企業法務戦士の雑感 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2005-12-08

[] 『企業法務と法曹の2007年問題*1について

先日のエントリーでも少し触れたのだが(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20051205/1133712876)、

NBLに掲載された久保利先生の気迫あふれる“檄”に対して、ひとこと述べたいと思う。


筆者が、本コラムに対し「一企業法務担当者としては複雑な感情である」という思いを抱いているというのは、既に書いたとおりだが、残念ながら、久保利先生の「企業法務の現状分析」自体に誤りはない。


「3.法務費用を惜しむなかれ」の章で述べられている、法務「部」を設けている企業数、企業内弁護士弁護士費用のデータ、


そして、

弁護士や法務博士に対する企業法務の採用計画はまったく白紙の状態である。


というデータは、経営法友会の中間報告をベースにしたもの、として紹介されているし、自分の知る限り、法務「部」どころか、専属の法務担当者さえ満足においていない会社は結構多く、ましてや、企業法務の担当者として専門家をとる、という発想を持っている会社はほとんど皆無に近い、といって良い。


「4.弁護士費用が総会屋への利益供与より低い会社が大半である」のくだりは、“同じだったら、総会屋と手を切った意味がないじゃないか・・・!”という突っ込みを思わずしたくなるところではあるが、企業が十分に法律の専門家を活用しきれていない、というのもまた真実である。


企業にとっては、あくまで、「金を稼ぐところ」「組織を管理・運営するところ」そして、「経営を司るところ」にいかにヒトと金をつぎこむか、ということに頭が一杯なのであって、一流大学の法学部を出たような優秀な人間を「法務部」などという、人の揚げ足取りをするような部署に配置するのは、人事戦略上好ましくない、という発想に行き着くのが自然である。


今でこそ、一時の“コンプライアンスブーム”で、法務部が比較的人気部署になっており、それなりの人間が集められるようにはなっているが、ブームが去れば、やがて、法務スタッフの多くは、ひと時の“宿”を去り、営業や人事、経営企画といった“エリートコース”に戻されていくだろう。


そして、人材を配置する側の意識が上のようなものであれば、配置される側のモチベーションも上がるはずがなく、仕事の後や週末になれば、自分の仕事の知識・技能の取得に務めるよりも、ゴルフや宴席に精を出すというインセンティブが働くようになってしまう。


そのような多くの“企業人”の意識こそが、「企業法務」というセクションを“アマチュアの社交場”に留める元凶なのである。


だから、企業法務というフィールドで少しでも“プロフェッショナル”としての道を追求しようとしている一部の人間にとっては、「企業法務の現状(惨状)」を正面から指摘して、改善を説く声は、本来まさに「天の声」ともいうべきものである。


だが、本コラムにおいて、久保利先生の“檄”は、そのような(一部の)法務担当者の思いには向けられていないように思われる。


久保利先生の論調は、

1.「今の時代、企業法務を充実させないと企業は生き残れない」

       ↓ but

2.「多くの法曹が輩出される時代なのに、企業は採用計画もまともに立てていない」

       ↓

3.「これは企業側に企業法務を充実させようとする意欲がないことの現れである」

       ↓       

4.「そんなことではいかん」

という流れになっている。       


その後までは書かれていないが、これが、「法曹と法務博士をどんどん法務部に採用せよ」というアピールであることは明白であろう。

そして、上記の論理の裏には、現在の法務部の現状→無資格者の巣窟→充実していない、という前提が明確に存在しているように思われる。


確かに、一部の企業内弁護士を除いて、企業の法務担当者は“アマチュア”に過ぎない。

どんなに、プロとしての気構えを持っていても、無資格者であることに変わりはない。


だが、それをもって、「充実していない」と結論付けられるのは、現役法務担当者としては、納得しがたいものがある。


「企業法務」というセクションを“アマチュア”たらしめているのは、先に述べたような、多くの“企業人”の「意識」であって、決して、法務部員の「知識や技能の乏しさ」、ではない、と自分は思っている。


だとすれば、まず法曹界の方が行うべきは、そのような“企業人”の意識の「変革」であって、「法曹の採用を企業に迫ること」ではないはずだ。


久保利先生ほどのお方になれば、企業のトップに対する影響力も大きい。


そんな先生が、「法務部門に大きな権限を与える意義」、「法務部門に経営に積極的に関与させる意義」、そして、「法務部門に優秀な人材を集め、徹底的かつ継続的な教育を施すことの意義」を粘り強く説いていけば、“企業人”の意識も少しずつ変わっていくかもしれない。


そうすれば、「弁護士の大量採用」などを声高に叫ばなくても、自ずから企業は合理的な戦略として、専門家の採用に走るだろう。


久保利先生が、「法化社会」という概念を主張し、様々な場面で“意識変革”を求めてこられた方であることは自分も重々承知している。


だが、現在に至っても、多くの企業では、そのような“意識変革”は完遂されていない。

法務部の担当者の意識は多少なりとも変わってきているが、現在多くの企業を動かしている根っこの部門(特に人事部門)にそのような“変革”が浸透していかない限り、究極的な部分では、企業はなんら変わらない。


そのような段階で、「弁護士の大量採用」を叫ぶのは、結論を先取りしすぎた議論であり、相当な論理的飛躍がある*2


この論調による限り、自ら「私は法務部の味方である」と宣言されている久保利先生のせっかくのエールも、大宮法科大学院の教え子の一種の救済(押し込み?)策なのではないか、と勘ぐられることになりかねない。


また、仮に、企業のトップなり人事部門の人間が、「大量採用」に踏み切ったとしても、「大量採用」することの意義が浸透しているとはいえない今の状況では、見事なまでの「捨て石」になるおそれが強い。


今の状況で「大量採用」がなされたとしても、「企業法務部門」という受け皿のパイが急激に拡大することは見込めないから、それは結局、企業内の人材発掘・育成コストを削減するために、「大量採用」によって、“血を入れ替える”ものに過ぎない。


そのような環境に法曹や法務博士が受け入れられたとしても、その中で、実益のある有機的な活動を続けていくのは難しいように思われるのである。


だとすれば、せっかく培った知識や技能や法律家としての精神を発揮することなく、組織に埋もれていくことになる可能性が高い。


それは、今、意欲を持って法務部に飛び込んでくる法学部出身者の多くが、味わっているのと同じ挫折を味わうということでもある。


現役法曹や、法曹を目指す人々の間で、危機感を持ってささやかれている「2007年問題」は、現役法務担当者にとっての「2007年問題」でもある。


先日紹介した、「飛び出した側」の先輩は、辞めた理由のひとつとして、

「ポッと出の法科大学院卒に、積み重ねてきた自分のキャリアを奪われるのは悔しいから」

というのを挙げていた。


自分自身、あと2年先に迫った「2007年危機」に戦々恐々としている立場の人間である。

危機が訪れ、席を奪われれば、自分には、“プロフェッショナル”としての道を捨てるか、真の資格者としての“プロフェッショナル”になるために、新たな天地を求めて、会社を飛び出すしか道はなくなるだろう*3


だが、これから法曹になる人々、あるいは法曹の夢破れても“プロフェッショナル”を目指そうとする人々と、小さなパイの醜い奪い合いをしたいとは思わない。


時に、“経営の暴走”を食い止める“社会の安全弁”として、時に、法の限界まで突っ込んで、“企業活動のポテンシャル”を最大限に発揮させるクールな戦略家として、企業法務部門が果たすべき役割は大きいし、意欲のある人々が、そこに集うようになることは決して悪いことではない*4


だからこそ、自分は、ここ数年、小さなパイを少しでも増やすべく、法務戦士として、身をもって戦ってきたつもりである。


だが、所詮は一企業の一介のサラリーマンに過ぎない自分に動かせるのは、(仮にそれが叶ったとしても)自分の会社の人事部門だけであり、それによって膨らむパイは、片手の指にも満たないだろう。


だから今、願わくば法曹界の方々には、「企業法務」の社会的使命を世の中に訴えることに、徹底的に力を注いでいただきたい。

そして、“プロフェッショナル”としての覚悟と気概を持って、法務部門を支えている人間が、少なからずいることをもっと×2伝えてほしい。


弁護士の大量採用」などといった即物的な訴えかけをするのは、その後でいいだろう。


これが、今の自分の率直な感想である。

*1:久保利英明・NBL822号1頁(2005年)

*2:本コラムで言えば、4.と5.の間に大きな飛躍があるように思われる。

*3:それは、自らリスクをとらなかった結果として、甘んじて受けなければならないものなのかもしれない。だが、大学院の2年間よりも、目の前の仕事に情熱を注ぐことを優先した多くの法務部員にとって、そのような結論は酷なもののようにも思われる。

*4:真摯に法曹を目指した人々に、“ふさわしい”活躍の場を与えるのは、今、六法を抱えて働いているすべての人々にとっての使命でもある、と自分は思っている。

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