RCNP。

古い雰囲気の講義室。緊張した雰囲気で覗くと、がらんとした静かな講義室が目に入った。一目見て、そこで講演をした前回の雰囲気がありありと思い出された。前回は研究会の中の招待講演として呼ばれ、楽しく話したものの、やはり超弦理論に興味の無いハドロン物理学者も多いと見えて、僕の講演の前に退出する外国人もちらほら見えた。一方、わざわざ僕の講演を聴きにそのとき入室してくる人もいた。その情景が、ふっと思い出される。さて、今日はどんな雰囲気になるんだろう。
そう思いながらそーっと覗いていたのは、RCNP、阪大の核物理研究センターの講義室である。原子核の城と呼ぶにふさわしい場所のような気がしている。前の日記にもそう書いたのを覚えている。RCNPに足を踏み入れ、静かな玄関ホールに響く自分の足音を聞き、ホール奥のエレベーターのボタンを押すとき、何とも、城に入った気分がする。
講義室をこっそり覗いていた数分後、僕はすぐに熱い議論のさなかにいた。幸運にもRCNPの方々に今回呼んでいただいて、ぎっちり議論しましょうとの嬉しいお誘いだったのだが、まさにそれが瞬く間に実現していた。土岐さんと保坂さんってすごいね。むちゃ嬉しい。議論をし、瞬く間に二時間のセミナーが終わり(お付き合いくださった皆さん有難うございました)、その後も息もつかずに楽しい議論をたっぷり。大変楽しかった。
超弦理論原子核に応用するということをやっている僕には、原子核を肌で毎日感じている研究者、そして今までの原子核物理の歴史を肌で知っている研究者、の意見は非常に貴重である。原子核素粒子は、お隣の分野であるのに、交流が少ない。少なくとも、僕が院生のときには、ゼロだった。exactにゼロだった。その中で育った僕は、原子核のセンスを今学ぶしかない。幸い、素晴らしい原子核物理学者の方々と知り合う機会があり、こうして存分に議論させてもらっている。
セミナーで自分の話をすることはもちろん重要で、それについてのコメントも大変貴重なのだが、今回のRCNP訪問では、一つの質問を、呼んでくださった方に投げかけるというミッションを自分で抱いていた。その質問は、今後の自分の研究の方向性を決めるために重要なポイントであり、また、その答えは、自身の研究の遂行の将来的な実現性を占うためにも重要な答えとなるのは明らかだった。そしてその質問を聞ける人というのは、少なくとも僕にはとても限られていた。今回はその大変貴重な機会だった。
果たして、その質問には、大変具体的な返答をいただいた。その返答の一部は僕にも想像できたものだったが、明確に述べていただいたおかげで、具体性を帯び、そして明確な目標となった。そして、返答の一部は、僕の想像していた者とは全く違っていた。原子核をずっとやっている方には当たり前のことが、僕には全く当たり前ではない。それはメリットでもあるしデメリットでもある。しかしそれがメリットである面とデメリットである面をきちんと把握しておかないと、研究の意義が簡単に転げてしまう。今回たっぷり議論していただいて、厳しいコメントもいただき、自分の研究成果を客観的に振り返ることが出来たのは、大変大きな収穫だった。
帰りの飛行機は一瞬で眠りこけてしまい、また家に帰ってからは夜の育児の当番。
もうあと4日で引越も迫っている。人生、楽しい。