企業法務戦士の雑感 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2005-12-20

[][] 大阪地裁平成17年12月8日判決(その1)

最近、自分で最高裁ウェブサイトを見に行く暇がなく、

もっぱら最新の裁判例の情報を他の方のブログに頼っている状況である。


ここで紹介する2件の判決も、

元々大塚先生のブログhttp://ootsuka.livedoor.biz/)で

ご紹介のあったものであるが、

実務的に非常に興味深い事案なので、取り上げることにしたい*1

奇しくも、いずれも平成17年12月8日に同じ大阪地裁で出された判決である。


 写真著作権侵害事件*2

(関連リンク:http://ootsuka.livedoor.biz/archives/50243943.html


本件は、商業写真家である原告のデュープポジを、

被告側(JALブランドとその代理店であるアイ・ピー・エス)が

「写真受委託契約」の合意解除後も使用したために、

写真の著作権侵害が問題となった。


ここで、原告との契約当事者であった「JALブランド」と

契約解除を知りつつポジを使用した「アイ・ピー・エス」が責任を負うことに

疑いの余地はなく、現に、「JALブランド」は本案で損害額しか争っていない*3


むしろ、実務的には、

自己の商品のパンフレットに問題の写真を掲載してしまった「被告ドトール」に、

著作権侵害責任が認められるか(具体的には過失の有無)が大問題であった。


企業がパンフレットを製作する場合、

コンセプトの指示はしても、どのような素材を用いるかは、

「製作会社にお任せ」するのが普通であり、

明らかに「他人の著作物」(例えばディズニーのキャラクターなど(笑))と

分かる場合でない限り、

素材となっているものの権利関係にまで踏み込んで吟味することはない、

といって良い*4


本件では、運悪く、アイ・ピー・エスから

パンフレット製作会社に本件写真が貸与されてしまったために、

結果として、パンフレットの発行頒布主体であるドトールまでもが、

著作権侵害事案に巻き込まれることになってしまった。


クライアントに迷惑をかけない」ということが至上命題となっている

パンフレット製作会社(広告代理店でも同じ)としては「大失態」であり、

担当者のクビが飛んでもおかしくないところである。


もっとも、本件判決の結論としては、

ドトールは救われた形となった。

 被告ドトールは、コーヒーの焙煎加工及び販売その他を目的とする株式会社であり、宣伝広告の広告主となることはあっても、自ら広告を制作することを業とする会社ではない。

 このような会社が、少なくとも、顧客として、パンフレット製作会社にパンフレットの製作を依頼して、完成したパンフレットの納入を受けてこれを頒布するにあたっては、そのパンフレットに使用された写真について、別に著作権者が存在し、使用についてその許諾が得られていないことを知っているか、又は知り得べき特別の事情がある場合はともかく、その写真の使用に当たって別途著作権者の許諾が必要であれば、パンフレット製作会社からその旨指摘されるであろうことを信頼することが許され、逐一、その写真の使用のために別途第三者の許諾が必要か否かをパンフレット製作会社に対して確認し、あるいは、自らこれを調査するまでの注意義務を負うものではないと解すべきである。

 なぜならば、一般に、パンフレット製作会社がパンフレットの製作にあたって使用した写真が、誰の撮影に係るものであるか、顧客には直ちに知り得ないものであり、その著作権についても、当該撮影者が有していたり、第三者に譲渡されていたり、あるいは既に消滅していたりと、様々な状況があり得るのであって、これも顧客には直ちに知り得ないものであるからである。

 したがって、特段の事情のない限り、顧客としては、パンフレットに使用される写真の著作権については、パンフレット製作会社において適切な対応がされていると信じ、その写真を使用することが他者の著作権を侵害するものではないものと考えたとしても、注意義務に違反するものとはいえない。

 本件についてこれをみるに、同被告が、本件使用2に際して、本件写真について、著作権者が存在し、その許諾を得ていないことを知っていたことを認めるに足りる証拠はなく、また、そのような事実を知り得べきであったという特別の事情が存在したことを認めるに足りる証拠もない。

 以上に照らせば、同被告には注意義務違反は認めることができず、したがって、本件使用2による原告の著作権(複製権)侵害について、同被告に過失を認めることはできない。

得てして、こういう“もらい事故”の場合、

“被害”を受けた被告は、製作会社側に弁護士を立てさせたり、

訴訟費用を負担させたりして、コスト面でのリスクを回避することになる*5


だが、そのようなリスクヘッジはあくまで内部関係の問題に過ぎず、

被告として訴訟に敗れれば、「侵害者」としての汚名は残ることになる。


上記判旨は、クライアント側にとってみれば、

「注意義務」の内容について“至極穏当”な判断を下したものといえようが、

レピュテーションリスクを免れたドトールと、

クライアントに汚名を着せる」という最悪の事態を免れた製作会社にとっては、

願ってもない“福音”になったものと思われる。


なお、財産的損害の認定についても、

「写真使用にあたっての慣行」について、興味深い認定がなされているが、

ここでは割愛する。

*1:大塚先生、いつもありがとうございます。

*2大阪地判平成17年12月8日・http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/caa027de696a3bd349256795007fb825/68cc456c8440bc20492570d50009a2cc?OpenDocument

*3:本案前の主張として、裁判管轄についても争われているが、正直言って“悪あがき”のようにしか見えない。

*4:一応、どこから入手した写真なのか、ということくらいは気にするだろうが、製作会社が「かくかくしかじかの業者から・・・」と言えば、それで安心してしまうのが常である。

*5:製作委託契約にその旨の条項を入れることもあれば、何ら条項がなくても“パワーバランス”で必然的にそういう帰結にいたることもある。もっとも製作会社にそれだけの資力と能力があれば、の話だが。

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