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2005-12-22

[][] 『本当にあったHな話』

今年も暮れる時期になって、

知財学界史上に残るような爆笑判決が出た(笑)。


題して「本当にあったHな話」商標侵害事件*1

れっきとした東京地裁民事第29部(清水節裁判長)の判決である。


事案の概要は至って単純であり、

「本当にあったHな話」という登録商標(第4703152号)の権利者である

原告(株式会社ぶんか社)が、

類似のキャッチフレーズを使用していた被告(株式会社竹書房)を

商標権侵害で提訴したというものである。


原告・被告ともに出版社であり、

両者が発行している雑誌は、コンビニの片隅の特殊なコーナー(笑)に

置かれている*2


被告は、原告の発行する雑誌と同種の雑誌(「まんが快援隊」)の表紙に、

次のようなキャッチフレーズ(標章)を付した。

  1. 「本当にあったHな話がてんこ盛り!」
  2. 「実際にあったエロ話がてんこ盛り!」
  3. 「本当に出会ったH(エッチ)な話」

本件訴訟における争点は、

原告商標と、上記キャッチフレーズの類否にあったのだが、

この点に関する裁判所の判示はなかなか秀逸である。


まず、標章1「本当にあったHな話がてんこ盛り!」については、

外観、称呼が類似することを認定した上で、

観念の類否について以下のように述べる。

ウ 観念

 「Hな」とは,「性に関する言動が露骨な」,「性的にいやらしい」という意味を有する語であり,「てんこ盛り」とは,「食器に食物(特に飯)をうず高く盛ること」,「山盛り」という意味を有する語であることが明らかである。

 したがって,本件商標からは,「本当にあった性的にいやらしい話」といった観念を生じ,被告標章1からは,「本当にあった性的にいやらしい話が非常に多くある」といった観念を生じる。

 本件商標と被告標章1の観念を比較すると,被告標章1から生じる観念は,本件商標から生じる観念を含み,それに量の観念が付加されているにすぎないから,本件商標と被告標章1とは,観念が類似するというべきである。

被告側は、

「(実話系コミック誌の)需要者は、多数ある本案系雑誌を混同することなく個々に題号を識別して商品(雑誌)の選択をしているという実情」

を主張して、出所の混同が生じないため、両者の類似性を否定すべき、としたが、

裁判所は、

 証拠(甲3の1・2,甲4の1の1・2,甲4の2の1・2,甲4の3の1・2,甲4の4の1・2,甲4の5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,原告雑誌及び本件雑誌1は,いずれも成人男性向け漫画雑誌であり,成人男性を需要者とするという実情があるものと認められるが,成人男性であれば,「がてんこ盛り」というわずかな付加的記載の有無によって,本件商標と被告標章1とを識別し,両者を混同することがないものと認めるべき合理的理由はないから,被告の上記主張を採用することはできない。

 また,被告は,原告雑誌や本件雑誌1と同趣旨で発行されている本案系雑誌は,いずれも表紙の視覚的構成が近似しており,需要者は混同することなく題号を識別して商品の選択をしているという実情があると主張する。

 しかし,表紙の視覚的構成が近似する雑誌がある中で,需要者が混同することなく題号を識別して商品の選択をしていると認めるに足りる証拠はなく,これは客観的根拠を欠く被告の憶測にすぎない上,原告雑誌や本件雑誌1の需要者が通常人よりも高い注意力を有して当該雑誌を選択しているとも認められないから,被告の主張を採用する余地はない。

まぁ、はっきり言って、

成人向け雑誌を買う時に、題号だの何だのを吟味して買う人は

あまりいないだろうから、通常の雑誌以上に出所の混同は生じやすいと思われる。


ちなみに、標章2については、

観念の類似性は認めたものの、出所の誤認混同は生じないとして類似性を否定、

標章3については、外観の類似性は否定したが、

称呼と観念の類似性を肯定し、出所混同が生じる(=商標権侵害)とした。


商標の売り上げ寄与率について、

「10%」という低めの数字が出されたために、

認容された損害賠償額は、原告の請求(2874万円)に比べると

圧縮された数字(約337万)となったが、

商標権侵害の事案にしては、比較的大きい。


もっとも、「上記標章1、標章3を付した漫画雑誌を販売してはならない」

という認容された差止自体の効力は、

(本件標章が単なるキャッチフレーズに過ぎないことからすれば)

あまり期待できないだろうが・・・(笑)*3


理論的に見ると、

本判決は、「キャッチフレーズ」としての使用であっても商標権侵害になりうる、

とした点で貴重な裁判例である。


被告側は本件標章の使用は「商標的使用」にあたらない、

という抗弁をしていたのだが、

裁判所はキャッチフレーズであっても、「題号と同等の表示であるとの印象」

を与える構成であるとして、

被告標章は「出所を表示する機能を果たす態様で用いられているもの」

であると認定した*4


講学上は、

「キャッチコピーであっても、商標的使用にあたれば商標権侵害の責任を問われる」

といわれることが多いが、実際に商標権侵害と認定された事例は少ないだけに、

本来であれば、概説書や実務者向け研修等で

素材として歓迎されるべき判決になるはずなのだが、

如何せんタイトルが「本当にあったHな話」事件(笑)だから、

取り上げるのを躊躇う方も出てくるのかもしれない。


ともあれ、成人向け雑誌業者間の泥仕合も、

きっちり法的な理屈を付けて裁かなければならないのだから、

裁判官というのは因果な商売だ、とつくづく思う。

*1東京地判平成17年12月21日・http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/c617a99bb925a29449256795007fb7d1/a576a9394654f71c492570df000a6ba5?OpenDocument

*2:リンクはあえて貼らないが、グーグルあたりで検索すると一発で出てくるものである(笑)。

*3:残念ながら侵害責任を免れることはできなかったが、「本当に出会った・・・」といった標章は、原告側からの警告を受けた被告の一種のパロディのようにも思える。

*4:題号には商標権の効力が及ばない、と書いてある概説書は多いが(書籍の内容を記述的に表示したものに過ぎないから、というのが主な理由)こと同じ題号で複数回発行することを前提する雑誌に関してはその理もあてはまらない、ということを本判決は暗に述べているように思う。現に、多くの出版社は定期刊行雑誌の題号について商標登録している。

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