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Chikirinの日記 RSSフィード

2017-03-30 イベント報告 高生産性社会における本の価値

先日行われたこちらのイベント、私自身は告知しなかったにも関わらず定員の 3倍ものお申し込みがあり、参加は抽選となったらしいです。

なので、「申し込んだけど当たらなかった!」という方のため、簡単に内容報告ブログを書いておきます。


https://honto.jp/cp/hybrid/campaign/chikirin2017-entry.html  


イベントのテーマは、「高生産性シフトが起きたら、書籍はどんな形になっていくのか?」ということでした。

コンテンツとしての質は高くても、生産性が低い(視聴者の時間を無駄にする)テレビが、

コンテンツとしての質はともかく、(見たい動画も検索でスグに探せ、5分で大笑いできる)生産性が極めて高い動画にやられている現実から、

同じコンテンツ商品である書籍についても、中身の善し悪しより消費者にとっての生産性が選ばれる鍵となっていくのでは? 

というのが、下記の本で私が展開した仮説であり、今回のディスカッション・イベントのテーマでもありました。


→ 楽天ブックス 紙版   kobo版

→ アマゾン 紙版   キンドル版


この本で詳述したように、大事なのは「生産性」の要素を確認すること。

多くの場合、分母の希少資源は「お金」と「時間」のどちらかですが、分子の「手に入れたい成果」は極めて多岐にわたります。

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そこでまずは「読み手」が書籍にもとめるもの(成果)は何だろう? というところから議論を開始。

私が叩き台として用意したのは下記なのですが、

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100万部以上も売れたスティーブ・ジョブズ氏の評伝を例に、この本を買った 100万人は、いったい何を手に入れたくて書籍を買ったのだろう? と会場全体で考えてみたところ、

他にも、

「部屋や本棚に飾りたいから買った人もいるはず。いわゆるジャケ買い」とか、

「ジョブズの本、読んだ?」と回りから言われる事態に備えるために買う起業家もいる、

などの意見が出され、

「読み手」が書籍に求める成果ってけっこう多彩なんだなとわかります。


すると、「そういう成果を得るために、もっとも生産性の高い形式はなにか?」という話になる。

たとえば電子書籍と紙の本を比べてみましょう。

電子書籍だと、人にわざわざ「オレ、スティーブ・ジョブズの本を読んでるんだぜ」って口で言わないといけない。

でも紙の本だと、持ち歩くだけ、家の本棚に置いてるだけで、「オレ、この本、読んでるんだ」と伝えられます。

つまり、それが求める成果なら、紙の本のほうが電子書籍より生産性は高いんです。

スティーブ・ジョブズ I
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次に議論は、じゃあスティーブ・ジョブズの人生について知るという成果を得たい場合、あの分厚い本を買うことは本当に生産性が高い方法なの? という点へ。

すると会場は「それが成果だとすると・・・生産性は必ずしも高くないよね」という雰囲気。

だってネット上には、もっと「さくっ」とスティーブ・ジョブズの人生のハイライトを知る方法が、いくらでも溢れてますからね。


このように今回は、「生産性」という基準で「書籍の今後」について考えてみました。

他にも、「源氏物語」は、マンガ 30巻で読むのと、現代語訳で読むのと、与謝野晶子訳で読むのと、オリジナル(古文)で読むのと、どれが「読み手」にとって生産性が高いのか? について考えてみたり。

これはもっと一般化すると、「マンガって、文字の本より生産性が高いのか?」という話でもあります。

   ↑マンガ   ↓テキスト

ここでも、マンガは「頭を真剣に動かす時間」をあまり消費しない。

だから、それが希少資源だという人にとっては、もしくはそういう場合には、とても生産性が高い」という結論に。


そうなんだよね!

世の中には「消費者の頭を使わせるエンタメ」と「使わなくても楽しめるエンタメ」があり、前者は(他のエンタメだけでなく)仕事や勉強とも競合する。

マンガだと頭を使う勉強で疲れた合間でも読めるのは、そういうこと。


次に話は「読み手」から「作り手」=出版社や編集者に移行します。

「書籍を作ること」の生産性について、こちらはダイヤモンド社の横田さん(ちきりん本の担当編集者)を交えてディスカッション。

電子書籍の生産性についてもあれこれ議論して、その部分もとても面白かったのですが、ここでは別の話をご紹介しましょう。


横田さんによると、「この人を世に出したい」というのも、本の作り手が求める成果のひとつらしい。

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そこで当日は「スゴイけど無名」の人を世に出すために、もっとも生産性の高いメディアや方法論は何か? という点について考えました。

例にとったのが、下記の本が 100万部を軽く超え、今やニューヨークでもサイン会に行列のできる近藤真理恵さん。

人生がときめく片づけの魔法
近藤麻理恵
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彼女のように「無名だがスゴイ人」を売り出すのに、もっとも生産性の高い方法はなにか? という議論では、

最初は「書籍よりテレビのほうが生産性が高そう」と考えていた会場の人達も、議論の途中で、

「でも、近藤麻理恵さんは最初に本を書いたからこそ、あそこまで行けたのでは? 実は書籍の「無名のスゴイ人を世に出す生産性」ってスゴク高いのでは?」的な雰囲気に。

長くなるので詳しくは書けませんが、このあたり「話してる間にみんなの意見が変わってくる」のがとてもおもしろかったです。


最後に、「書き手」にとっての書籍の生産性について話したり、

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質疑応答では、「小説の生産性をどう思うか?」という質問も。

ちなみに私自身は、エンタメとしての小説の生産性は非常に高いと思っています。

本好きの人なら、文字通り寝食を忘れて何時間も読み続けた本、というのが一冊や二冊はあるはず。

でも、「寝食を忘れて 10時間見続けたテレビ」とかあります?


ないでしょ。

しかも本は追加課金も要らず、文庫なら 1000円弱で 10時間も楽しめる。

つまり、希少資源がお金だとしても時間だとしても、さらには「ワクワク感」だとしても、エンタメとしての本の生産性はとても高いんです。


なんだけど、問題は「自分がそこまでハマれる本に出会う」ためのプロセスの生産性が低すぎること。

ネットショップの「この本を買った人はこちらの本も買っています」というリコメンド機能は、まだまだ使えるレベルにはほど遠い。

SNSの普及で、ビジネス書や実用書については「あの人の勧める本なら間違いない!」といった判断が、ある程度はできるようになりました。

でも、エンタメは個人によって趣味嗜好がまったく違います。

だから自分と気の合う人が「おもしろい!」と絶賛してても、自分にとっておもしろいかどうかはわからない。


このように、高生産性シフトが起こるこれから、書籍(特に小説などエンタメ系)にまつわる最大の問題は「自分にとってめちゃくちゃ面白い本に出会うプロセスの生産性が低すぎること」なので、

本がこれからも生き残りたければ(内容をおもしろくする云々の前に)この部分の生産性を( AIなりビッグデータなり使って)どこまで高められるかにかかってる。

この部分こそ、大きなイノベーションが必要なのです。

なぜなら、「その部分の生産性が堪えられないほど低い」から。


などなど、当日は「本」を題材として高生産性社会のありかたについて議論しました。

今回は honto さんの主催だったので本を題材に議論しましたが、トピックは自動車や家でもいいし、教育制度、医療制度など社会制度でもいいんです。

それら世の中のモノ、サービス、そして制度について、

1)ユーザーがそれに期待する成果はなにか?


2)その成果をもっとも高い生産性で手に入れられる方法はなにか?

という順番で考えていくと、それらの「未来にまで生き残る形」が浮かび上がってきます。

それが、高生産性シフトが起こる社会の姿を考えるということにつながる。


自分のアタマで考えるのって、ほんとに楽しい!

来てくださった方、ありがとうございました。


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そんじゃーね。



2年前に行われた前回の honto cafe でのイベント報告ブログは、こちらでお読みいただけます。


http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/  http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/