Hatena::ブログ(Diary)

魔王14歳の幸福な電波 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter


魔王14歳の幸福な電波 この日記をアンテナに追加 http://d.hatena.ne.jp/Erlkonig/rss






サイト説明

2017-04-23

『岳飛伝(三)』

岳飛伝 三 嘶鳴の章 (集英社文庫)

 岳飛伝というタイトルを見たときはどういうことになるんだろうと思いましたけど、いちおう今のところは梁山泊比重を置いた話が進んでますね。ただ梁山泊人間が岳家軍など別勢力に片足を突っ込んだり、交流を持ったりもしていて、国のかたちが少しずつ柔らかくなっていく気配が見えます。これが単なる人材流出なのか、国の枠を越えて広がっていく梁山泊の姿なのかは、続刊を待てという感じでしょうか。

 本人視点だと悩んでばかりの内向的人物に見えるのに、他人の目から見ると気力が充溢していてただ者ではない、という描写になっている宣凱が面白いです(あのシーンの直前で吹っ切れて気配が変わった、という描写可能性もありますが)。褚律のことはあんまり印象になかったんですが、ここに来て焦点が当たってきたのを見て、結構味わいのあるキャラだなと再認識しました((「婁中の火」っていうタイトル師匠名前の婁敏中からとられてるのが良い)。

 あと名前ありのキャラでここまで小物なのも珍しいという意味で、褚律に半殺しにされてた柴健のことが気になりました。あからさまに小物なやられ役なんだけど、単なる小物が受けるにはあまりにも過大な責め苦を今回負わされてたので、これを切っ掛けに妙な味わいのあるキャラに化ける、ということも北方さんならやりかねない気がします。まあそういう普通に小物らしくあっさり死ぬのかもしれませんが……。

 心に傷を負った方臘兵の生き残りが、いまだに忘れられることなくひょこり出てくるのが、何かいいです。梁山泊の中でも孤立しがちな彼らと話すときの秦容の態度は「相手の言いたいことを根気強くじっくり聞く」というもので、まあ普通といえば普通の話ですが、やたら直感が強くて一を言うだけで十まで心で通じ合うみたいな連中がたくさん出てくる中、コミュニケーションコストの高い人間にしっかり付き合ってくれる人がいると安心できますね。ここで甘蔗の育て方をぼそぼそ話してる場面、地味ですが何か好きなシーンです。

2017-04-16

木多康昭『喧嘩稼業(1)〜(3)』 死なないでくれ石橋

喧嘩稼業(1) (ヤングマガジンコミックス)

 じゅ、10年ぶりに木多康昭に手を出してしまった……。

 前々からTLの悪い人たち(エクスカリバーの顔をしたミステリ作家や犬の紳士*1など)の推しの高まりは感じていたものの、「これ以上木多康昭に毒されるのは嫌だ……」とか言って抵抗していたのですが、お餅氏の鶴の一声で遂に購入の流れ。前シリーズ喧嘩商売』のはまだ読めてないんですが、とりあえず『稼業』の方からから。読み始めました。『商売』は本格的な格闘漫画になるまで少し時間がかかるので『稼業から入るのもよい、というアドバイスに従ったかたちです。

「ただでさえ喧嘩が強くて頭もキレる上に金的や反則金的下剤等どんな卑怯な手を使ってでも敵に勝とうとする幕張塩田みたいな主人公(最悪)」という前知識はあったので、前作未読という意味では特に問題なく読めました。主人公のっけから本当に躊躇なく弱パンチみたいなノリで金的・目潰し・後遺症の残る傷害などを繰り出すのは刺激が強くて「もう少し手心を……」とか思いましたが……。

 割合としては完全に格闘漫画で、ところどころに『幕張』的なギャグが挟まってくる程度なのですが、テンポとか雰囲気はびっくりするくらい『幕張』の頃のものを残していて、こんなに独特な空気感のある作家だったんだなと今更ながらに思い知らされました。『泣くようぐいす』の頃からストーリー漫画がやりたいんだな」というのはよく伝わってきていたので、木多先生がこうやって大手を振ってストーリーものを描けるようになって良かったという気持ちはあります

 それはそうとして、主人公十兵衛の性格が本当に最悪な上にハイスペックで、「十兵衛の喧嘩のフィールドがインターネットじゃなくて格闘技で本当に良かった……こいつがインターネットで暴れていたら様々なものを巻き込んで大惨事が生まれていた……」って思いましたよね。ブロガー喧嘩商売(最悪)。

*1:「石橋強好きそう」って言われて「なんでやねん!」「石橋強固すぎる! 早く死んでくれ石橋強!」とか言いながら読んでたんですが、闘いが終わってみると「石橋死なないでくれ……」としか言わなくなっていたのでメチャクチャ面白いという話を下僕としましたね。

2017-04-09

北方謙三『岳飛伝(二)』

岳飛伝 2 飛流の章 (集英社文庫)

 ようやく聚義庁に集合し、揚令亡き後の梁山泊について語り合う面々。そのメンバーに初代水滸伝の一〇八星がもう数人しか残っていないことに気付き、彼らのほとんどが死んでしまったのだと改めて思い知らされました。物語当初から作中でも数十年が経過していますけど、現実時間も十年近く経ってるんですね……。

 血気盛んな若者だった史進は最古参の老兵となり、陰のある美青年といった造形だった燕青も今や仙人のような存在最初武人の心の分からない頭でっかちとして描かれていた呉先生も、初代梁山泊の陥落と共に顔を毀され、方臘の乱を生き延びて……と、文人としては相当に凄絶な人生を歩んできたせいで、もはや文武を超越した存在感を放つ妖怪のような長老となりました。呉用は有能ではあってもどこか凡庸人間性を残した人として描かれてきたと思うので、その彼がある意味では凡庸なところを残したままここまで凄みのある存在になったのは、なんとも感慨深いものがあります。

 ここから先、梁山泊はいつその存在消滅するか分からないし、枠組みそのものも変容して、頭領を頂点とする命令系統だったものから、各々の意思で動く同志たちの活動支援するための兵站資金といったものに変わってくるのかもしれません。どこで聞いた話かは忘れましたが、国の在り方を描く揚令伝に対して、この岳飛伝はたしかに生き残った人や死んだ人に決着をつけていく話になっていくようですね。

2017-04-01

白石晃士『カルト』『オカルト』

 遂に白石ホラーをキメてしまった……。私の観測方面Twitter大人気だったので前々から気になってた『カルト』を観てみたらメチャクチャ面白かったので、続けて同監督作品オカルト』を観たらまたまたメチャクチャ面白かった、という塩梅です。こういう、バカホラー映画って言うんですかね、ちょっとジャンルのもの認識していなかったのですが、いざ触れてみるとすっごい肌に合いました。ただそもそもホラーが苦手なのと映像酔いに弱いのとで、けっこうな苦しみながらの視聴でもありましたが……怖さと酔いを押してでも、白石監督作品もっと観ていきたいとう気持ちです。


カルト

 芸能人実名役で出演させつつ怪奇現象を実録で追いかけていくモキュメンタリーなんですが、あまりにも嘘くさい霊能者、本当にこんな映像撮れてたら大騒ぎだしそもそも安CGなので明らかに嘘っぽい心霊映像など、大嘘を大真面目な記録映像として残していくノリをゲラゲラ笑いながら観てました。完全に与太なんですが、フィクション的なスマートさやリアリティから外れた「うさんくささ」ががあるからこそ、逆に「現実だといかにもこんな感じになりそう」とも思える霊能力者や不合理な心霊現象がなかなか面白かったです。そうやって「うさんくさいちょっと現実的なしょっぱさすら感じる」雰囲気を作り上げた上で、さらにもう一度、完全にフィクション世界の住人である霊能者ネオを突っ込んでくるこの展開……。うーん与太、という感じで大変よいものでした。


オカルト

オカルト [DVD]

オカルト [DVD]

 通り魔殺人事件とその被害者神秘体験を追うモキュメンタリー通り魔事件というのがそもそも架空のものだし、大事なところでクトゥルフネタが出てくるなどフィクションであることは明らかなのですが、やっぱり実録ものとして本当にそれっぽく撮られているのが面白い取材対象の江野くんがあまりにも「本当にいそうなぱっとしない人」なのが生々しくて生々しくて、言動は完全にヤバい人なのにどんどん親近感が湧いてしまいました。

 これも基本的バカホラーとして楽しめるものだと思うのですが、私はけっこう江野くんに当てられてしまったというか、ホラー的にもちょっと参ってしまいました。露骨な嘘っぱちのものとして作られているのが分かってるからこそ「怖くても所詮フィクションでしょ」という言い訳が利かないというか、作り物の中に一抹の事実が含まれてたみたいな穴がありそうなので怖い。下僕もお風呂トイレを怖がるようになって「ある日いきなり頭の中に声が聞こえたら怖くないです?」とか言い出すし(それは私の声です)、なんかよく分かりませんが、我々こんなことで『コワすぎ!』観られるのかと不安になりましたね(でも絶対面白いので観ます)。

2017-03-29

『ヒュレーの海』

ヒュレーの海 (ハヤカワ文庫JA)

 新発見の粒子的なやつでVR技術がめちゃくちゃ発達して現実そのもの物理層論理層で構成されたネットワークみたいになってる未来、なんかのバグ情報強度が拡散して溢れた混沌の海に呑まれた地球圏は7体の超高度AIを核とする7つの国家によって再統合され、古代に打ち捨てられて堆積した巨大ソースコード遺産みたいになってるVR集合的無意識オーバーテクノロジーリバースエンジニアリング対象となり、今日もなんか使えそうなデータギルドによってサルベージされている……的な、以上の説明は作中の設定をだいぶ逸脱してイメージで固めた雑なやつですが、つまりなんかそういうイメージのやつです。

 現実と異なる技術体系を描き出すための根本的な土台として未知の粒子の存在仮定しつつ、現代情報技術あたりを中心としたアナロジー世界設定を細かく構築しているタイプのSF作品、と私には読めました(分かるところだけ分かる状態で読んだからそういう理解になっただけで、ちゃんと読めばもっと色々あったりするのかもしれません)。その辺の分野の人にとっては比較イメージしやすい世界設定で、ルビも割と素直に振ってあるなという感想だったのですが、前知識がなければ造語が乱舞する情報過多で衒学的な作品というふうに映るでしょう。前知識の有無で作品性質は変わってきますが、根本的な面白さがどっちが上かはお好みによると思います。

 初出はなろう小説ということで広い意味ライトノベル的な文脈にも添っていて、徳間デュアル文庫あたりから出てそう感を醸してて嬉しさがあります。後半は世界の根源的なやつにアクセスして超常事象を発生させるタイプの能力バトルに比重が移り、SF的にはそこをどう解析して実装の穴をくぐり相手の裏をかいていくかという内容になるのですが、あんまり形而上的な話には行かず勝つか負けるかという単純な筋に落ち着くは良し悪しでしょうか。欲を言うと、最後の方でもう少し派手なSFカタストロフなり大変革なりあってもよかったと思いますが、そこはないものねだりでしょうね。


∇コメント欄は常時開放中ですが、ネタばれにはご配慮ください。
パシリ家来のからすとうさぎが窓口をしています。何かご用があれば彼までどうぞ。メッセンジャーの登録なども歓迎します。