奥州安達原(加筆@5日)

今回は初段(「鶴が岡仮屋の段」「吉田社頭の段」「八幡太郎の段」)、二段目(「外が浜の段」「善知鳥文治住家の段」)の後、三段目と四段目の上演になります。そこまでに出てくる人物や背景について少し紹介しましょう。
初段の”鶴が岡”は皆さんもご存じのとおり鎌倉にあります。ってことは源氏ですが、これは有名な頼朝さんから4代ほど遡った「八幡太郎義家」の話になっています。対するは義家が討伐に向かった奥州の安部貞任・宗任兄弟。この2者のタタカイだと思ってください。


今回上演される段に登場する人物を筋を追いながら見ていきましょう。
「朱雀(しゅしゃか)堤」に登場して「環の宮明御殿」で”袖萩祭文”を披露する【袖萩】、彼女は義家の家臣【平けん(人べんに兼)仗直方たいらのけんじょうなおかた】の娘。直方は今、皇弟【環宮】が行方知れずになっていることの責任を問われて明日にも切腹という身です。直方の二女は義家に嫁いでいる【敷妙御前】ですが、袖萩は素性のわからない男と恋仲になったために父の直方に勘当されています。
今は盲目の袖乞いとなって娘【お君】と七条朱雀堤に暮らす袖萩。そのあばら屋の前で義家の妹【八重幡姫】や直方、生駒之助&恋絹などが行き合わせます。袖萩が、皆の話を聞いて偶然に父の窮状を知るところから三段目の悲劇が始まるのです。
朱雀堤にちょこっと出てくる【生駒之助】は義家の家臣。傾城の【恋絹】と深い仲で、窮地に陥りそうなところを生駒之助に思いをよせる八重幡姫に救われて(初段に出てきます)2人で都を落ちていきます。袖萩の家の前でいろいろな人がばったり会うというのはいかにも文楽らしい!(笑)三段目から観ると生駒さんはひどい男みたいに感じますが、いい男だからモテてしまうだけで最初から観ると恋絹一筋の男だというのがよくわかります。純情な男は傾城にコロリ、というのが常道なのかにゃ?


さて、直方の妻が【浜夕】、「環宮明御殿」だけに出てくる人物ですが重い役です。環宮の行方がわからないまま留守宅を守る直方夫婦ですが、直方は宮が見つからない責任を問われて切腹を迫られる身で、そこへ娘であり義家の妻でもある敷妙御前が上使として訪れます。続いて義家本人も現れますが、そこへ勅使として桂中納言則氏(実は貞任)が登場。鶴殺し(二段目にでてきます)として捕えられた南兵衛(実は宗任)との間で和歌を使ったやりとりがありますが、これは互いの素性を知るためのものなので要チェック。
父の身を案じる袖萩はお君とともに雪の道を御殿へとやってきます。勘当をうけて盲目の袖乞いになった身では中に入ることもできず、袖萩に気づいた直方は会うことを拒みまた浜夕にも会うことを禁じ、袖萩は祭文に思いを託すのでした。寒さと悲しみから倒れる袖萩、母の身を気遣うお君、その2人の様子を見て浜夕は自分のうちかけを投げるものの声をかけることができません。袖萩の恋人は敵の宗任だとわかったからです。切腹をする直方、夫と親の間に挟まれて死を選ぶ袖萩、立ち去ろうとする則氏を、正体を見破った義家がとどめます。義家と安部兄弟は戦場での再会を言いかわすのでした。
最後の方でそろって名前を偽っている安部兄弟が名乗りをあげますが、このとき夫に再会を果たした袖萩はすでに死に行く身。涙なくては観れないお話なのでありました。この辺はホントに観て聴いて感じてください。


「道行千里の岩田帯」は生駒之助と恋絹の道行で「場面が変わりますよう」という切り替えの部分でもあります。そしてこの後に【老女岩手】が登場します。段の初めは安達原の鬼女、という雰囲気で話が進みますが、実はこの岩手は、安部兄弟の母親です。前半はそのまま観て聴いて「人食い婆〜?」という怖い雰囲気を楽しんでほしいです。
岩手はさらって来た環宮の病を治すために胎児の生血を必要としています。行き暮れて宿を頼んだ生駒之助と恋絹ですが、恋絹が身重であると知って胎内の子を手に入れようと画策、生駒之助を安達原に連れ出して置き去りにしてしまうのでした。お腹の子を守ろうと必死に命乞いをする恋絹ですが、とうとう命を奪われます。胎児を取り出した後に恋絹が身につけていた守袋を見て、岩手は手に掛けた娘がわが子であったと知ります。なんという悲劇。でも岩手の悲劇はこれだけでは終わりません。生血は実は環宮の病のためでなく、義家方が十握剣を探しだすためであったとか、とにかくだまされまくりです。
全部書いてしまうと最後のどんでん返しで「ひええ、こいつらなに?」って思えないので、最後のところは書かずにおきます。「**実はXX」という配役から想像してみてください。岩手は孤立無援、息子貞任が駆けつけたときにはすでに自害して果てています。心情的には安部方に同情します、はい。