『ヒュレーの海』

ヒュレーの海 (ハヤカワ文庫JA)

 新発見の粒子的なやつでVR技術がめちゃくちゃ発達して現実そのものが物理層と論理層で構成されたネットワークみたいになってる未来、なんかのバグで情報強度が拡散して溢れた混沌の海に呑まれた地球圏は7体の超高度AIを核とする7つの国家によって再統合され、古代に打ち捨てられて堆積した巨大ソースコード遺産みたいになってるVR集合的無意識オーバーテクノロジーリバースエンジニアリングの対象となり、今日もなんか使えそうなデータがギルドによってサルベージされている……的な、以上の説明は作中の設定をだいぶ逸脱してイメージで固めた雑なやつですが、つまりなんかそういうイメージのやつです。

 現実と異なる技術体系を描き出すための根本的な土台として未知の粒子の存在を仮定しつつ、現代の情報技術あたりを中心としたアナロジーで世界設定を細かく構築しているタイプのSF作品、と私には読めました(分かるところだけ分かる状態で読んだからそういう理解になっただけで、ちゃんと読めばもっと色々あったりするのかもしれません)。その辺の分野の人にとっては比較的イメージしやすい世界設定で、ルビも割と素直に振ってあるなという感想だったのですが、前知識がなければ造語が乱舞する情報過多で衒学的な作品というふうに映るでしょう。前知識の有無で作品の性質は変わってきますが、根本的な面白さがどっちが上かはお好みによると思います。

 初出はなろう小説ということで広い意味のライトノベル的な文脈にも添っていて、徳間デュアル文庫あたりから出てそう感を醸してて嬉しさがあります。後半は世界の根源的なやつにアクセスして超常事象を発生させるタイプの能力バトルに比重が移り、SF的にはそこをどう解析して実装の穴をくぐり相手の裏をかいていくかという内容になるのですが、あんまり形而上的な話には行かず勝つか負けるかという単純な筋に落ち着くは良し悪しでしょうか。欲を言うと、最後の方でもう少し派手なSF的カタストロフなり大変革なりあってもよかったと思いますが、そこはないものねだりでしょうね。