読了『グローバル経済を学ぶ』

グローバル経済を学ぶ (ちくま新書)

グローバル経済を学ぶ (ちくま新書)

貿易論関係を中心に読んだ。前著もそうだが、伝統的国際経済学の入門書あるいは副読書としては、コンパクトかつわかりやすい。

しかし、幾つか疑問点が残った。

話題になったこの本でも確か述べられていたと思うが、比較優位の概念は、確かに直感と異なる。

あなたのTシャツはどこから来たのか?―誰も書かなかったグローバリゼーションの真実

あなたのTシャツはどこから来たのか?―誰も書かなかったグローバリゼーションの真実

印象だが、経済学を踏まえない政策がなぜこんなに世にはびこるのだろう、という嘆きの本に読めた。

しかし、なぜ、政策当局者が比較優位の概念を「経済学的に」正しく理解せず、(野口氏が嫌悪する)「国際競争力」の概念に支配されているのか、いまだに国際経済、特にWTOの場で重商主義的要求が出てくるのか、これらについての政治経済学的な考察への目配りがあってもよいように思われた。

また、「幼稚産業保護政策」への辛口の評価も気になる。どこまでを幼稚産業保護政策とするのか、関税および割り当てによる国際競争からの保護のみを言うのか、それとも世銀『東アジアの奇跡』で論じられたような政府の役割全般を指すのか。

自らの経済的立脚点を脅かされる人々にとっては、貿易による競争の激化は、まさに生死にもかかわるような深刻な現実だからです。そして、そのような調整の苦難は、一国が自由に貿易を行う限り、必ず誰かが背負わなければならないような宿命です。筆者は、開放されたグローバルな経済を守るためにも、その苦痛を社会で分かち合う心構えが必要と考えます。(145)

本当に議論すべきことは、実はここから始まるのではないか。