ジュリスト2006.2.1号(No.1305)

発売からだいぶ時間が経ったこともあり、
本号の内容については軽く触れるにとどめる。
特集は「総合法律支援構想の実現に向けて」。


司法支援センターの役割や国選弁護制度の対応体制など、
行政、実務家の方々の取り組みが紹介されている。


被疑者国選弁護制度」を導入した場合の
スタッフ弁護士の必要性について、という資料はなかなか興味深いが*1
果たしてここまで当番弁護士のニーズが増えるか否かは、
この制度がどこまで被疑者の利益に資することができるか、という、
導入後1,2年の運用にかかっているように思われる。


連載中の『探究・労働法の現代的課題』(第6回)は、
「賃金差別」がテーマ*2


「大量観察方式」に代表される立証方法と、
差別あり、と認定された場合の救済方法の是非を中心に議論されている。


個人的には、賃金格差をめぐって紛争が生じる背景には、
必ず何らかの「差別意思」が働いている、といわざるを得ず、
あとはそれをどうやって立証するか、
そして、差別されていた労働者をどうやって救済するか、
という問題に過ぎないように思われる。


当然ながら、「大量観察方式」による差別意思の“推認”に
期待を込める労働側と、それに反発する使用者側とで利害は対立するわけだが、
人事考課に関する情報を事実上使用者側が独占している以上、
立証責任を労働者側に負わせる、という発想は明らかにナンセンスである。


使用者側は、「同等性」の立証責任を労働者側に負わせたいようだ。
だが、一人や二人ならともかく、集団的に格差が生じている事例で、
その集団だけが他の労働者集団と比べて「同等でない」ということは、
社会通念上ありえないこと、といって良い。


いかに“能力主義”を採用していたとしても、
当該労働者集団に能力を発揮できるだけの仕事が与えられていなければ、
そこで生じる“能力格差”は、決して許容できるものにはならない。


また使用者側からは、証拠の収集に関する実務的な問題、
として、次のようなものが挙げられているが、
これまたナンセンスというべきである。

「原告本人に関する人事考課表についても、文書提出命令の対象とはなり得ないと解すべきである。なぜなら、人事考課表は、開示されないことを前提に不利益な評価を含め、ありのままの事実や評価が記載されているものであり、これが公表されるとすれば、当該労働者と上司との間で軋轢を生じ、職場内の信頼関係を失わせ、上司の指導等が事実上困難になるおそれが多分にある。加えて、上司も将来、人事考課表が公表される可能性があるとすれば、部下との関係を悪化させないあるいは反駁を恐れるなどの心理が働き、不利益記載や評価を回避するなど人事考課制度そのものが形骸化するおそれも十分に考えられるからである。」*3

その程度で“形骸化”するような人事考課制度なら、
廃止してしまうと良い。


内申書でさえ開示される時代である。
開示されたら“軋轢が生じる”ような評価の仕方をすること自体問題だし*4
部下からの“反駁”に耐えられないような査定をしている時点で、
査定者としては失格である。


使用者側の「理屈」。
自分自身何度も聞かされてきたし、
現にそれを主張する側にたって仕事をしたこともある。


だが、自分の中ではいまだに腑に落ちない理屈だし、
決して上記のような“理屈”に妥当性を見出すことはできない。


プロ野球選手の契約更改を見ると良い。
細かい査定の中身まで吟味して、意見を戦わせて始めて、
労使双方が納得感をもって“仕事”にいそしむことができる*5


それをせずして、表面的に摩擦を回避しようとするのは、
それが“会社の運営に支障を来たす”からではなく、
単に“面倒くさい”あるいは“差別を隠したい”からに他ならない、
と思う。


ま、こんなところで吠えても仕方ないので、
次の昇給・ボーナス査定の時に噛み付くとするか・・・*6

*1:ジュリスト1305号50−57頁(2005年)

*2:水町勇一郎=豊川義明=中町誠「賃金差別−立証責任と救済方法」ジュリスト1305号78頁(2005年)

*3:中町誠「使用者側の立場から」ジュリスト1305号95頁(2005年)

*4:日頃から注意・指導を受けていることが記載されているだけなら、「またか」とは思っても、“軋轢”にまで発展することはないはずだ。にっこり笑ってこっそり減点していたりすれば、それは当然“軋轢”が生じることになるだろう。そういう“卑怯な”考課をすること自体が大問題だ。

*5:もっとも、査定の中身が公表されるようになってきたのは最近のことだし、公表されているとはいっても、一部に限られるのかもしれないが・・・

*6:もっとも、ちょっとでもプラス評価されていたりすると、噛み付くタイミングを逃してしまうものだったりもするのだが・・・。

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