2007-03-29
■[超−1]【−3】猫が見えるもの
怪異の内容以前の問題として、文体があまりにも痛すぎる。
生理的に受け付けにくいというか、多分声になって聞いている分にはまだ我慢できるが、字面になってしまうとどうしようもなく読む気が失せる語調である。
“実話怪談”というレッテルが貼られているからといって、全てを完全再現させる必要はないと思う。
まずは読者が読みやすい環境を作る方が先決である。
このような録音データをそのまま言葉化させる行為は一見リアルであるが、読者に読ませる“怪談”という作品作りの観点から言えば、完全な失態以外の何ものでもないだろう。
さらに怪異の内容であるが、文体が読みづらいのも相まって、非常に把握しにくいと思った。
そして恐怖感というものも、結局猫がビビって失禁するという部分に集約されてしまい、間接的な表現のために興を削がれてしまった。
体験者が語るように、動物の考えていることを人間が理解するのは難しい。
この言葉が、そっくりそのままこの作品の核心になっていると言えるだろう。
要は、猫のリアクションを見てもどれだけ恐ろしいことが生じているのか、読者は薄ぼんやりとしか分からないのである。
しかも鎧武者などというあやかしが登場しているにもかかわらず、ゴキブリやムカデと対比してしまっており、その点でもどこまで怪異から恐怖を抽出するかという作業において、完全なミスをしてしまっている。
どちらかというと実験的な匂いのする作品であるが、外したと言っても間違いないだろう。
■[超−1]【+2】お花見
シチュエーションから臨死体験かと思わせる内容からスタートさせ、上手く幽体離脱の話へと繋いでいる。
もしこれが最初から幽体離脱ネタだとわからせる構成で進めていたら、多分評価はもっと低くしていたと思う。
フェイントを掛けることによって、ありきたりなネタが思わずハッとさせられるようなレベルのものに仕上げられたと言える。
またネタそのものについても、単なる思い込みではなく、物証まではいかないまでも記憶のディテールにこだわった書き方が良かった。
“幽体離脱”ネタとしては水準以上の出来であり、作者がかなり怪談に達者であるような印象を受ける。
ただ幽体離脱中の体験者と桜の木の位置関係が今ひとつ明瞭になっておらず、もう少し具体的な表記が必要だったようにも思う。
だが全体的に、ゴリゴリの正統派ではなく、少し視点を変えて怪異を語るという手法はなかなか新鮮味があった。
最後の一文など、怪談に慣れている読者ほど意表を衝かれるような書きぶりであった。
怪異の希少性から見ると、好評価までは至らずといったところか。
■[超−1]【0】用足し
怪異に慣れている人(例えば“見える”人)が怪異を語ると尋常ならざる内容であっても非常に淡々としたものになり、生涯ただ一度だけの怪異体験を語る人は金縛り程度でも大仰に話をする傾向があるらしい。
本人にとって未知の体験であるかどうかが、話しぶりに反映するということだろう。
この作品もそういう点で非常にもったいない結果になったと言える。
ドアノブをガチャガチャされたり、家に見知らぬ者がたたずんでいるのを目撃したりすれば、当然とんでもない恐怖感に襲われるのが普通である。
ところが、この作品では体験者以外がその怪異に対してあまりにも素っ気ない反応しかしないために、読んでいる側がそれほど恐怖感を持つに至らないように感じた。
かといって、オチのある笑いに結びつくような要素もほとんどない。
結局作者の意図はどこにあったのか判然としないのである。
もし恐怖を求めるのであれば、友人の対応はかなり問題であるだろうし、その“慣れている”という部分をことさらに強調するのはどうかと思う。
印象としては“あったること”をそのまま怪談として作り込まずに置いておくというところである。
しかし、その措置は最終的に効果を狙ったというよりも、どうしようもなくなって投げ出したという悪い印象である。
素材としてかなり始末の悪いものであるとは思うが、恐怖に結びつける書き方が決してないことはない筈である。
臨場感のある体験描写があれば、雰囲気はかなり変わったのではないだろうか。
とにかくこのままでは、作者の意図の見えてこない、中途半端な印象だけで終わってしまうだろう。
■[超−1]【+4】石柱
いわゆる“罰当たり”怪談の一種であるが、やらかしたこと自体が軽微だったせいもあって、何となくのどかな雰囲気も漂わせる好編であると思った。
全体的に過不足ない表記で、ストーリー全体が流れるように読みやすかったのが、この作品の一番のポイントであるだろう。
下手をすると祟りの一種のように重苦しい雰囲気になりそうな内容なのであるが、むしろあっさりと事実関係だけを書き記していく手法で、良い意味での軽さを維持できていると言える。
血尿が出てから学校にたどり着くまでの表記は一見手抜きのように見えたが、最後の確証のための伏線だったとわかると、逆に上手く処理していると感心した。
その確証であるおばさんと駐在の会話であるが、これは怪異の内容にとっても非常に重要なものであり、同時にこの作品の持つ雰囲気を決定づけるものにもなっている。
この何となく間延びしたようなおとぼけぶりが、この作品の特長でもあり、魅力でもある。
怪異自体についても非常に珍しい“天罰”であり、その点でも評価は高い。
独特の世界を生み出している、得難い内容の作品と印象である。
■[超−1]【+2】0.01
日常の一コマを切り取ったような雰囲気を持つ怪異である。
怖くもないが、それでいて十分不思議な話である。
子供の頃と全く同じシチュエーションで現れたために全然怖さというものがないし、実際体験者自身が霊であると気づいた後も恐怖感に襲われている様子もない。
むしろ霊ではあるが肉親との触れあいに懐かしさを感じている風に見えるところが、非常に優しい雰囲気を作りだしている。
また霊がリンスとシャンプーを取り違える事実であるが、霊だから万能ということはなく、このように生前と全く同じ状況の場合、やはり生前の行動と同じ結果になることの方が通例である。
その点でこの間違いが、この話のリアリティに繋がっていると言っていいだろう。
どうしても小粒なネタなので、好評価にまでは至らずであるが、癒し系の良い感じの怪談としてはなかなかの出来ではないだろうか。
ネタを十分に活かす作者の意図がよく見える作品である。