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2012/07/23 月

細田守の新作「おおかみこどもの雨と雪」を観た

| 細田守の新作「おおかみこどもの雨と雪」を観たを含むブックマーク 細田守の新作「おおかみこどもの雨と雪」を観たのブックマークコメント

おおかみこどもの雨と雪 BD(本編1枚+特典ディスク1枚) [Blu-ray]

おおかみこどもの雨と雪 BD(本編1枚+特典ディスク1枚) [Blu-ray]

新宿バルト9で「おおかみこどもの雨と雪」を観てきた。以下、CinemaScapeに投稿した感想。ネタバレなので畳んでおきます。ひどいこと書いてますが、映像はたいへん目に快く、眼福でしたよ。これホント。

作り手の都合でリアリティを露骨に出したり引っ込めたり使い分けられて、登場人物に親身になって寄り添える筈もなく。(★2)

アニメとは、実写では難しいムチャクチャもできる表現媒体だ。猫が長靴を履いてチャンバラしたり、豚が戦闘機を操縦してドッグファイトしたり、犬の探偵がプロトタイプベンツで爆走したりする。それは作品毎にリアリティレベルというものがあって、「こういうところはウソつきますよ、でもああいうところはウソじゃないですよ」という線引きが各々の作品でなされているから観客は「なるほど、このお話はそういうものか」と納得してフィクションを飲みこんでいるのだ。

おおかみこどもの雨と雪」は画面のルックからして極めて現実に近く、写実的に描かれている。ごく普通の宮崎あおい大沢たかおは、ごく普通に出会い、ごく普通の恋をしました。でもただひとつ違っていたのは、大沢たかおは狼男だったのです。ほとんど現実の現代日本に見えるこの世界で、この不思議なお話の顛末はいったいどうなるのでありましょうか、宮崎あおいの運命やいかに、という導入部分はオレも楽しく引きこまれた。しかしこの映画のウソは狼男の存在にとどまらず、あとからあとから雪だるま式に増えてゆくことがだんだん明らかになってくる。

たとえば宮崎あおいは、狼男が存在するという事実を世間から隠し通す側に、ためらいなく立つ。これは人類の進歩と科学の発展に対する重大な背信行為だと思うのだが、その選択の重さや覚悟は一切描かれない。惚れた男がたまたま狼男だっただけ、そんなことで私の愛は変わらない、という至って個人主義的なノリだ。これが五社英雄の「極道の妻たち」だったら「愛した男が極道だった」でも別に文句ないんだけど、この場合は愛した男が狼男なのだ。狼男アメリカンなのだ。科学の常識がひっくり返り、人類の定義さえ揺らぎかねない超ド級のセンセーショナリズムを、自分の家族や友人にさえ嘘をつきまくって隠し通し、偽りの普通の夫婦像を生涯演じ続けねばならぬ、その痛みと苦悩がこの映画には全然ない。

ダンナの狼男はあっさり退場する。田舎に暮らす母子。狼の姿で庭駆けまわる子供たちを、縁側から愛情のこもった眼差しで見つめる宮崎あおい。オレは、ここにも強く違和感を感じる。この女には、人目を気にする仕草、周囲を警戒する目配りがなさすぎる。絶対に発覚してはいけない秘密を抱えた人間とは思えない緩みっぷりなのだ。そりゃあ確かに、人の顔色ばかり伺う不審な暗い女なんか細田守は描きたくないんだろう。だからいつもニコニコ、ゆるゆる母さんにしたわけだ。宮崎あおいに岡惚れしているらしきジジイなんか誰よりも早くこの一家の異常性に感づく筈だと思うのだけど、なんとこのジジイはさしたる人間像も描かれぬまま途中からいなくなる。おお、かくて破綻は避けられた。かくて秘密は守られた。細田守の神の手は偉大なり万能なり。しかしですね、作り手の都合でリアリティを露骨に出したり引っ込めたり使い分けられて、わたくしが登場人物に親身になって寄り添える筈もなく、なんだかふわふわ浮世離れした話だなーと思いながら、物語の進行をやや遠くから見守るばかりだった。

宮崎あおいの田舎で暮らそう的な苦労がたいへん丁寧に描かれるんだけど、これとて普通の田舎暮らし、普通の子育ての苦労の範疇をはみ出すものではない。それは至って結構で、尊いことだろうと思う。しかし愛すべき異形の子供たちを現実の中で育てるからこそ生じるたぐいの苦労は、あんまり見当たらない。

いや、そういうことを描きたいんじゃないんだ、母の子育て、親子の絆、子供の自立とか家族の年代記とかなんとか、そういった描きたいものがあるんだとおっしゃるならば、そもそも狼男アメリカンなんて大技を繰り出す必要はなかったのではないか。或いは一切のリアリティーと具体性を捨てて、まんが日本昔ばなしにたのきん全力投球すればよかったのではないか。だからこれは脚本の問題でさえなくて、企画そのものに問題があったとしか思えない。

これで出来上がりが普通にクソ映画だったら話は簡単なんだけど、悲しいことに細田守の演出は冴え渡っている。息を呑むような美しい瞬間もたくさんある。とても気の利いた設計と施工がなされた瀟洒な一軒家が、基礎工事が全然できてなくて傾いて建っているようなものだ。内装とか家具とかすげえオシャレでカッコイイんだけど、この家には住めない。

ちなみにじゃあどういうのがわたくし好みの映画なのかといえば、これはもう秘密が早々にバレて迫害されるしかないです。母子ともども石もて追われるのです。マスコミは宮崎あおいの獣姦をネタにスキャンダルをゲスに煽り、科学者はメスを片手に解剖させろと詰めより、2ちゃんねるからは電凸スネーク実名暴露。悲惨な現実の中で誰からも理解されず、無力だが美しい母子の愛を描いたうえで、追い詰められた狼人間の怒りがついに大爆発、今度は戦争だ! とばかりに阿鼻叫喚の死屍累々、殺戮の果ては悲劇的な結末に至るしかない。異形の狼人間が現代日本のクソみたいな社会で幸せに生きていけるかどうかをクソ真面目に考えるならば、そのようにしかなるまいと思う。

こういった現実との折り合いをあくまで児童映画の範疇で描いた原恵一の「河童のクゥと夏休み」は、かすかな希望も感じさせて実に素晴らしい映画だったと思うのだ。でも「おおかみこどもの雨と雪」は子供の観客にセックスを隠さなかった一方で現実の過酷さは隠蔽し、或いは巧妙に回避するんだよな。そしてこうも思うのだ、「河童のクゥ」が全然まったく売れずに「おおかみこども」が愛されヒットする世の中において、「おおかみこども」にこれだけブーブー不満を垂れておるわたくしこそが現代における異形の獣人雪男、フランケンシュタインの怪物、大アマゾンの半魚人なのではないか… だって「おおかみこども」に感動する人って、絶対いいひとだと思うんだよなあ… なんだこの敗北感…

おおかみこどもの雨と雪 絵コンテ 細田守 (ANIMESTYLE ARCHIVE)

おおかみこどもの雨と雪 絵コンテ 細田守 (ANIMESTYLE ARCHIVE)

いいツッコミです。いいツッコミです。 2012/07/25 12:56 とてもいいツッコミです。監督の得意な演出面とは裏腹に描かれるべきリアリティは、意図して描かなかったのか、それとも描けない不得意な面なのやら。理想で糊塗する作品は観客にとってとても口当たりのよいものになるのでしょう。娯楽作品としてはよく出来ていたと思います。

通りすがり通りすがり 2012/07/25 22:58 映画を見た後に小説版を読んだら、花の家族構成や劇中で語られなかった話がチラホラと書かれていました。
尺的には+10〜20分くらいみれば映画にも全部入れ込めた情報だと思うので、多分意図的に省かれているのだと感じました。
小説は映画よりちょっと暗重めの空気感で、同じシーンも映画では音楽等でかなり明るく調整されていたので
バックボーンなどの一部を省いてリアリティを調整することで、より広いマーケットを狙ったんじゃないかなぁと。
具体的には本文でも語られている「絶対いい人」の人たちです(笑)。

,, 2012/07/26 02:49 はいはい、テメーのクソみてーな感想なんざどーでもいいんだよwwwwwwゴミwww

つれえわーつれえわー 2012/07/26 11:09 >だって「おおかみこども」に感動する人って、絶対いいひとだと思うんだよなあ… なんだこの敗北感…

ミサワ絵で再生されてワロチwww

kitagawakitagawa 2012/07/29 13:52 けものくさいと言われた雪、物珍しい対象に必要以上の興味をしめす子供の残酷さ。そして知っているのに知らない振りをするそうすけの優しさ。丁寧に子供から大人への成長が描かれていた作品でした。ジブリ好きの人達は好きでしょうね。

ee 2012/07/30 13:22 概ね同意。

、 2012/08/08 15:54 なんだ、人気の作品を批判してる俺かっけーみたいなノリですか

ざまぁ

toktok 2012/08/14 14:00 「異形の子供たちを現実の中で育てるからこそ生じるたぐいの苦労の描写がない」とか、
本来xxな描写がないのは不自然という意見があるけど、
それがあると面白くなるの?って思ってしまうんだよな。
面白くなるならいいんだけど、主題と合わないことまできっちりと描くのは、グダグダになりやすいし、
本来伝えられたいことが霞んじゃいませんか?

じゃあ、狼男の設定をなくすと、アニメである意味も薄くなるし、
(それこそ宮崎あおいが主演の実写映画のほうが企画が通りそう)
単にシングルマザーになった母子が、波乱がありつつ、田舎に行っていい人に巡り会えたってだけの話になる。
それはもう「北の国から」じゃないの?とか思ってしまいます。

かと言ってこの人が好む、ゲス野郎満載の映画がヒットするとは思えない。

「河童のクゥと夏休み」がヒットせずに、おおかみこどもがヒットする世の中っていうけど、
そりゃターゲットの狭いファミリー層だけの映画と
カップルからアニオタ、ファミリー層まで意識した作品じゃ売上が違って当然。
売上だけなら、香取慎吾が河童役で実写版作ったほうがヒットはするよ。

たかばやしたかばやし 2012/08/18 14:10 個人的に『おおかみこども』好きですが、おっしゃられていることは同意ですし、面白いとも思います。
自分の好きな作品に批判を食らうとヒステリックに騒ぐ他者性のない人たちが多いですが、バカなコメントにめげずに自分の意見を貫いてください。

RASRAS 2013/12/21 11:45 深刻な現実やそれに対する花の葛藤が描かれなかったのは、「『母親の花から聞いた話』を娘の雪が語り直す」+「雪が幼児期を回想する」形式だからじゃないでしょうか。「オオカミ男とのハーフを生むべきか否か迷った。堕胎しようかとも思った」とか「子育てが大変で苛々して虐待する寸前だった」とか、子供が傷つくことを言わないのも無理はないかと。これは英雄譚なんだと思えば、花のスーパーウーマンぶりも個人的には許容範囲です。