企業法務戦士の雑感 このページをアンテナに追加 RSSフィード

この日記のはてなブックマーク数

2005-12-04

[][] ジュリスト2005年12月1日号

今号の特集は、「犯罪被害者のための施策の総合的検討」。


最近の動きに関しては、新聞で見かける程度の知識しかないのだが、

以前、平成12年から13年にかけて犯罪被害者保護の機運が盛り上がっていた時に、

顧問弁護士に頼まれて、支援団体の立ち上げに関わったこともあり、

いろいろと印象深いテーマでもある。


記事の中でも出てきているように、

現在の刑事事件をめぐる手続に「被害者」をどう組み込んでいくか、

という問題は理論的、実務的にも相当の難問であるし、

そこに感情的な「世論」が絡むと、

なおさら制度設計が難しくなるように思われる。


最近のメディアには、

犯罪者=救いようがない極悪人、被害者=善良でいたいけな市民、

という構図を意図的に作り出そうとする風潮が強い。

だが、極端な事例だけに寄りかかって、

性急な“改革”を進めることで、失われるものもまた多いのではないだろうか。


犯罪者を散々バッシングしたあげく、

社会的制裁に加えて、損害回復のための経済的制裁まで加えることで*1

犯罪被害者を少なからず救済しうるとしても、

今度は、犯罪者自身、そしてその家族を路頭に迷わすことにならないか

(さらに、彼らを社会的に抹殺することにならないか)*2

冷静に思考をめぐらす必要があるように思われる。


また、犯罪被害者を一番傷つけているのは、

事件の直後、嵐のように殺到して好き勝手な報道を垂れ流し、

時が経つと、何事もなかったかのように“見捨てる”

現在のマスコミの報道姿勢であるようにも思われる*3


その辺りも含めた対策を打ってはじめて、

真の「犯罪被害者対策」になるというべきだろう。


時の判例*4

広島地検での接見拒否処分をめぐって争われた国家賠償請求訴訟の上告審判決が、

「時の判例」で取り上げられている。


事案に興味があったので、最高裁ウェブサイトで全文にあたってみたが*5

接見拒否処分の違法性を否定しつつ、

検察官の弁護人に対する配慮義務違反の違法性を認めた上で、

最終的に検察官の過失を否定する、という二転三転する構成で、

いまいち腑に落ちないものを感じる。


特に、接見拒否処分の違法性を否定した

検察庁の庁舎内において,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等が存在しない場合には,上記の申出を拒否したとしても,これを違法ということはできない。そして,上記の設備のある部屋等とは,接見室等の接見のための専用の設備がある部屋に限られるものではないが,その本来の用途,設備内容等からみて,接見の申出を受けた検察官が,その部屋等を接見のためにも用い得ることを容易に想到することができ,また,その部屋等を接見のために用いても,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの問題が生じないことを容易に判断し得るような部屋等でなければならないものというべきである。

のあたりの判旨は、

実務的には妥当な結論だとしても、

「弁護人依頼権の実質的保障」という接見交通権の趣旨(建前論)を重視する

通説的な立場からは、あまりに実務的要請に配慮し“すぎた”もの、という

批判を免れえないだろう。


「配慮義務違反」を認定した部分は、

あくまで「事例判断」の域を出るものではないように思われ*6

本判決の判旨として残されるのは、上の部分だけとなる可能性が高い。

となれば、最高裁は、一見原告側に花を持たせたように見せかけつつ、

結局のところ、ゼロ回答を示したに過ぎないことになる。


それまでの実際の運用として、

「検察庁庁舎内での接見を認めていなかった」

(そしてそれが多くの弁護士にも受け入れられていた)

という実態があったことから、過失を否定した結論は肯定しうるとしても、

その前段の説示については、今後いろいろと論争を呼ぶことになるように思われる*7


商事判例研究*8

潮海助教授による東京地裁平成14年7月17日判決の評釈。

「補整用ブラジャー特許事件」というなかなか笑える事件名で知られるこの判決。

冒認移転登録に関し、特許登録後の移転登録請求を認容した(!)

平成13年最高裁判決から間もない時期に出され、

かつ地裁自身、最高裁判決の射程を意識した判示を行っていたこともあって、

当時はかなり話題になった事件である。


潮海教授も指摘されるように*9

裁判所の判断権限が拡大して、今や「何でもあり」的な状況になっている現在、

「本件は、私人間の権利変動ではなく、真の発明者が誰かという正に特許庁の専門分野に属する事項が争点とされている事案であって・・・」

というくだりは、裁判所特許庁の領域に踏み込むことに極めて謙抑的だった時代の

名残のようにも思える。


ただ、発明者が提出してくる“発明のあらすじ”と、

特許クレームが似て非なるものであるのもまた事実だから*10

単に「発明者だから」という理由で、安易に移転登録を認めるべきではないという

考え方も十分説得的であろう。


当時は、やや違和感を感じた判決だったが、

今改めて見ると、理由付けはともかく、結論自体はやはり妥当だと思われる。

労働判例研究*11

この手の判決にはあまりコメントしたくないのだが・・・(笑)。


今後は、嫌煙側の請求認容判決が増えていくだろうし、

使用者側に一定の配慮義務を認める必要自体は否定しないが、

本件(そしてこれに限らず)の事実関係を見ていると、

「ここまでするか・・・」という感情を抱かざるをえない。


ちなみに、本件では「受動喫煙による急性障害」という診断書が、

使用者側の義務違反を肯定する“決め手”となっているように思われるが、

これまでの経験から、この手の「診断書」は、

“患者”が要望を出せば“簡単に”書いてもらえるものだ、ということを

身に染みて知っているだけに、なおさら腑に落ちない*12


なお、今号の「探究・労働法の現代的課題」は、

「職務発明と労働法」という大きなテーマを取り扱っているため、

別の機会にコメントすることにする*13

*1:佐伯仁志「犯罪被害者への被害回復支援について」ジュリスト1302号44頁以下(2005年)では、被害者支援の財源の問題について、様々な制度論が展開されている。

*2:犯罪者自身については「自業自得」という指摘が少なからずあてはまるとしても、その家族まで犯罪者と同視して良いか、ということについては少なからず疑問がある。仮に、米国のような「損害賠償命令制度」が導入され、支払能力を超えた懲罰的な賠償責任を負わされるような事態になれば、真摯に罪を償おうとする者ほど制裁の重さに苦しみ続けなければならなくなる、という制度目的に反する事態も生じうるように思われるのである。

*3:ワイドショーで散々興味本位に事件を煽っておいて、ニュース番組の一コーナーで犯罪被害者対策の「無策」を指弾するというのは、そもそも矛盾した態度というべきだろう。

*4:森義之「最三小判平成17年4月19日」ジュリスト1302号151頁(2005年)

*5http://courtdomino2.courts.go.jp/schanrei.nsf/eaebca4d2fe8433049256a230048da87/5e42971d1f81bfe14925707b00269d1b?OpenDocument

*6:しかもこの説示による限り、弁護人の「意向」を確認しさえすれば、「配慮義務違反なし」とされる余地もあるように思われる。

*7:このあたり、森調査官は淡々と解説しているのであるが・・・。

*8:潮海久雄「冒認出願により登録された特許権に対する移転登録手続請求」ジュリスト1302号164頁(2005年)

*9:潮海・前掲167頁

*10:補正による「変化」もさることながら、出願時にクレーム化された時点で既に異質のものになってしまっているのが実情である。

*11:小畑史子「受動喫煙に関する使用者の安全配慮義務」ジュリスト1302号168頁

*12:例えば店舗スタッフが客とトラブルになって腕を強くつかまれた場合(かつ代金も払わずに立ち去ったような場合)に、そのスタッフを病院に連れて行くと、すぐに「上腕部挫傷全治5日間」の診断書を書いてもらえる、というのが実態である。

*13土田道夫=横山久芳=松岡政博「職務発明と労働法ジュリスト1302号96頁以下(2005年)

カスタム検索