますが、紙の本ではこういった支払い事務はまったく発生しません。

紙の本だけなら、出版社が著者に印税を払うのは大半が 1回で終わり、一部の「売れた本」に関しても、出版から 1年ほどの間に数回、払うだけです。


一方の電子書籍では、多くの電子書籍ショップから毎月毎月、細かい代金が振り込まれるので、それを著者別に再集計して印税を振り込み、支払い明細を郵送するという作業が、出版から何年たっても続くのです。

しかもそれを「今年、出した本」だけでなく「過去に出したすべての本」に行うのだから、その作業量は毎年毎年どんどん増え、累積していく一方です。

これは小さな出版会社にとっては、相当に大きな負担でしょう。


だからここにも外注業者が存在します。彼らは複数の電子書籍ストアからの売上げをとりまとめ、出版社にまとめて払ってくれます。

でも・・・前述したように、外注はタダではありません。

誰かがこの面倒な作業を行い、誰かがその費用を負担する。それは内製であれ外注であれ同じです。


さらに、著者に印税を振り込む際には銀行の振り込み手数料もかかります。

このため「支払うべき印税が 5000円以内の場合は、支払いを次回に延ばす」みたいな契約になっているのですが、

とはいえ「過去の、支払わずに保留されている印税額をすべて記録しておき、 5000円に達したらすかさず払う」というのも、手作業ではまずできません。


「去年までの累計印税は 3400円、今年が 1200円だからあわせて 4600円」などと、すべての本の印税データについて、エクセルで管理するとかできないでしょ。

こうなると一定のシステム投資ができない小さな出版社では、電子書籍の印税管理さえできません。

それにそもそも紙の本であれば、著者への支払いは少なくとも数万円以上で行われ、5000円で支払うなんてこと自体がなかったのです。


3.永久に続く経理処理

さらーに!

電子書籍はそこまでのロングセラーで無くても、何年にも渡って売れ続ける場合があります。

私はこれを「電子書籍年金」と呼んでるんですけど、

たとえばこちら。私が 2013年に、出版社を通さずに自分で作った電子書籍(ブログの運営記)です。

「Chikirinの日記」の育て方
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出した直後の 1年で 500万円くらいの印税が振り込まれた後、売上げはガクッと落ちましたが、

4年近くたった今でも毎月 1万円以上の印税が振りこまれます。


ってことは、10冊だしたら月に 10万円ずつ振り込まれてくるってこと?

それって基礎年金より多いじゃん?

と(一瞬だけ)目がキラッ!としました。


このように著者にとっては、電子書籍の印税システムは悪くありません。

紙の本だと、出版年とその翌年くらいしか収入になりませんが、電子書籍なら細々とではありますが、ずっと収入が続きます。

下記の本は出版社から 6年前に出した本ですが、今でも毎年 40万円ほどの電子書籍印税が受け取れます。

おそらく 4年後(出版から 10年後)でも、幾ばくかの印税は発生してるんじゃないでしょうか。

自分のアタマで考えよう――知識にだまされない思考の技術
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だとすると、「著者だけでなく出版社もずっと儲かるのだからいいじゃん!」と思えます?

んが!

そうではありません。この「永久に印税が発生する」というのは、出版社にとっては悪夢なのです。


なぜなら!

紙の本だけなら出版の後、1年たって、著者が引っ越しても死んでもなんの関係もありません。

でも電子書籍が 10年後にも売れてたら、たとえその冊数がごく僅かであっても、

・著者が転居しても常に現住所を把握しておき、支払い明細や支払い調書を送付する必要があるし、

・著者の離婚や結婚で氏名が変わって口座名が変わればそれも把握して口座登録を変更し、

・著者が死んだ時には、相続人から相続書類を提出してもらい、相続人のマイナンバーも提出してもらって、その人の口座に印税を払い続ける、という、


意味不明にややこしい手続きを続ける必要があるからです。


たとえば私はダイヤモンド社から 3冊の本を出してますが、私が死んだあと、もし 3人の相続人が「私たち、それぞれ一冊ずつ、本の印税契約を相続しましたー!」って言ってきたら、

ダイヤモンド社はこれまで私にだけ払っていた電子書籍の印税を、3人の相続人に別々に払うという事務処理をする必要があり、その 3人の住所とマイナンバーの管理も必要になります。


まじなのか!?


みたいなめんどくささでしょ。


今まで=紙の本しかなかった時には、著者が死んだあとに印税を払う必要なんて、ほとんどありませんでした。

紙の本が書店で売れても、印税は発生しません。新たな印税が発生するのは「増刷」が行われた時だけです。

そして著者の死後も増刷され続ける本なんて、司馬遼太郎さんとか星新一さんレベルの人だけです。

こういう著者に関しては、出版社は今でもその著作権の相続者と契約を続け、増刷されれば印税を払っています。

数少ない大作家にたいしてなら、それも可能でしょう。


でも電子書籍の場合「一冊売れるごとに新たな印税が発生」するため、ごく普通の著者にたいしても長々と印税支払いが続きます。

しかも今は、ネットに書かれた書評がいつまでも残っている時代です。

私もこのブログで本を薦めるエントリをよく書いていますが、

ずっと先、私や著者が死んじゃった後にだってそのエントリを読んで、「わー、この本おもしろそう! 私も読んでみたい!」と思う人はいるでしょう。

そういう人が年にふたり現れるだけでも、 15年で印税は支払い基準の 5000円を超えてきます。


紙の本であれば、「わー、読んでみたい!」と思った時には絶版で読めなかったりするのに、電子書籍ならいつまででも読めるため、

究極的にはどの本も、何十年か後には印税支払いが必要になる可能性があるんです。


すると出版社は印税を払うために、本が出てから 何十年もたっている著者の現住所や銀行口座やマイナンバーを調べるわけですが、

そんだけ時間がたってると担当編集者も退職してたり、著者も引っ越してたり、死んでたりするわけで・・・果たして正しく支払い業務を続けることが可能なのか、甚だ疑問です。


著者が死んで 50年たてば著作権が切れ、印税を払う必要はなくなるのではって?

なるほど。

そうなると今度は「どの本の著者がいつ死んだか」というデータを出版社は集める必要がでてきます。

太宰治氏ならメディアでも「没後○○年!」などと報道されますけど、その辺のふつーの著者なんて「いつ死んだか」どーやって調べるんですかね?

まさか「ネットで検索したら、○○年に死んでるらしい」みたいな噂に基づいて、契約事項を変えたりできませんよね? 遺族に死亡届をだしてもらって、50年、管理するの?


考えれば考えるほど、考えたくなくなりますね。


というわけで、「印刷も不要で在庫リスクも無い。だったらもっと安くて当然」と思われがちな電子書籍ですが、

出版社のバックオフィスにとっては、実はめっちゃめんどくさい商品なのです。

もちろん「すごく売れる本」であれば、それだけの手間暇をかけても全く問題ありません。

しかし、たいして売れない本に関しては、「正直、時代が時代だから電子版も出さざるを得ないけど、たいして売れない本の電子書籍なんて作りたくない」のが出版社の本音なんじゃないでしょうか。

そしておそらく今後は「電子書籍の絶版」という笑えない事例だって増えてくるかもしれません。


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そんじゃーね。


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