2006-12-25
「大学病院のウラは墓場」を読む
- 作者: 久坂部羊
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2006/11
- メディア: 新書
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アマゾンでタイトルに惹かれて購入してみた。著者の久坂部羊氏は外科医でありなおかつベストセラー作家でもあるらしい。新書なのでボリュームも少ない事もあるが,2時間ぐらいで全部読んでしまった。確かに文章を飽きさせずに読み続けさせる点においてはプロフェッショナルと言わざるを得ない。この著者の書いた小説も読んでみようという気にさせる。
本書の内容に関して言えば,2006年秋の時点における大学医局を中心とした医療事情のまとめとしては優れている。タイトルだけから判断すると臨床から離れた医師が無責任に「医者」を批判するいつものパターンではないかとつい身構えてしまうのだが,現状はかなりよく把握している。自ら大学病院勤務の経験もあるが主な情報源は大学病院の同期らしい。これを読んだ医師特に勤務医にとって目新しい内容はない代わりに大きな異論もないところだと思う。深読みすると正攻法ではなかなか非医療者が食い付いてくれないのであえて低俗なタイトルで客を呼び込もうという著者と編集者の苦肉の策かも知れない。
「働かない大学病院の看護師たち」という文章が一般向けの書籍として公になったのは画期的。ネットではいまさらではあるのだが,たとえばこんな一節。身も蓋もない書き方である。
マスコミも大学病院の看護師の問題を把握しても,批判的な記事を書かない。看護師が「白衣の天使」と見られているからだ。看護師への批判を漏らした医師はこういった。
「看護師さんたちは世間に好感を持たれているから,マスコミは攻撃しないんだよ。医者の悪口ならさんざん書くくせにね」
看護師はよい人なので,それを攻撃する記事は世間にウケないというわけだ。
最終章では,大学医局の崩壊に対する対策としては医師の自由を制限せざるを得ないだろうという考え方が提示されており,医師の賛否は分かれそうである。個人的な意見としては現在進行している医療崩壊を食い止めるべきであるという前提が正しいのか,やるとして誰がどういう方法で制限するのかと言う問題もあるし,医師のモラルだけに頼るのは正直どうなのかとも思う。正論ではあるが,それこそ世論が結論のこの部分にだけ食い付いてくることも考えると単純化しすぎた感はある。
などと文句を言ってしまったが,繰り返しになるが医療崩壊問題のまとめとしては読みやすいし値段も安いので非医療者にとって敷居も低い。その点で評価されていい本だと思う。
記念すべき100日は諸般の事情で逃してしまいましたが,医局脱出まであと96日。
comment
Commented by inoue0 at 2006-12-26 02:45
傾向としては確かにそうなのですが、大学病院、市中病院という二分法は単純過ぎませんか?市中病院だってコメディカルがセクショナリズムでぜんぜん働かないところもあるし、大学病院でも市中病院とあまり変わらないところもありますし。
夜間の緊急手術は、コメディカルが一切協力せず、術前、術後のレントゲン撮影から、手術介助や患者搬送も全部医師がやれという病院から、各職種でオンコール人員が決まっていて、いざ鎌倉となったら医師と同じように夜間でも出勤してきて、昼間と同じ手術ができる病院もあるそうですし。
この差はどこから来るんでしょう?組合の力かな?
Commented by doctorpooh at 2006-12-26 06:15
この本にもあるのですが,大学病院とひとくくりにするのは確かに問題ありです。ただ看護師の問題だけでなく臨床・教育・研究を合わせ持った医療機関としての大学病院は市中病院とは区別されるべきだと思いますし,そうした文脈の中での一節と理解しています。
当ブログをお読みいただけると分かると思いますが,個人的には大学病院看護師には怨念に近い感情を持っていますので上記の文章につい反応して引用してしまった次第です。私の記事とコメントでは説明不充分でしょうからぜひご一読をおすすめします。
Commented by inoue0 at 2007-01-18 19:15
本やタウンで注文したら品切れでした。売れてるのか、刷った部数が少なかったのか。
気長に再刷を待つつもりです。
Commented by doctorpooh at 2007-01-18 20:09
アマゾンでも楽天でも品切れですね。そんなに売れているのでしょうか。報道関係者がネタを拾うために買っていたりして...
Commented by inoue0 at 2007-01-23 06:09
amazonマーケットプレイスで手に入れました。
確かにタイトルは露悪的で趣味が悪いですが、言ってることはそんなにひどくないと感じましたし、話題もタイムリーで、非常に優れた本です。文章も手慣れてる。
ただ、doctorpoohさんのおっしゃるとおり、結論部分の「医師の自由制限」については、かなり異論があります。詳しくは自分のblogで論じたいですが、現状でも、医師は完全に自由に職場や診療科を選んでいるわけではないと思います。経済的な制約が加わりますから、好き勝手に開業できるわけではないし、リスクも負わねばなりません。診療科だって、眼科や精神科は地域によっては過剰になりかけているのですし。
著者の望むような体制にするには、医科大学すべてを、防衛医科大学校のように、特別公務員として学生に給与を支払う必要があるでしょう。そうでなくては卒後の進路なんて縛ることはできない。契約をしていないのに特定の労働を強要されるなら、それは憲法違反です。
Commented by doctorpooh at 2007-01-23 09:34
要求される義務は特別公務員なのに,認められる権利はパートタイマーというのが問題なんだと思います。
