Devil’s Own −残骸Calling2− このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2013-12-22

2013年映画ベスト

 鉄板だったはずのベストAVエントリの伸び率がいささか悪いことに困惑しつつ、今日は映画を振り返ります。今年もいろいろありました。恋人ができたと思いきやあえなく破局したりとか。それからラジオで映画のことをしゃべる機会もありました。でも私はやっぱり書く方が向いているなあとおもった。今年の新作観賞本数は少し少なめで76作。例年どおり悩みに悩みこねくり回した挙句に選んだ10本はこちらです。

1.『横道世之介』(沖田修一)

Yokomichi Yonosuke/2013/JP

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2.『かぐや姫の物語』(高畑勲

The Tale of the Princess Kaguya/2013/JP

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3.『ペコロスの母に会いに行く』(森崎東

Pecoross Meets His Mother/2013/JP

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4.『ジャンゴ 繋がれざる者』(クエンティン・タランティーノ

Django Unchained/2012/US

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5.『モンスターズ・ユニバーシティ』(ダン・スキャンロン)

Monsters University/2013/US

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6.『きっと、うまくいく』(ラージクマール・ヒラーニ)

3 Idiots/2009/IN

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7.『ルビー・スパークス』(ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス)

Ruby Sparks/2012/US

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8.『ゼロ・グラビティ』(アルフォンソ・キュアロン

Gravity/2013/US

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9.『パラノーマン ブライス・ホローの謎』(サム・フェル、クリス・バトラー)

ParaNorman/2012/US

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10.『42 世界を変えた男』(ブライアン・ヘルゲランド

42/2013/US

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 昨年に続いて日本映画が1位となった。ことしは過去10年間でもいちばん日本映画の新作を見た年になったとおもう。仕事で見たものもけっこうあるけど、『ガッチャマン』など一部を除けばかなり満足できたし、一時期と比べて水準が高くなっていると感じた。昨年、『桐島、部活やめるっていよ』や『サニー 永遠の仲間たち』の登場人物を私は愛してしまっていると書いたが、今年は『横道世之介』がそんな作品だった。世之介(高良健吾)の奇妙な言動を思い出してはくすりと笑ってしまうことが今でもあるし、そんなとき私はとても幸せな気持ちになれるのだ。人生における取るに足らない一瞬を不意に思い出し、笑ってしまうことが誰にでもあるとおもう。『横道世之介』はそうした「思い出すことの幸福」についての映画である。すごいのは作品そのものが私にとって、たびたび記憶から取り出さずにはいられないくらい、いとおしい「思い出」になってしまっているという点だ。もはや私にとって『横道世之介』は映画でなく記憶になってしまっている。沖田映画特有ののんびりとした時間感覚は人によってはひどく冗長に思えるかもしれない。しかし、そもそも人生の楽しみとは経済や効率とは無縁のところにあるのではないか。つかみようのない楽しみや幸せを切り取るとき、沖田監督は卓抜した資質を発揮する。こうした資質が、物語のメッセージとこれまで以上にうまくマッチしたのが『横道世之介』という傑作だ。信じられないほどの多幸感が全編に横溢し、見た後には一抹の寂しさがともなう。一番近い作家はジャック・ロジエだろう。ロジエもまたバカンスで若い男女がきゃっきゃと遊んでいるだけで一本の映画にしてしまう。無価値な遊戯にこそ映画でしか表せない輝きが宿るのだ。

 『かぐや姫の物語』について、あれこれと考えて文章を準備していたが結局書ききれないまま、年末を迎えてしまった。この作品がもつ豊かなイマジネーションや生命感をとてもじゃないけど言語化できなくて、本当にもどかしい。高畑勲には『十二世紀のアニメーション』という名著があるが『かぐや姫〜』は「二十一世紀の絵巻物」といっていい。誰もが知っていて、誰も知らなかった物語の強靭な美しさにうたれる。たけのこと捨丸が盗んだうりをともに食べるときの妖しい官能を思い出そう。子どもたちがキジを追い立てるときの高揚感は!絶望したかぐや姫が屋敷を、山を、走り抜ける場面の野蛮な活力は!いちいち挙げていくときりがないし、なんだかばからしくなってくる。何もかもが新しいようで、それでもやはり一連の高畑作品でつむがれてきたさまざまな要素が生きているのにもうならされる。『かぐや姫』を見た後だと、たとえば『おもひでぽろぽろ』とか『となりの山田くん』、『太陽の王子ホルス』ですらずいぶん違った印象になりそうだ。いやいやそんな規模の小さな話でもない。作品を見る前と見た後で、世界の捉え方が決定的に変わってしまう、そんな作品が世の中にはいくつかあるが、『かぐや姫』もまたそうした映画のひとつになるだろう。

 『ペコロスの母に会いに行く』。『横道世之介』と同じく記憶についての映画である。作品については先日書いたのでそちらを見てほしい。先日Eテレで森崎監督のドキュメンタリーを放映していた。本作は認知症の女性を扱っているが、森崎監督も自身の記憶力、思考力の低下を痛切に感じていたという。正直、驚いた。映画はこれまでの森崎映画と変わらないエネルギーとみずみずしさにあふれていたからだ。私にとっては自分の日々の暮らしと映画の中の物語をつないでくれる、とっても大事な一本でもある。それが森崎東監督の作品でほんとうにラッキーだった。これが1位でもよかったんだけど、3位に置いたのはたぶん『ペコロス』はこれから年を重ねるともっともっと好きになれるとおもったから。

 上位3本を日本映画が占め、外国映画のトップはクエンティン・タランティーノの『ジャンゴ』となった。タランティーノは娯楽と通俗を裏切らない。いつも晴れやかな表情で私を映画館から追い出してくれるから好きだ。前作『イングロリアス・バスターズ』で完膚なきまでに叩きのめされたいけすかないドイツ人だったクリストフ・ヴァルツが、今回は正義感と誇りにあふれたドイツ人として登場する。キング・シュルツの出演するシーンはどれも最高なのだけど、私が一番ぐっときたのは人種差別者たちに向かって「ベートーベンはやめろ!」と叫ぶシーン。自分の出自に誇りを持つなら、こういう形でありたいとおもう。

『モンスターズ・ユニバーシティ』。ここ数作は低調気味だったピクサースタジオだったが、大ヒット作『モンスターズ・インク』の前日譚でまさかの起死回生。事前の期待値が低かったこともあり、満足度はことし一番の伸び率だったかもしれない。クライマックスはまるでアルドリッチの映画のようだった。未熟な弱者たちがほとんど成り行きで力を合わせるという展開(『ヱヴァ:破』とか)が好きだ。マイクとサリーそれぞれの自己実現コンプレックス克服の瞬間でもあり、名コンビ誕生の瞬間でもある。モンスターが人を脅かす場面があんなに泣けるなんて。最底辺フラタニティ、ウーズマ・カッパの面々も久々にピクサーらしくてよかったし、前作では少しかわいそうだったランドールのキャラクターが深められているのもうれしい。ラストのサリーとマイクの会話はほとんどロマンティック・コメディのそれである。コンビが学歴ではなく、底辺からキャリアを積んであの場所にたどり着いていたことにもぐっとくる。March Fourth Marching Bandによる陽気なテーマ曲も最高だった。

 『きっと、うまくいく』はアメリカ映画のような洗練されたシナリオ構成にインド映画ならではのサービス精神を盛り込んだ最終形態ともいうべき作品。主人公たちの大学時代を描く青春パートとかつての友人の消息を追うミステリー要素が絶妙に絡み合い、約3時間の上映時間、一切弛緩することなく突き進んでいく。ベタすぎるギャグ、脇役の動かし方、ミュージカルシーンももちろんいい。クライマックスやオチで生きてくるボールペンの小道具の使い方など本当に巧い。ボリウッド映画はことしも楽しめました。同時期上映の『タイガー 伝説のスパイ』『命ある限り』『闇の帝王DON』すべて見ましたが、大満足の出来だったし、小品の『スタンリーのお弁当箱』もよかった。『オーム・シャンティ・オーム』もスクリーンで見られてよかった。今後もインド映画はどんどん輸入して、定着してくれればいいなと切に願っています。

 『ルビー・スパークス』。公開は昨年末ですが地元では遅れたのでここに。『(500)日のサマー』も『ブルー・バレンタイン』も平気で楽しんでいた私は『ルビー・スパークス』を前に完全に打ちひしがれたのだった。ポール・ダノ演じる主人公が劇中でしでかす数々の間違いを、私もやらかしたことがある。人を愛しているふりをして結局は自分を愛しているだけの呆れたクズ人間が私だった…これまでの恋人達たちに土下座して謝りたい。

 年末に見た『ゼロ・グラビティ』はこの位置に。映像体験としては圧倒的だったし、傑作だとおもうが、象徴性がやや前面に出すぎた気もする。音楽もこの際なくてよかったのでは、と感じなくもないが、好みの範疇でしかなく欠点にはならないだろう。壮絶な映像を見せられたあと、宇宙服を脱いだサンドラ・ブロックの肉体に息をのむ。

 『パラノーマン』は『コラライン』のライカスタジオ製作の人形アニメーション。評判はすこぶるよかったが、地元では公開がなくブルーレイでの観賞となった。劇場で見ていればもう少し上だったかも。ホラーマニアの少年を主人公にした許しと相互理解の物語。人は話し合いによってよりよく振舞えるはずだというポジティブな人間観に貫かれている。王道ではあるが、こういうテーマを語るとき、やはりアメリカ映画は強いなと感じる。つづく

 『42』も『パラノーマン』と同じくアメリカ映画らしいポジティビティが貫かれた作品だが、本作のそれはより傷だらけでしたたかだ。ヘルゲランドはクラシックな演出に徹しつつも、ここぞというところでドラマを盛り上げ、実話を神話に昇華してみせる。列車に乗ろうとしたジャッキーが近くにいた黒人少年にボールを投げる。走り出した列車を少年が追いかけていく…ただそれだけの場面にどうして涙があふれてしまうのか。キャリア最高の名演を見せるハリソン・フォードを始め、役者陣もすばらしい。最大の勝因は、主人公ジャッキー・ロビンソンを演じたチャドウィック・ボーズマンを初めとした黒人俳優たちの美しさだ。ボーズマンの精悍な顔立ち、血の通った身体性、誇りに満ちた振る舞いはまるで聖職者のようである。実際にこの映画はかなり意図的にロビンソンキリストになぞらえてもいる。キャラクターよりも顔や運動が心に残るんですよね。妻役のニコール・ベハーリー、スポーツ記者のアンドレ・ホランドもいい。

 続いて次点、のなかで特によかった5本です。 

11.『劇場版魔法少女まどか☆マギカ 新編 叛逆の物語』(新房昭之、宮本幸裕)

Puella Magi Madoka Magica the Movie Part3:Rebellion/2013/JP

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12.『世界にひとつのプレイブック』(デヴィッド・O・ラッセル

Silver Linings Playbook/2012/US

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13.『リアル 完全なる首長竜の日』(黒沢清

Real/2013/JP

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14.『風立ちぬ』(宮崎駿

The Wind is Running/2013/JP

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15.『ローン・レンジャー』(ゴア・ヴァービンスキー

The Lone Ranger/2013/US

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以下、『マン・オブ・スティール』、『そして父になる』、『クロニクル』、『天使の分け前』、『舟を編む』と続く。『まど☆マギ新編』はファンサービスに配慮しつつもストーリーの新たな可能性を引き出す理想的な続編映画だった。やっぱり『まど☆マギ』面白い!ってことで年末発売のテレビシリーズブルーレイBOXを購入決定。『世界にひとつのプレイブック』はアンガーマネージメントを題材にしたロマンティックコメディーという一見無謀な、しかし実に現代的なアプローチで作られた傑作。『ザ・ファイター』もそうだったが、登場人物に対するラッセル監督の適度なドライさが正しい。ジェニファー・ローレンスがえろくて最高ですが、ブラッドリー・クーパーの演技がすごいとおもった。『リアル』、人気俳優二人を起用した商業映画でも黒沢清は圧倒的に黒沢清だったという衝撃と喜び。終盤に登場する首長竜が近年の映画では随一の怖さ。『風立ちぬ』、公開時はもやもやした感想を書いていたが、この夏はくる日も来る日も『風立ちぬ』のことを考えていた。老獪な巨匠が打ち立てた途方もなくめんどくさくてピュアな金字塔として。15位には『ローン・レンジャー』。欠点は多いんだけどクライマックスがすごすぎるのと、私にとって一番見たかったヒーロー像を示してくれたから。誰もが盛り上がるテーマソングとヒーローにあこがれる子どもの存在はけっこう大事。

 旧作ベストは『ミルドレッド・ピアース』(1945年/マイケル・カーティス監督)。今年ブロードウェイという会社がフィルム・ノワールの8枚組ボックスを3セットもリリースした。『ミルドレッド〜』はその第1弾に収録されている。90分弱のいわゆる「B級ノワール」が中心のセレクションの中で『ミルドレッド〜』はランタイム111分、ワーナースタジオ製作で、主演のジョーン・クロフォードオスカーを受けている(同年の作品賞は『失われた週末』)など、りっぱな「A級作品」である。ルックはこの時期の典型的なフィルムノワールだが、クロフォード演じる美貌の母親とスノビッシュな娘との確執を描くメロドラマだ。次々と不運に襲われる悲劇のヒロインはクロフォードの真骨頂といったところだが、すごいのはアン・ブライスが演じる娘。狡猾で、傲慢で、軽薄で、強欲で、利己的、人間の醜悪な面をすべて体現したかのような悪女である。すぐれたフィルムノワールには魅力的な悪女が必要だが、その意味でこの映画でのアン・ブライスは史上最凶レベルといっていい。未見の方には是非見てほしいです。

 最後に今年いちばんよく見た映画は『サスペリアPART2』(1975年/ダリオ・アルジェント監督)でした。今年リリースされたブルーレイは個人的には名盤といっていいできで、一時期狂ったように見てた。特に音質がよくて、5.1チャンネルで聞くゴブリンに酔いしれました。テケテケテケ。

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