【+1】導かれ、選ばれて

心霊スポットへ安易に行き、そこで霊と遭遇して取り憑かれてしまうという展開は、さほど珍しいものではない(タイトルではいかにも“予定調和的”というか因縁めいたものを感じさせるものにしているが、これは“思い込み”に近いと思う。真相は、あくまでも“偶然”であるだろう)。
そして遭遇した怪異についても、九死に一生というようなレベルでもなく、指を噛まれて(それもあまり痛みを感じていないようである)歯形が残ったというものである。
とにかく起こっている怪異だけ取り出せば、弱いのである。
ところが体験者の恐怖感というものが巧みに表現されているために、非常に緊迫感を感じさせる内容に仕上がっており、怪異もそれに引っ張られて薄気味悪さが前面に滲み出ている印象を覚えるのである。
特に心霊スポットでの霊体との遭遇からコンビニへ逃げてくるまでの体験者の心理描写を中心とした臨場感は、流れるように自然でなおかつダイナミックと言うべきである。
体験者側のリアクションによって怪異が際立ってくるお手本のような作品であると言えるだろう。
しかし、その後の話になると途端に印象は悪くなる。
怪異について“精を吸い取るもの”という解釈を施しているのであるが、その根拠となるべき内容がほとんど語られずじまいなのである。
体験者がその後もあやかしにつきまとわれていることを示す一文はあるのだが、いまだに指を噛まれ続けているのかはそれだけでは判らず、従って体験者の解釈もどこまで信憑性のあるものなのかの判断が出来ないのである。
おそらくは最初の体験と同じことが断続的におこなわれていると見るのが妥当なのだろうが、それをきちんと書かなければ、このような“あり得ない体験”の場合には逆に何が起こるか予測すらつかないのだから、非常に曖昧な内容になってしまったと言わざるを得ない。
遭遇時のインパクトは十分だが、いまだにそれに悩まされ続けている部分での詳細が足りず、せっかくの怪異の凄まじさがかなりダウンさせられたと判断したため、あまり高くプラス評価とすることが出来なかった。