老いた声

グレゴリオ聖歌にはネウマ譜というのがあって、さわりだけ勉強したことがある。もう全て忘れてしまった。
義太夫などでも備忘に近い記譜があるはずだがそちらはよく知らない。


グレゴリオ聖歌には東方を感じさせる響きがあって、当時流行していた音楽というのはどんなものだったかと連想する。
古代ローマ、イコノクラスム、イシス信仰。シチリア東方教会、まやかしの伝説として冒険者達を刺激した中国まで。
辺境に残る崩れかけた教会、描かれた丸い目の人々。

異質であるはずの新しく危険な宗教は、過去の体感としての神にその存在を揺らしていく。そこで官能と信仰は一体であり、それは等しく神への冒涜とされ激しく糾弾された。


失われた音というのがあって、躙り寄るような薄く深い闇がそれである。老女の声は常にその闇であり、私はおそらく何も得ることなく、その横でずっと眠り続けている。