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「指輪の重荷は背負えませんが、あなたなら背負えます」 〜『LOTR 王の帰還』

2012-01-21

[] 隣はなにを吸う人ぞ「フライトナイト/恐怖の夜 隣はなにを吸う人ぞ「フライトナイト/恐怖の夜」を含むブックマーク

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1985年の「フライトナイト」のリメイク作品。「引っ越してきた隣人がヴァンパイアだった!」という大筋、登場人物の設定など、基本的にはオリジナルに忠実だが、そこには微妙にツイストが加えられているという、まさに「リメイクとはかくあるべき」という佳作だった。

※以下、オリジナルとの比較など(オチこそ触れないけど)を含め作品の内容には触れています。


1.郊外映画としての「フライトナイト」

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オリジナルも勿論そういった側面を持っていたとは思うが、比べて見ると驚くことにリメイク作の方がそういった色合いが濃厚になっていた。

まずは砂漠に浮かぶ集合住宅地・屋根の色だけが違う同じ規格の住居郡を印象的に空撮で捉え、そこに「FLIGHT NIGHT」とタイトル。もうこの時点で、2011年のリメイク作が「郊外映画」であることを完全に宣言している。

ネバダの砂漠地帯に突如として出現する、恐らくはサブプライムいけいけドンドン期に開拓してしまったが早くも「寂れ始めた郊外住宅地」が今回の舞台。高校生のチャーリー(アントン・イェルチン)と、不動産を営む母ジェーン(トニ・コレット)は、その引っ越しが絶えないご近所に、新たな住人が越してきたことを知る。後に明らかになる、吸血鬼のジェリー(コリン・ファレル)である。

省略するが、ジェリーが吸血鬼なのでは?と疑念を抱き始めたチャーリーは、彼を家に招くことなく、ポーチでこんな会話をする(以下要約)。

「お前も大変だよな。親父はお前と母ちゃんを捨てるし、母ちゃんはお前を放ったらかしだし、おまけに彼女。お前のガールフレンド。今が熟れ時って感じだ。その果実をもぎ取りたくって、男共は列になって並んでるぜ?お前の母ちゃんだってそうだよ。お前まだ高校生なのにな。本当に大丈夫か?」

つまり、このチャーリーが日頃から感じている鬱憤・そして本音を、ジェリーに言わせている。郊外生活者のティーンエイジャーが、必ずしも全部が正解ではなくとも大筋で間違ってはいないことを、引っ越してきた隣人/他者から、ずばり指摘されてしまうのである。


2.スクールカースト/クラスタ

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オリジナルでもリメイクでもチャーリーにはエドという親友が存在する(もっともリメイク版の方はex.親友といった方が良いかもしれない)。

想像するに、この郊外が開拓された同時期に移り住み、仲良くなったエド(クリストファー・ミンツ=プラッセ)は、そのオタクっぽさから学校では「イケてないクラスタ」に追いやられ、そこに属するのを良しと思わなかったチャーリーは、エドと距離を取り始めて現在ではマジョリティー側に属している、ということが暗に語られる。

85年といえば、ジョン・ヒューズがバリバリと映画を撮り始める頃である(「すてきな片思い(84)」「ブレックファスト・クラブ(85)」「フェリスはある朝突然に(86)」)。このジョン・ヒューズの登場と、個人的に印象深いのは「ヘザース(89)」という映画の登場である。

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「学校にはカーストとクラスタが存在する」と、世界に宣言してしまった「ヘザース」によって、以降のティーン映画ではこの「スクールカースト/クラスタ」という機軸を無視できなくなってしまったように思える。リメイク版「フライトナイト」では、85年版にはなかった(現実にはあったはずだが映画では描かれなかった)「ティーンが構築する繊細な友人関係」を新たな要素として描いている。


3.州間高速

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中盤の山場に、吸血鬼の本性を現したジェリーが、チャーリー、ガールフレンドのエイミー(イモジェン・プーツ)、母ジェーンの三人に襲い掛かる、というシーンがある。

間一髪で車に乗り込んで逃げおおせたかと思いきや、ジェリーが車に張り付いて再び襲い掛かるという、オリジナルにはなかったアクションの見せ場である。ここで登場するのが州間高速、所謂「インターステイト・ハイウェイ」である。

郊外生活者にとって、その居住区と、都市部および買い出しに利用するショッピングモールなどを結ぶライフラインが、この州間高速である。この州間高速がアクションの見せ場となっているのは非常に示唆的で、ここでは不動産業を営む母親が、その職業ならではのある小道具を使って、ジェリーに返り討ちを喰らわせ一時的に難を逃れる(このシーンの雰囲気は上記リンクのレディオヘッド「カーマ・ポリス」のPVにそっくりである)。

そして、この映画に登場する州間高速は、一体どういった場所と郊外住宅地とを結んでいるのか?というと……


4.ベガス

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オリジナルで吸血鬼を退治するのは、「フライトナイト」というテレビ番組でホストを務めるピーター・ヴィンセント*1という男だ。これがリメイク版では、ラスベガスで「フライトナイト」というマジックショーのホストを務める男に変更されている。チャーリーはベガスまで出向いて新聞記者を装い、ピーターに接触を試みる。

郊外生活者にとって、ショッピング・モールが日常から非日常へのを切り替え機能をはたしている、という指摘は、大場正明氏の名著「サバービアの憂鬱」でも紹介されていた。リメイク版「フライトナイト」における、「非日常」を売り物にするマジシャンが郊外に潜む悪夢を退治する、という設定は、おそらくこのリメイク版の肝といっても良い。

少し話が逸れるが「ベガスが(表向きだけ)健全になってショッピング・モール化してしまった」という皮肉は、マーティン・スコセッシの「カジノ」のラストでも象徴的に描かれていた。


5.大人と子供

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これはツイッターで、とあるフォロワーの方と感想のやり取りをしていて気付いたことだが、ジェリーの描き方一つを取ってみても、その今日性は如実に現れている。

オリジナルでジェリーを演じているクリス・サランドンは、普段から襟付きのシャツにジャケットを羽織り、外出するときは「いかにも'85」という、ごっつい肩パットが入ったコートを纏っていて、これを古来の吸血鬼のマントのように犠牲者に覆い被せて消えたりする。

ではリメイク版のジェリーはどうか?ナイトシフトの肉体労働者、というような紹介がほんの少しだけされるのだが、普段から↑ご覧の通りのタンクトップである(そうでないときはTシャツ)。

ジェリーはオリジナルでもそうであったように、チャーリーのガールフレンドであるエイミーを誘惑する。場所はクラブである。オリジナルでは、若者が沢山いるなかに一人、スーツに凄い肩パットのコートを着たオッサンが紛れ込んでいるだけで、物凄い違和感がある。

ところがリメイク版では、というか現代では、オッサンがクラブに紛れ込んでいても、若者とさして変わりのないファッションであり、Tシャツ姿のコリン・ファレルがティーンの女の子を誘惑していても、なんら違和感なく写るのである(「今思えばオリジナルで描かれていたのは、大人と子供の境界が今よりはっきりしていた時代だったのでは」とはフォロワーさんの弁)。

これは母親ジェーンを演じるトニ・コレットにしてもそうで、ジェーンはチャーリーにジェリーの印象を「イイ男ね」とほのめかすと「ちょっ…ママ!」「冗談よ!男には懲りてるわ」と返すやりとりがあったりする。オリジナル版の母親にはジェリーを「男」という目線で見ている描写は全くない。リメイク版では、ジェリーがポーチでいうように母親を「女」として見ているし、仮に冗談にしても母親が隣人を「男」として見ている。そうした狭間に立つチャーリーは、まさに現代の郊外に暮らす、悩めるティーンエイジャーなのだ。


6.ホラー映画が何を切り取るか

これだけ章を立てて色々書いてみると、なんだか大傑作のようにも思えるが、実は「後もう一歩」という印象がなくもない。それはやはり、こうして挙げた要素をもっとネチネチとやっても良かったはずなのだが、いまいち押しが弱く、ある種の淡泊さも目立つ。そこがリメイク版「フラトナイト」の弱点と言える。

挙げる例があまり適切ではないかも知れないが、例えばウェス・クレイブンの「壁の中に誰かがいる」などは、郊外映画としても観ることができるし、そうした事情を全く理解していなくても「トチ狂った都市伝説ホラー」として十分楽しむことができる。

リメイク版「フライトナイト」の監督である、クレイグ・ギレスピーのフィルモグラフィーを見ると、郊外というテーマにある種のオブセッションを抱いているように思えるし、監督三作目としては十分に合格点をあげられる内容だったと思うので、このままこの路線で邁進して頂ければと思う。期待してます。

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*1:ちなみにこの名前はピーター・カッシングとヴィンセント・プライスのファーストネームをくっつけた芸名

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2011-12-31

[] 2011年公開作品&その他 ベスト10  2011年公開作品&その他 ベスト10を含むブックマーク

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1. 『灼熱の魂』 (感想

2. 『4デイズ』 (感想

3. 『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』

4. 『アレクサンドリア』 (短い感想

5. 『サラエボ、希望の街角』 (短い感想

6. 『ミッション:8ミニッツ』

7. 『ラブ・アゲイン』 (感想

8. 『ヒア アフター』 (感想

9. 『ソーシャル・ネットワーク』 (感想

10. 『復讐捜査線』

一言雑感などを。

・「灼熱の魂」圧巻。上映後にボーっとしてしまった。

・「4デイズ」これも観終えた後はかなりボーゼンとしたけど、まさか「灼熱の魂」がそれを越えるとは思ってもみなかった。

・「愛の勝利を ムッソリーニを愛した女」「あなたは正しいかもしれないが今は声をあげるのに正しい時ではない」という精神科医の言葉がズシリと胸に刺さる。

・「アレクサンドリア」出発点から「こんなに遠くへ来てしまった!」というのが大河ドラマの醍醐味であって、そういう意味では満点。

・「サラエボ、希望の街角」これも「幸せだった頃」から遠くへ行ってしまう映画。主人公が発するラストラインが秀逸。

・「ミッション:8ミニッツ」同監督の前作「月に囚われた男」の変奏、と書くだけでネタバレになりそうなので詳しくはご覧になったらよろしいかと思います(「月に囚われた男」の感想)。

・「ラブ・アゲイン」ラブコメ帝国アメリカの底意地を見せ付けられた。

・「ヒア アフター」今年は劇場でマット・デイモンを何度も観た気がするけど主演作ではコレがベストかも。

・「ソーシャル・ネットワーク」「ファイト・クラブ」で90年代の空気を捉えてしまった人が00年代の空気も捉えてしまった。

・「復讐捜査線」今の日本にはメルの牛乳が足りない!


強引に20位まであげるなら↓

11.『ソウル・キッチン』、12.『しあわせの雨傘』、13.『神々と男たち』(短い感想)、14.『宇宙人ポール』、15.『サラの鍵』、16.『ランナウェイズ』、17.『ハンナ』(感想)、18.『クロエ』(感想)、19.『ファースター 怒りの銃弾』、20.『冷たい熱帯魚』(感想

そして更に、リバイバル上映、映画祭上映作品の中で選ぶなら以下の通り。

1. 『赤い靴』

2. 『雨さえも』(LBFFでの感想

3. 『アンダーグラウンド』

4. 『ナッシュビル』

5. 『こころ』

6. 『団地・七つの大罪』

7. 『薔薇の名前』

8. 『33号車応答なし』

9. 『THE LAST CIRCUS 』(LBFFでの感想

10. 『カルロス』(LBFFでの感想


なんとか年内中にベストをまとめることができました。2012年が皆様にとって良い年でありますように!良いお年を!!



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2011-12-23

[] Four of Us「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」  Four of Us「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」を含むブックマーク

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「インディ・ジョーンズ クリスタルスカルの王国」ぐらいから思っていたことだけど、この「M:I GP」も所謂「前半〜中盤に最大の盛り上がり・山場がある」作品のような気がしてならない。なにしろのっけからクレムリン爆破。そして中盤にはブルジュ・ハイファでのトム宙釣り!〜キャットファイト!〜砂嵐の中のカーチェイス!と畳み掛ける(この中盤の盛り上がりがピークだった気がする)。

クライマックスには予告でも流れてたのでネタバレにはならないと思うけど、日本ではこのご時世で一番デリケートなモノを積んだウォーヘッドがランチしてしまうわけですよ。で、これを止められるのか!たった4人のIMF!というのが最大の見せ場となっているんだけど、なんかねぇ。その「ポチっとな」してしまう側を単なるキチガイと切り捨てていたのもあんまりノレなかったし、いくらその緊迫感をトムちんのフィジカルなアクションと対比させた所で、もう「あ、いまこの辺を飛んでんだな」という確認作業をするだけみたいになってしまって、スリルもサスペンスも自分の中ではあまり醸造されなかったですよ。

とはいえ、終盤のレナーさんのアキレス腱伸ばしとサイモン・ペグのチーム内大躍進が観れたし、その他のアクションなど見所は満載。なので、2000円払ってIMAXでの鑑賞でしたが料金分は十分に元を取った感じで満足しました。年末から年明けのお休みに最適のイベントムービーでしょう。

しかしあれですね、トム・クルーズの凄い所って、「ナイト&デイ」でセルフパロディみたいなことをシレーっとやっておいて、何事もなかったかのようにまた本道に戻ってくる所だよなぁ。ああいうのをスターっていうのか。

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例のテーマ曲だとリジー・メルシエ・デクルーのカバーが一番好き。



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2011-12-21

[] 我が子の印「灼熱の魂」  我が子の印「灼熱の魂」を含むブックマーク

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ケベック州に住む双子の姉弟ジャンヌとシモンは、亡くなった母親ナワルからの遺言を受け、未だ見ぬ彼らの父親と兄の存在を知る。そして遺言によりジャンヌは父親への手紙を、シモンは兄への手紙を託され、二人は中東の母親の故郷へ初めて足を踏み入れる。 wikipedia 「灼熱の魂」ストーリーより

例えば「戦争・内戦の悲惨さを知る」ときに、現在ではネットの普及や様々な書籍などの刊行もあり、「調べてみよう」と思ったり「知ろう」と思えば、幾らでも知ることが出来る。

何万もの市民が虐殺された、それには女子供も含まれる、民族浄化の名の元にレイプが横行した、昨日まで隣人だった人々がある日を境に銃を手にとって殺し合いを始めた。その内戦が何と呼ばれていたか、通り名を検索窓に入力すれば、内戦の概要、そして事件の背景等、ものの10分もあれば把握は可能であろう。

高校の修学旅行で、広島を訪れたことがある。原爆ドームや資料館、そして実際に被爆した生存者に話を聞く、というお約束のコースである。自分たちに話をしてくれたのは高齢の女性で、今となっては詳細はうろ覚えだが、自分の妹を失ったことを涙ながらに話してくれた。普段は授業中にふざけたりするようなポジションの生徒も、この時ばかりは神妙な面持ちで老婦人の話に耳を傾けていたのが非常に印象に残っている。日本で平和に暮らしてきた10代の高校生に対するイニシエーションとすれば、まずまずの成果を上げていたように思う。

「戦争・内戦の悲惨さを知る」または「悲惨さを語り継ぐ」には、一体どういった手法を選択すれば良いのか?それはおそらく「受け手が物語として共有する」という形が、最も効果的なのではないだろうか。

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「灼熱の魂」は母の奇妙な遺言に記された、いくつかの巨大な謎で幕を開ける。生前は、その存在自体を話してもらえなかった父の存在。そして兄の存在。その二人を、双子の姉と弟が二人で協力して探し出すこと。

この使命は一体、何を意味するのか?母は、残された二人の我が子に、一体何を伝えようとしているのか?

探究心の強い姉:ジャンヌは母の故郷である中東へ旅立ち、死に及んでもゲームのような真似をする母に嫌悪感を抱く弟:シモンはまるで他人事のように興味を示さない。ところが、かの地で姉が知った衝撃的な事実により、双子は協力さぜるを得ない状況へと追いやられ、そこには更なる驚愕の事実が兄弟を待ち受けていた……。

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観客は、この双子の辿る道、そして二人の母がかつて辿った道を追体験することによって、想像を絶するような「物語」を共有することとなる。その手腕のなんとも見事なこと。悲しきパズルの最後のピースがカチリとはまった時、受け手に許されるのは、せいぜい溜息ぐらいである。

遠い異国の話。異なる宗教を信仰する人々の話。信仰の違いという愚かな理由で殺しあった愚かな人々の話。

「灼熱の魂」は、そんな無関心さ、不寛容さを徹底的に否定し、完膚なきまでに叩き潰す。

本年度ベスト1はこの映画にしたいと思います。

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2011-12-03

[] 知りすぎた男「ラブ・アゲイン 知りすぎた男「ラブ・アゲイン」を含むブックマーク

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いつもように子供をベビーシッターに預け、夫婦で出かけたディナーの席で、キャル(スティーヴ・カレル)は妻エミリー(ジュリアン・ムーア)から突然「離婚したい」と切り出される。同僚(ケビン・ベーコン)と浮気したのが原因だとエミリーは打ち明けるが、キャルはショックのあまり塞ぎ込んでしまう。別居を決心したキャルは失意の中、バーで出会った遊び人ジェイコブ(ライアン・ゴズリング)に成り行きを話す。すると彼は、冴えないキャルに「モテ指南」を施してやろう、と申し出る。かくしてキャルの「人間改造計画」が始まるのだが…というお話。

2011年のベスト10本に食い込んで来るであろう、素晴らしい作品だった。

これは平凡な男が新しい世界に触れて変化する物語であり、そして、どうしても変われない部分もあるということを悟る物語でもある。

キャルがジェイコブに「ベストキッド」スタイル(詳細は見てのお楽しみ)で「女を口説き落とす作法」を叩き込まれ、今まで女性経験は愛妻だけという40男は、全く新しい世界に触れることになる。それは、普段の服装や髪型といった、常にちょっとした心遣いを意識しつつ、女性とのコミュニケーションスキルを磨くことで、所謂“お持ち帰り”も決して難しいことはない、という世界である。彼はここでゲームのルールを習得し、プレイヤーとして経験値を上げ、息子の教師との面談で再会した妻に「見違えたわ」と言わせる程度には文字通り「男を上げ」てゆく。

だがキャルは、自ら飛び込んでいったこの「新しい世界」に違和感を覚えている。妻の別離の申し出によって知ることとなったこの新世界は、決して彼にとって馴染みの良い世界ではなかったのだ。

彼は知ってしまった「新しい世界」を捨て、再び「知りすぎなかった」頃の、馴染みの良い世界に戻ろうとする。そのきっかけとなる、携帯電話を使ったシーンが実に見事(詳細は見てのお楽しみ)で、向田邦子、山田太一もかくや、と思ってしまった。

しかし、キャルが子供たちの手を借りてまでして挑んだ復縁の試みは、脚本家:ダン・フォーゲルマンの手によって、丁寧にブチ壊されることとなる。この手順のなんと見事なこと!(詳細は見てのお楽しみ)

最後にキャルは、新しい世界を知ってしまった罰を受けるかのように、ある男の真摯な申し出に苦悩することとなる。「無理だ。自分は知りすぎた」キャルは呟く。果たしてキャルは、かつての「知りすぎなかった」頃の世界に、新世界で得た捨てようのない経験を胸に、戻ることができるのだろうか。

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キャルが友人から「妻と話した結果、エミリー側に付くことになった。君とはもう会えない」と言われるシーン。恋愛/結婚関係の終焉において、共通の友人との関係にはリブートが必要とされる、という象徴的なシーンである。