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2006-01-05

[][] 『一橋学院』対決

東京地裁で、

昨年の暮れに『一橋学院』の名称使用をめぐる一つの判決が出された*1


原告は、主に小中学生を対象とした学習塾を経営している株式会社*2

被告は、大学受験予備校を経営している学校法人であり、

本件は、原告が被告に対して

不正競争防止法に基づく差止請求権の不存在確認請求(本訴)を提起し、

これに対して、被告が不競法に基づく差止請求と損害賠償請求を提起した(反訴)

事案である。


原告は近年主流となっている個別指導方式の学習塾を

IE一橋学院」という名称で展開しており、

最近、関東近郊で広告等を見かけることも多かった。

http://www.tactgroup.co.jp/ie/index.htm


一方、被告の予備校は、「大学受験の名門/一橋学院・早慶外語」として、

自分が受験生だった頃に、よくラジオCMを流していたことを思い出す。

判決の事実認定によれば、最近では入学者が減少していたようだが、

それでも老舗の予備校として知られた存在である。

http://www.hit-g.ac.jp/


正直言って、自分はこの判決を読むまで、

上記二つの「一橋学院」は同じ系列の予備校・学習塾だと思っていた。


受験予備校業界では、

大学受験予備校部門と小中学生向け補習、受験部門で

異なる名称の学校を展開する事業者も多い。

(駿台や市進などが典型例である。)


このことからも、本件においては、

“混同”は十分に生じていたといえるだろう((上記「一橋学院」の“共存”に気付いた頃には、

自分は既に“需要者”ではなかったかもしれないが・・・。))。


本判決は、結論として、

「原告(反訴被告)の商標*3が被告(反訴原告)商標に類似している」

とし、

「原告が同商標を用いて、被告の営む大学受験予備校事業に類似する学習塾事業を行えば、被告(反訴原告)の事業であると誤認混同されるおそれがある」

として、被告側の反訴請求を認容しているが、

概ね妥当な結論といえるだろう。


原告側は、

‖仂櫃箸靴討い覲慇犬寮ぢ紂幣中学生か高校生・浪人生か)が異なることや、

学習塾を選ぶ際に決め手となるのは校名それ自体ではない、

といったことから、両者間において混同が生じていない旨主張したが、

裁判所は、

「不競法2条1項1号の「混同」とは、「現実の混同」ではなく、「具体的な混同のおそれ」に過ぎない」

とした上で、

さらに、

「受験予備校が小中高生向け学習塾を設置するのは、「自然な事業展開」である」

と述べて、原告の主張を排斥している。


このように、事案としては、結構単純なものではあるのだが、

本件で面白いのは、

なぜ原告が不存在確認の訴を提起しなければならなくなったのかということにある。


時系列で追ってみることにしよう。


被告は、昭和30年に設立された学校法人で、

一方、原告は平成元年に設立された株式会社である。

歴史的に見れば、被告の方がはるかに歴史は長い。


だが、「一橋学院」という名称を先に商標登録したのは、

原告の方であった。


原告が商標登録出願をしたのは平成8年1月30日。

平成10年4月17日に登録。


被告が、どの時点で原告の“存在”に気付いていたのかは定かではないが、

これが被告にとって、看過できない事態であったことは間違いない。


被告は、平成15年3月7日に原告商標の無効審判請求を起こし、

特許庁はこれを認めた(平成16年6月2日)。

原告側は、審決取消請求を東京高裁に提起したが、

平成17年3月24日に請求は棄却されている*4


そして、それを受けて、

被告は、原告に対し「警告書」を送付したのである(平成17年4月1日到達)。


さらに、被告は、その前年に自ら「一橋IE学院」という商標を出願し、

あえて「拒絶理由通知」を受けている。


被告はこの登録出願を、

「同商標が自他識別力のないこと及び原告旧商標と類似することを明らかにするため」

行ったもの、と説明している。


自らの主張の正当性を根拠付けるために、

相手方の商標を自ら出願するという周到さである。


この点からも、本件訴訟に対する

被告の側の“意気込み”を見て取ることができる。


原告が商標を出願したのは、

サービスマーク(役務商標)制度ができて間もない時期だったから、

被告の側の対応が後手に回っていたのは責められないし、

原告としては、本家本元の「一橋学院」が何ら商標を取得していない、

という事実を奇貨として、商標出願をしたのかもしれない。


だが、残念ながら本件においては、

そのような原告の“勇み足”が、

眠れる「本家」を呼び起こしてしまったように思われる。


本家本元の「一橋学院」には、

小中学生向けの講座を開講する意思はなかったようであるから、

原告が商標出願をしさえしなければ、

煩わしいと思いつつも、後発の「一橋学院」を放置していた可能性はある。


本件の判決文から

そのような背景事情の全てを読み取ることはできないのは残念だが、

知的財産権」が毒にも薬にもなりうること、

そして、そんな“毒”をめぐる企業間の攻防を

垣間見ることができる事案であるのは間違いない。


まぁ、少子化が加速している現在において、

これを機に、二つの「一橋学院」がひとつになる、

という選択肢もあっても良いような気がするが・・・(笑)。

*1東京地判平成17年12月28日・http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/c617a99bb925a29449256795007fb7d1/f055da0cd576aa94492570ec0000458e?OpenDocument

*2:ただし、裁判所は原告が高校生も対象としていたことを認定している。

*3:原告は警告を受けて商標の変更作業を行っているため、判決においては「旧商標」と記載されている。

*4http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/A71CA1F03B28747049256FD20035C222/?OpenDocument その後、最高裁でも上告不受理決定。

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