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2010-06-22

[]ルワンダ虐殺で殺害に用いられた武器について

この「フツの十戒」は、ルワンダ国内で生活するフツ族にとっては疑うことの許されない「教義」となり、とりわけ不満の捌け口を求めていた無職の若者の間では熱狂的に受け入れられた。「小さな家」の幹部は、これらの若者を集めてフツ族至上主義を掲げる武装集団「インテラハムウェ」を作り上げ、ツチ族に対する情け容赦のない襲撃を繰り返させた。

手に手にマチェーティ(鉈)やマス(釘を打ち込んだ棍棒)を持ったインテラハムウェの若者は、政府によって許可された暴力行為を精力的に実行し、彼らの手で惨殺されるツチ族の死者数はルワンダ全土で増加の一途をたどっていった。

歴史群像2006年12月号P190より。

ハビャリマナ大統領死亡の報せがルワンダ国内を駆け抜けると、暫定大統領のテオドレ・シンディクブワボとフツ族強硬派は「大統領殺害は間違いなくツチ族の仕業だ」と断定し、ラジオ放送などを通じて武装した若者に「報復」を行うよう呼びかけた。

「千の丘自由ラジオ」もまた、事件の数日前から「近々キガリで事件が起こり、四月七日と八日に銃声が轟くだろう」という「予言」を放送していたが、マチェーティとマスを手にしたフツ族の若者は、日付が変わるのを待つことなく、四月六日のうちに行動を開始した。

フツ族強硬派とそれに従う若者たちは、あらかじめツチ族の住む家と家族構成を調べており、彼らは組織的にツチ族の人々を家の外へ引きずり出し、そして殺していった。当時、キガリにはアルーシャ合意の履行を促すために、国連から派遣された平和維持軍「国連ルワンダ支援団(UNAMIR)」に所属するベルギー軍の小部隊が展開していたが、フツ族穏健派の首相官邸を警備するベルギー兵一〇人は、首相もろとも惨殺された。

夜が明けると、数で勝るフツ族によるツチ族の大量殺戮がルワンダ全土で繰り広げられた。フツ族強硬派は、あらゆる手段を用いてツチ族に対するフツ族の敵意を煽るのと同時に、少しでもツチ族に同情的なそぶりを見せたフツ族の人間にも「裏切り者」の烙印を押して、容赦なくマチェーティとマスを振り下ろした。殺される側に立たされることを恐れたフツ族の人々は、隣人として、あるいは家族や親戚として共に暮らしてきたツチ族を自らの手で殺すか、またはその手伝いをさせられていた。

こうして、大統領の死亡から一〇〇日のうちに、八〇万とも一〇〇万(国際赤十字が九四年七月十二日に発表した数字)ともいわれるルワンダ人が、凄惨な方法で殺害された。

歴史群像2006年12月号P191より。

歴史群像のこの記事に見られるように、ルワンダ虐殺では鉈や棍棒といった原始的な武器で百万ともいわれる人々が殺害されたというようなことがよく言われます。

私自身もルワンダ虐殺をそのように認識しており、「日本軍最強伝説」は歴史修正主義者の捏造宣伝 - 模型とかキャラ弁とか歴史とかなどにそのように書いてきました。

そして、その件についてMukkeさんから以下のような指摘がありました。

というわけで,流石に鉈などの原始的な武器で短期間に数十万人も殺した,というのは一種の都市伝説みたいなもので,実際には小火器などが用いられていたらしい。

Danas je lep dan.

はてなハイクでは

これ,よく聞くけど,実はガセビアなのよね。

... >1994年のルワンダ虐殺では鉈や棍棒といった武器で80万から1... - あとで書く - 露井有悟 - はてなハイク

というようにガセビアとまで言われています。

実際にMukkeさんの指摘のように近代的武器も使われたことでしょう。

しかし、そのようにして殺害された人々が犠牲者に占める割合はどれくらいだったのでしょうか。

この件に関して調べてみたところ、ルワンダ虐殺の犠牲者がどのような武器で殺害されたかに関する記事を見つけることができました。

Philip Verwimpによる「Machetes and Firearms: The Organization of Massacres in Rwanda」という記事で

SAGE Journals: Your gateway to world-class journal research

から読むことができます。

読めば分かると思いますが、この記事はルワンダの一地域のKibuye県での記録を集計したもので、ルワンダ全体のものではありませんが、59050人というKibuye県での犠牲者がどのような武器で殺害されたかについて表にまとめられています。

それによると虐殺の犠牲者の52.8%が鉈で、16.6%が棍棒で殺害されています。銃器で殺害されたのは14.7%で、手榴弾で殺害されたのは1.8%。残りは溺死、生き埋め、火炙り、首吊り、鍬、斧、ツルハシ、剣、槍など。

この記事の記述を信頼する限り、少なくともKibuye県においては犠牲者の七割弱が鉈や棍棒で殺害されていることになります。

勿論、これはルワンダの一地域での値であり、ルワンダ全体では割合が大きく異なることもあるかもしれません。

その一方で、このことは一地域では鉈や棍棒といった原始的武器で大半の人々が殺害されたことを示しているわけで、「ルワンダの鉈や棍棒」はガセビアとまでは言えないのではないかとも思います。


歴史群像 2006年 12月号 [雑誌]

歴史群像 2006年 12月号

ApemanApeman 2010/06/22 21:09 南京事件否定論の詭弁との関連でいえば、1937年・南京の日本軍も銃剣や日本刀だけでなく(自動小銃こそ装備していませんでしたが)小銃、軽機関銃、重機関銃、手榴弾などを使用していましたから、D_Amon さんのエントリの主旨に変更を加える必要があるわけじゃないですね。虐殺の様態についての記述が正確であるべきだというのはその通りですが、「原爆でも使わなければ……」という詭弁とは問題の水準が異なる、ということも確認しておくべきでしょう。

D_AmonD_Amon 2010/06/22 23:28 それは確かにその通りだと思います。
あたかも大量破壊兵器を使わなければそういう規模の虐殺を行えないかのような詭弁が問題で、それを否定できることには変わらないわけですから。
それでも、Mukkeさんが指摘したようなことがあったのも事実でしょうし、それはそれで人々の記憶に留められるべきことではないかとも思います。

MukkeMukke 2010/06/23 00:49 データ,ありがとうございます。細かいデータを見ずにガセビアと断定してしまっていたかもしれず,その点は失礼しました。参考にした本を見返してみようと思います。

南京事件否定論批判の論旨に変更を加える必要がないというのは,まったく同意です。あのような詭弁がまかり通ることに対しては激しい怒りを憶えます。

D_AmonD_Amon 2010/06/23 08:54 このデータがルワンダ全体の状況を反映しているわけでもないと思います。
都市部と農村部では状況がまったく異なることは考えられることで、都市部など人口密集地では小火器による殺害の方が主流だったのかもしれません。

tyokoratatyokorata 2010/06/23 12:35 都市部と農村部という違いについては、それのデータの到着を待つしかなく、長崎に落とされた原爆の都市部と山間部の死亡者比率を分けることと同じくらい、求められるデータに対する意味がないような気がします。

ルワンダは、原始的な武器で殺戮が行われたという事実への認識が必要なのですから。後は細かなデータの際を収集するにとどめるということで。

何よりも間違いないことは、「武器が人を殺す」のではなく、「スローガンとラベリングと憎悪」が人を殺すということなのですから。

D_AmonD_Amon 2010/06/23 13:16 憎悪が計画的に煽られたことを考えれば「スローガンとラベリングと憎悪」さえ、武器と同じく手段に過ぎないというものでしょうに。

ApemanApeman 2010/06/25 18:15 「ラベリング」と言えば、「便衣兵」とか「匪族」といった「ラベリング」が当時においても殺害を助長し、今日においては戦争犯罪の否認に利用されていることが想起されますね。

D_AmonD_Amon 2010/06/25 21:22 説明不要なことだとは思いますが、その手の「ラベリング」は相手を非人間視させるための手段として機能し、実際にそのために利用されるわけです。
人間がそのようにして作り出された状況に行動を支配されがちな社会的動物であることを考えれば、そういう状況を作り出した構造的問題の方を重視すべきと思うんです。

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