ポツリポツリと・・・

「俺は太郎を捨てた 次郎を捨てた 家庭を捨てた」

こんなことを言う夫

そうだったかもしれないなあ

団塊世代の末の人間はやはりこう生きるよりしょうがなかったのかも

私は子育てで一生懸命だったから何も感じなかった

いや 感じてはいたがそれを云い出したらお終いだった

お互いに目を逸らしながら生きていたのかもしれないな

あちらこちらと移り住みながら

遥けくも来つるものかはの思いに囚われながら

しきりに子の背中を支えていた そして支えられていた

夫は何の心配もなく仕事に邁進していたのだ

そして年月は瞬く間に経った

老年に達した私はどうしようもない不安と恐れに苛まれ

夫の方はまた新しい自由へと目を向けている

いったいにしてどうしたって損したなの気分!

こんな事を言っては罰が当たるかもしれない

月毎不自由ない金子をもらい 暖かな社宅もあった 近所もあった

孤独を感じたこがあったろうか

もしあるとすれは今が一番それに近い気分だと思う

どう表現すればいいいのか途方に暮れる

日々をどう過ごせばいいのか分からなくなる

なんでも自由に好きにすればいいじゃないかと考えても思い定めても

突然訪れたこの不自由に対抗する手段がない

夫は勝手にポツリポツリともらしてそれっきりだ

私は黙って飲み下すしかない 返事は無用だよなぁ

(ソウネ アナタハステタネ タロウトジロウトワタシヲ ワスレテイタネ

 イマ オモイダシテフリムイテミタラ サンニンガイタ?

 キゲンヨク イツモ ワラッテイタ? ナミダヲナガシテイルコトハ

 イチドモ ナカッタカナ  ソウイウコトモアッタノヨ

 ノリコエタノヨ アナタガ シゴトヲナシエタヨウニ)






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