遊蕩爺の漂浪メモ

『翻訳家 山岡朋子ファンクラブ初代会長の日記』 より移行

翻訳家 山岡朋子さん その29  『ルス、闇を照らす者』 : Elsa Osorio さん コメントなど

"A veinte años, Luz" 邦題 『ルス、闇を照らす者』 に関して、ネット上では複数言語で相当数のインタビュー記事が確認出来ます。出版に関わること、小説と歴史の関わりに関することなど、比較的最近のものを以下2つ紹介;


アルゼンチン:Clarin 紙サイト 2006年10月31日付け
Silvina Schuchner 記者によるインタビュー記事より抜粋

http://www.clarin.com/suplementos/mujer/2006/10/31/m-01300188.htm


(この記事は長いので、抄訳する部分だけ引用しようとしてもコマ切れになってしまうため割愛します。)


−−−8年前(1998年)アルゼンチンでは 「そのテーマはウケないから」 と云う様な理由で "A veinte años, Luz" を出版してくれる会社は無く、まずスペインで出版され、その翌年1999年にブエノスアイレスで出版されたものの、「管理上の理由から」 すぐに市場から消えてしまった。

にもかかわらず、世界23ヶ国16言語で (日本を含みますよ) 50万部が売れ、文学賞受賞など正当な評価が与えられており、本年2006年には再度アルゼンチンのプラネータ書房から出版された。


Elsa Osorio さんは (1993年から) 13年を過ごしたマドリッドからアルゼンチンへ帰国し、コレヒアレスに構えた新居に図書館 (あるいは書庫) を設置、アルゼンチンにとどまる予定とのこと。


以下、(インタビュー) に答えての発言


−−−(アルゼンチン国外での執筆活動はプラスに働いたか?) 勿論。クーデター後20年目である96年から執筆を始めたが、自分の中で恐怖感を抱いていた、最も難しい1976年と云う年を客観的に見ることが出来たから。


−−−(クーデターから30年経った今、暗い歴史が小説でも取り上げられることが多くなっているが、何が起こったのかを知ることの苦しみは和らぐものか?) 今なら、その歴史が我々自身のものであることを聞いたり認識することが出来ると思う。何故今まで知ろうとしなかったのか、などと私は誰にも決して言わない。今わかったならそれで構わない。思うに、フィクションは事実の後追いで現れるもので、証拠とはまた異なった能力を持ちます。フィクションは事実に基づいているにしろあくまで虚構であるが、その嘘の輪が読む人にとって真実であるがごとき効果を与えるのは興味深い。


−−−(貴女の小説の中では、何故善人も悪人も女性なのか?また、何故女性が主人公なのか?) 歴史に忠実であろうとするとそうなってしまう。(五月広場の)母親、祖母、いつも女性が闘ってきました。私はフェミニストではありませんが、女性のほうが勇気がある様に思えるから。


以前にも紹介しましたが、山岡朋子(横山朋子)さんがその翻訳書 『ルス、闇を照らす者』 の「訳者あとがき」 で、

    • −−−訳者はメキシコの田舎町で暮らしていた頃、市場の売り子たちと親しくなるにつれ、メキシコの女性や社会運動に関心を持つようになった。女性たちが勉強会を開き、現状を変えようとしている村を訪れたこともある −−−
    • 国も状況もちがいこそすれ、社会問題を正面から見据え、さまざまな階層の女性を描いたこの本は、是非とも訳してみたいと思った。 −−−


と書いておられたのを思い出しました。そう言われて改めて振り返って見ると、私が南米で暮らしていた時も、女性の方が仕事でも社会活動でも優秀で元気でしたね。私としては男性の肩も持ちたいのですが、何故なんだろう?

ドイツ:Deutsche Welle (TV・ラジオ局) サイト 2007年9月14日付け
Mirra Banchón 記者によるインタビュー記事より抜粋

http://www.dw-world.de/dw/article/0,,2783297,00.html


−−− Pero publiqué A veinte años, Luz y los hubo Fue una de las primeras novelas en tocar el tema de los niños robados a los opositores políticos. Y molestó a muchas gente. Esa salió en 1999 y duró en la Argentina una exhalación y desapareció. Volvió a ser publicada el año pasado. Pero también tengo muy buenas relaciones de la gente joven, que sí que quiere saber porque no se puede vivir ocultando. Creo que si no nos hacemos de nuestro pasado inmediato, es difícil que se pueda encarar el futuro.


¿Lo ve usted eso como tarea de un escritor?


La verdad es que sí. Me parece importante que la literatura dé cuenta de la historia. Pienso que es un arma de lucha, de recuperación de la memoria. −−−


−−−盗まれた子供について初めて扱った小説である 『ルス、闇を照らす者』 を1999年に出版した時アルゼンチン国内では不快感を抱いた人が多く、物議をかもした後に本が市場から消えてしまったが、2006年再出版された。しかし一方で、事実を知りたいと言う若い世代からは好意的な反応があった。隠し通せるものではないし、過去を認識せず未来と向き合うことは出来ないと考える。


歴史を認識させるのは文学の大事な役目であり、作家の務めと思う。小説は戦うための、また記憶を取り戻すための武器であるから。 −−−


この小説がアルゼンチン国内で不快感を与えたと云う点については、そう云えば思い当たるフシがあります。ただしアルゼンチンではなく、チリのこと。人権侵害でピノチェットが弾劾されましたが、明らかになりつつあった事実にもかかわらず、90年代に私が話を聞くことの出来た範囲内ですが、ピノチェットに好意的なチリの方が多い (と云うより全員がそうでした) のに驚いたことがありました。必ずしも人権が全てではなく、経済運営の評価ポイントも高かったせい? あるいは社会階層によってかなり温度差があるのかも。