北方謙三『岳飛伝(二)』

岳飛伝 2 飛流の章 (集英社文庫)
 ようやく聚義庁に集合し、揚令亡き後の梁山泊について語り合う面々。そのメンバーに初代水滸伝の一〇八星がもう数人しか残っていないことに気付き、彼らのほとんどが死んでしまったのだと改めて思い知らされました。物語当初から作中でも数十年が経過していますけど、現実の時間も十年近く経ってるんですね……。

 血気盛んな若者だった史進は最古参の老兵となり、陰のある美青年といった造形だった燕青も今や仙人のような存在。最初は武人の心の分からない頭でっかちとして描かれていた呉先生も、初代梁山泊の陥落と共に顔を毀され、方臘の乱を生き延びて……と、文人としては相当に凄絶な人生を歩んできたせいで、もはや文武を超越した存在感を放つ妖怪のような長老となりました。呉用は有能ではあってもどこか凡庸な人間性を残した人として描かれてきたと思うので、その彼がある意味では凡庸なところを残したままここまで凄みのある存在になったのは、なんとも感慨深いものがあります。

 ここから先、梁山泊はいつその存在が消滅するか分からないし、枠組みそのものも変容して、頭領を頂点とする命令系統だったものから、各々の意思で動く同志たちの活動を支援するための兵站や資金といったものに変わってくるのかもしれません。どこで聞いた話かは忘れましたが、国の在り方を描く揚令伝に対して、この岳飛伝はたしかに生き残った人や死んだ人に決着をつけていく話になっていくようですね。