Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ゴメーン、彼女のオッパイは僕なんだ。


 買い物帰り、公園に立ち寄った。大人が遊ぶにはサイズの小さいジャングルジムとすべり台と鉄棒。住宅地の端にあるありふれた公園だ。ベンチに腰をかけミネラルウォーターを飲みながら、すべり台が風に揺られてキイキイと奏でる様子を眺めているうちに、僕は眠っていた。


 肌寒さで目を覚ますと、僕の向かいにあるベンチに腰をかけている男女の姿が目に入った。いつからいたのだろうか。17、8才の高校生。揃いのブレザー姿。女の子の茶髪が男の子の右肩に寄りかかっていた。男の子の腕は女の子の右肩に回されていた。彼女は眠っているようににも、眠ったふりをしているようにも見えた。僕は見てはいけない事実に気づいてしまった。女の子の肩を経由した男の子の手のひらが胸に軽く触れていた。男の子が目線を上げ僕と目が合った。余裕と憐れみがその瞳に伺えた。


 やれやれ。こういう光景を目の当たりにすると、溜息をついてしまいそうになる。とんとんと優しく肩を叩いて語りかけたくなる衝動が体の芯から沸き起こってくる。知っているか?人間の体を。人間てのはほとんどが水分だ。それくらいはハイスクールに通っているなら知っているだろう。問題はその先だ。想像力の問題だ。イメージしろ。蒸発。僕らの身体を経た水分が地上から空に昇るということ。降雨。雨として地表に降り注ぐということ。吸収。再び、水分として補給されるということ。地球の水分のサイクル。可愛い彼女も君も僕、ということだ。


 わからないか?僕は君らより長いこと生きている。社会に出て働いている。昨日、君らが暖房の効いた部屋で不純なことをしている最中も、僕は汗水垂らして労働していた。この冬も、あの暑い夏の日も。そのまた前の季節も。ずっとずっと。つまり君らは人生の先輩である僕から発生した水分で構成されている。つまり、君の可愛い彼女のオッパイは僕でもあるということだ。我はオッパイであり、オッパイは我である。それが真理。今、手のひらに包んでいるオッパイと同様に僕に優しくしろ。その瞳を撤回しろ。


 しかし、真理を盾に若者を説教するほど僕は野暮な男ではない。若者は希望だ。未来だ。君はその手のひらに包んだオッパイを優しくしろ。そうやって世界中のオッパイが優しさに包まれたなら。優しさが世界を包んだなら。それでいいじゃないか。僕は嬉しい。幾多のオッパイになったかつて僕であったH2Oも喜ぶはずだ。


 帰る際、ポケットのなかにあったチョコレートを男の子に渡してチャリンコで後にした。オッパイを、かつての僕を、今日のところはよろしく頼むというエールを込めたチョコレート。体温で溶けてたけど、大人の男の余裕を見せた。完璧だった。チャリンコのサドルに被せたスーパーの袋がバサバサ鳴って騒々しかった以外は。


 ついでに言うと君らが腰を掛けているベンチも僕が必死に働いて納めた税金で作られたものだ。君の彼女のヒップを支えているのも僕なのだ。まあいい。それじゃ。しっかりやれ。僕はペダルを踏む足に力を込めた。たくさんのオッパイになれるよう、もっともっと汗をかくように力を入れた。ミネラルウォーターよ、汗になって世界中のオッパイに届け。オッパイは素晴らしい。イエスオッパイ!