日本の病院が患者を待たせる意外な理由

【日本の病院が患者を待たせる意外な理由】という記事毎日新聞WEB版(9/29)に掲載されていました。
私自身は、待てない人は他の診療所に行っても結構です、と言っています(HPにも載せている)が、大半の先生はそうは言えないし、雇われている立場だったら尚更です。私も、勤務医のときは口が裂けてもそんな傲慢ともとられかねないことは言えませんでした。
この記事の全部が正解だとは言いませんし、待たされて文句ばかり言う患者さんたちの気持ちも分かりますが、我が国ではこういう事情があるし、それに納得できないのなら完全予約制の病院・診療所を受診すればいいだけの話なのですよ。

「なぜ日本の病院はこんなに患者を待たせて平気なのか?」という週刊誌記事で、大学病院の眼科を受診して待たされた著名な作家が「天罰が下るよ」と怒った話が紹介され、ネットやツイッター上で大きな話題になりました。英米医療機関と比較し、日本の病院の「待ち時間」が長い理由や解消策について、救急医療のエキスパートで国際医療福祉大学三田病院救急部長の志賀隆医師が解説します。【毎日新聞医療プレミア】

 ◇日本は患者本位の医療を心がけている

 結論からいうと、私は「病院の待ち時間を減らすのは結構難しい」と考えています。なぜなら、日本の医療機関は諸外国と比べ、予約なしで当日外来を受診する患者さんを、その日のうちに診察しようと努力しているからです。

 特に、都心の大学病院には専門性の高い医師が多くいるので、その医師の外来当日に受診したいという患者さんが多く訪れます。米国や英国では「緊急性」がない限り、予約なしの患者さんが当日専門医の診察を受けることはまず困難です。

 というのも、英米では日本よりも医師の働き方改革が進んでいて、長時間労働にならないようにきっちりとした「予約制」を採用しているからです。予約枠が埋まっている専門医に診察してもらうのは非常に難しく、私の勤務していた米国の「メイヨークリニック」でも、医師によっては数カ月程度の予約待ちがありました。待つことができず、救急外来を受診する患者さんによく遭遇しましたが、残念ながらほとんどの場合、緊急性はないので、ある程度の検査をした後、「明日の朝外来に行って、診察してもらえるかどうか自分で確認してください」と伝えるしかありませんでした。

 日本では、「緊急性がなく、予約もいっぱいなので診察は無理」と断ることをなるべく避けようとします。当日来院した患者さんをその日のうちに診察しようと努力する医師、医療機関が大多数ではないでしょうか? そのため、米国のような週単位、月単位の待ち時間は生じません。つまり、当日待ち時間の長さは、医療従事者が「患者さん本位」の姿勢を貫こうとする「日本型医療」の結果、と言えるのです。では、予約制を徹底したらどうなるでしょうか。

 ◇予約制の徹底で診断や治療が遅れる心配も

 病院の待ち時間を短くするために効果的な対策は、(1)予約制を徹底する(2)予約外でかつ緊急性のない患者さんには翌日以降の受診をお願いする(3)外来に十分な医療従事者を配置する−−であろうと考えます。

 しかし、(1)と(2)は結果的に、「患者さんへの当日対応」という日本の医療機関の努力を否定し、病院へのアクセスを遮断することにつながるので理解を得にくいと思います。またその結果、診断や治療の遅れが患者さんの不利益につながる心配もあります。

 では(3)はどうでしょうか。これもなかなか難しいのが現状です。病床数の少ない公立病院がここ5年ほど、どんどん赤字経営に陥っていることを示すデータがあります。さらに病床数の多い病院でも経営状況は悪化しています。

 外来受診の緊急度と重症度は入院患者と比べて低いので、診療報酬は「外来<入院・手術」です。これは理にかなった設定ですが、反対に、外来で働く医師の待遇を手厚くする▽外来の呼び出し機を導入したり、待ち時間をウェブサイトで掲示したりするICT(情報通信技術)導入費用に診療報酬をあてる−−ことが可能かというと、国の財政状況から難しいのが現状でしょう。また残念なことに、救急外来の待ち時間短縮で、医療の質を表す他のデータが改善するかどうかを検証したところ、あまり効果がなかったという報告もあります。

 ◇受診抑制につながる医療費の「人頭払い」

 待ち時間短縮のためにできることとして考えられるのは、大病院の外来受診の際、患者さんの経済的負担を増やすことで来院者を減らし、外来中心のクリニックや小規模病院を受診してもらうことでしょうか。実際、厚生労働省は紹介状のない初診患者が大病院を受診する際には、「選定療養費」を徴収するよう病院を指導しています。病院の医師の業務は外来だけでなく、入院管理、手術、検査、当直、研究、教育など多岐にわたり、すでにオーバーワークです。「がんばれ!」と叱咤(しった)激励するだけでは外来患者を抑制することが難しいのです。

 今の医療費の支払い方式は、診察をすればするほど病院収入になる「出来高払い」ですが、患者さんが診療所などに登録し、医療機関は登録人数に応じて診療報酬を受け取る「人頭払い」(人頭制)にしてみることも一つの方法です。米国や英国で採用されており、外来受診抑制につながっています。しかし、今までアクセスが容易だった大病院を受診できなくなることで、患者さんの不満が高まる可能性もあります。

 ◇救急外来受診のビデオ上映も効果的

 実際に効果があり実践されていることもあります。救急外来の待ち時間を有効活用するために、胸やみぞおちが痛いと訴える患者さんが来たらすぐに心電図をとる▽足や手が動かないなどの麻痺(まひ)の症状があり、脳卒中を疑う患者さんにすぐにCT(コンピューター断層撮影)検査をする▽手や足が変形している患者さんは、看護師が医師に声をかけて簡単な診察後にX線撮影に案内する−−などです。

 また、救急外来でどのようなプロセスを経て診療が進むのか、救急以外のクリニックを受診するにはどのようにしたらいいかを示したビデオを待ち時間に見せるようにしたところ、患者さんの満足度が上がり、救急以外への受診が増えたという研究もあります。

 病院の待ち時間が長い理由と、その解消に向けた取り組みを紹介しました。今後も患者さんのために、待ち時間を短縮する▽待ち時間の目安を伝える▽待ち時間の有効活用の仕組みを作る−−などの対策に取り組みたいと思います。そして、医療の質と国民の医療への満足度を高めるために、医療従事者と患者さんとで現状を共有し、より良い医療政策と制度を考えたいと思います。