『水滸伝(十九) 旌旗の章』

水滸伝 19 旌旗の章 (集英社文庫)

 完結。長かった……とは言いません。この十九巻、本当にあっという間でした。

 一冊読むごとに別の本を間に挟んでとやるのが面倒になって、十二巻から十九巻まではもう一気に読んじゃいました。でも、短い期間に八冊もの量を読んだという感覚はありませんし、シリーズを一気に読破したことによる疲れも感じていません。ライトノベルとは別の意味で、すごく読みやすいですね、北方さんの小説って。

 長い物語が終わったー、という感じもしません。ひとつの大きな戦いこそ終わりましたが、人と志は絶えることなく残っています。梁山泊の生き残りや子供たちがもう次の行動を起こしているという連続性を強く感じるので、シリーズ完結の余韻よりも、早く続きの展開を見たいという気持ちが大きく募りました。よ、楊令伝が文庫化されるのって何年後ですか!? ひー生殺し。

 誰が好き、というには魅力的なキャラクターが多すぎるんですけど、最後まで職人気質を貫いた轟天雷凌振さんなんかは、他の好漢たちとかっこよさの質が違って面白かったです。魏定国さんの名前を呼ぶシーンで、思わず変な声が漏れそうになりました。

 基本的にマッチョな価値観が幅を利かせてるので、この世界で弱い人間は受け入れられないのかもーと尻込みしてしまうこともないではないです。でも思い返してみると、志に命を賭ける漢たちを礼賛する一方で、そういった好漢像に当てはまらない人も意外なほど数多くいたような気がします。読んでるうちに北方さんのそういう面が見えてきて、ちょっと救われたような気分になりました。

 とにかく一年以上、定期的にこの作品に触れてきたので、一人ひとりのキャラクターへの愛着がけっこう付いてしまいました。こういう愛着は貴重だなあと思います。彼らはもともと古典説話の登場人物で、つまり神話みたいなものなので、これからも別の作品でちょくちょく名前を見かけたりできるのは嬉しいです。もちろんそこにいるのは北方さんの描いたキャラクターとはまた違うんですけど、なんとなく面影を感じたりしてしまうんだろうなと思います。ほんと、いい読書体験でした。