2007-03-21
■[超−1]【+3】煙
全体的にはやや誇張気味とも取れる人物描写が気になるが、劇的な恐怖を遺憾なく発揮した作品である。
火葬場で起こる怪異もいろいろあるが、煙がたなびかずに下がっていき、それどころか意志を持ったように屋内に入り込んで怨みある人に襲いかかるというのは、さすがに初見である。
最初に書かれたシチュエーションは月並みではあるが、嫁の怨みを想起させるには十分。
そして姑の様子も同じく、その性格が明確に判るほど単純化されている。
創作であればもっと克明な心の襞と言うべきものを組み立てる必要があるかもしれないが、怪異に重きを置く意図があれば、却ってこの程度の表記に抑える方が良いのかもしれない。
ただいくつか問題点も見られる。
最初に記したように、人の死にまつわる怪異でありながら、居合わせた人々の行動が露骨すぎるように感じる。
特に火葬が始まり、煙が煙突から出ようとしている時の表記だけ見ると、重大事件の判決が出た瞬間に玄関口に殺到するマスコミ記者を彷彿とさせる。
このあたり、どうも表現の誇張(嘘を書いている訳ではないが)が強いように感じる。
姑が逃げまどう描写についてもやや大袈裟なと思わせる部分があった(ただしこちらは切迫感との兼ね合いもあって、極端に違和感を感じなかったが)。
そして、展開上この出来事によって健康を害したとみなされる姑が、どれだけ苦しんで亡くなったのかという表記が少ないように感じた。
因業話では応報の程度はカギであると思うし、やはり「七年前に亡くなった」という説明では、要を得ないと言わざるを得ない。
「亡き妻の名を呼んだが、全く反応しない」や「あの火葬場で焼くのだけは止めてくれ」といった、心臓を軽く鷲掴みにする怖い言葉が時々並んでおり、文を一生懸命練ろうとしている工夫が見られる。
激しい動きよりも静謐な動きに関する描写(移動する煙、火葬場の状景など)がもっと書かれていたら、相当な作品になっていたと思う。
■[超−1]【+1】図書館
文章を読んでいて一番気になったのは、体験者の語りの部分である。
冒頭の「小心者」発言から始まり、「督促状云々」、「こんな時間に仕事」、「泥棒」など、本筋である怪異の展開とは直接関係のない感想が殆どを占めている。
言い訳めいた言葉や些末な説明が多く、むしろスムーズにいっている展開の腰を折るために挿入されているのではないかと思わせるほどである。
特に怪異が始まる以前の部分がもたついている原因は、このカギ括弧のコメントとそれに対応するための説明のせいであると考えてもいいかもしれない。
そしてこの冗長な雰囲気がそれほど強烈な内容を持たない怪異にあっておらず、面白味を殺してしまったように感じる。
“あったること”だけで展開させても十分ストーリーが維持出来る内容だと思うので、思い切って“地の文”だけで構成してしまった方が良かったという印象である。
怪異についての証言説明と描写説明(最後の10行程度)の印象が非常に鮮やかであるが故にもったいない。
この部分だけ取り出せば相当達者な書き手ではないかと思わせるほど、何とも言えない不可思議感が出ていると言っていいだろう
どんな文章でも出だしを書く時が一番頭を悩ませるし、力みやぎこちなさがどうしても出てしまう場所である。
だからこそ推敲が必要なのであり、その際に全体のバランスを考えて前半を調整する(専ら“削る”という作業になるが)ことが肝心だというのが個人的意見である。
■[超−1]【+4】公園デビュー
畳みかけるように明らかになる怪異と同時に、どんどん気まずくなる周囲の雰囲気が見事に活写されている。
それを彩るのが、登場するもの全てが典型的なキャラクターを持ち、それぞれの役割・ポジションを維持しながら絡み合うところであろう。
精神的に壊れた生身の人間、理不尽な怨みを持ち続ける霊体、あやかしに対して純真無垢に接する子供、“見える”事実を知って身構えていく傍観者、そして“見える”ことで途方に暮れる体験者。
これだけのキャラクターが怪異の現場に一堂に会して繰り広げるストーリーである。
しかもお互いが絡めば絡むほど事態は深刻な方向へ流れていき、そして坂道を転がり落ちるように体験者にとって最悪の結末を迎える。
作者がこれらの様子を非常に克明に描き出しているのだから、読んでいて飽きるということはあり得ない。
敢えて問題があるとすれば、起こっている怪異そのものがあまり希少なものではないということ。
結局起こっている怪異そのものは、公園に死んだ老婆と犬の霊が現れたという内容に集約される。
そこに絡んでくるものが典型的で複数存在するために密度の濃い展開になっているが、大ネタであるとは言い難い。
逆から見れば、それだけの怪異をここまで凄い内容で読ませる作者の技量を評するべきなのかもしれないが、若干抑えめの評価とさせていただいた。
ただ点数以上に価値のある作品であると、はっきりと断言しておきたい。