忍耐強いフランチャイザー

知的財産権判決速報」と銘打ちつつ、
実際には知財事件ではない裁判例を一つご紹介。


東京地判平成18年2月21日(民事47部・高部眞規子裁判長)*1


原告(日本マクドナルド)が被告(フルセル株式会社)に対して
不競法2条1項2号に基づく標章使用差止めを求めているゆえ、
知財事件」として掲載されているのだが、
実際の争点は「フランチャイズ契約の解除が認められるか否か」にある。


フランチャイジー残酷物語”なる記事がビジネス誌に踊ることも多い昨今だが、
実際にその契約内容が公になることは稀であり、
本件で、我が国の飲食業界を代表する「マクドナルド」の契約が
公にされているのは、なかなか意義深いものがある。


さて、本件では、フランチャイザーフランチャイジーの間の、
「解除権の行使に至る経緯」が詳細に認定されているのだが、
これを見ると、過酷といわれるフランチャイザーにも、
意外に“優しい”ところがあるのでは、と思う(笑)。


以下、追ってみていくことにする。

①平成12年3月までに被告が原材料代金の支払を計3回遅滞
平成12年6月1日 第1覚書の締結
  ロイヤリティ料の支払等を2回にわたり遅滞した場合には解除
④平成12年8月頃、被告が法人税等を滞納したため、契約保証金の差押えを受ける
平成13年5月31日 第2覚書を締結
  原告によるレビューの結果、被告会社に債務の弁済を履行しないと判断された場合には催告の上、解除することができる。
⑥平成14年5月までに被告はロイヤリティ料等の支払いを10回遅滞、消費税、社会保険料も滞納
平成14年5月31日 第3覚書を締結
  第2覚書と同趣旨
⑧平成15年3月までに被告はロイヤリティ料等の支払いを10回遅滞、リース料、消費税、社会保険料も滞納
平成15年5月29日 第1通知書により契約解除の意思表示、被告営業継続
平成15年8月11日 東京地裁に調停申立、不調
⑪平成16年12月2日時点における未払金は、2045万1696万円
平成16年12月3日 第2通知書により、平成17年1月3日までに未払金を支払わない場合は契約を解除すると通告、被告は一部支払。
平成17年1月12日時点での遅延損害金は692万3640円、未払金は220万2801円
平成17年1月13日 第3通知書により、平成17年2月13日までに未払金を支払わない場合には契約を解除すると通告。
⑮被告は、未払金の支払を一切行わず、平成17年2月3日付で委託販売契約を新たに締結することを内容とする「ご提案書」を送付。
⑯原告は、提案は受け入れられない旨を書面で被告に対して通知し、未払金の支払を再度求めた。(平成17年2月12日被告会社に到達)
平成17年3月23日 原告は、未払金を7日以内に支払わなければ解除する旨の「解除通知書」を被告に対して送付。この時点での未払金は1745万2769円。

実に5年にわたる長い戦い・・・。


だが、本件で認定された事実を見る限り、
被告側の“契約不履行体質”は明白であり、
世間で言われているような“ドライなフランチャイザー”であれば、
少なくとも平成14年ごろには「解除」という大ナタを突きつけても
おかしくなかったような事案である*2


被告のオーナーは、
地元ではそれなりの「名士」に当たる人物だったのかもしれず、
それゆえ何らかの政治力を行使しうる立場にあったのかもしれないし、
被告が運営していた店舗が「マクドナルド福岡新天町店」という、
地域一番店だったこともあって、「大きすぎるがゆえに潰せない」という
ジレンマを抱えていたのかもしれない。


また、原告・被告間のフランチャイズ契約の締結は平成8年6月1日で、
10年を一区切りとして再契約の可否を判断する、という内容になっていたから、
平成18年までは何とか引っ張りたい、という気持ちが働いたことも考えられる。


しかし、第1覚書に基づいて行われた平成12年9月21日の審査の時点で、
既に「総合評価と致しましては、再契約、店舗展開共にNGとなります。」
という評価が下されていた被告に対し、
ここまで契約を引っ張らなければならなかった、というあたりに、
フランチャイズ契約」というスタイルの難しさを見ることができる。


ちなみに、被告側は、①「解除権の濫用」の抗弁を主張し、
さらに②「100円マック」政策はフランチャイズ契約の債務不履行にあたる*3
③原告が受領した対価のうち契約解除後20年分については不当利得にあたる*4
として反訴を提起したりもしているが、さすがに悉く退けられている。


裁判所は、
「第1覚書」締結当時の債務不履行を“軽微なもの”と主張した被告を、

「食品及び飲料を提供する本件店舗の営業にとって,これらの原材料を安定して供給することは,品質を保持するためにも,極めて重要なことであるから,被告会社が,原材料の購入先である富士エコー及びフジパンに対して,原材料等の代金の支払を怠ることは,本件契約の解除原因の最たるものであって,これを軽微なものということはできない。」

と一蹴した。


このような結論が出ることが分かっていれば、
マクドナルドの担当者ももっと早く手が打てたかもしれない。
だが、残念ながら5年後の裁判所の判断を予測することは不可能であり*5
だからこそ、フランチャイザー側の担当者は、
時間をかけて、解除権発生の原因事実をひとつ一つ拾っていかざるを得ないのである。


フランチャイザーは、かくして忍耐を強いられる。
本件は、一般的に描かれている「搾取する者と搾取される者」という構図が、
一面的なものでしかないことを、良くあらわしている事案、
ということができるのではないだろうか。


大塚先生のブログもご参考までに。
http://ootsuka.livedoor.biz/archives/50353207.html

*1:http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/c617a99bb925a29449256795007fb7d1/a1e38c19b292b5cd4925711c0027e627?OpenDocument

*2:被告側の代理人に付いているのは田中克郎、中村勝彦弁護士以下の“TMI”のメンバーであり、原告・被告の訴訟上の立場は互角といって良い事案だけに、原告の一方的な主張だけが訴訟に反映されているわけでもないように思われる。

*3:「元々客数が多い店舗にとっては客単価を下げ収益性を悪化させるだけだ」という被告の主張は、一見面白いものではあるのだが、同政策が行われたのは「平成17年頃から」ということなので、それ以前の被告側の“非”に照らせば、裁判所としてもこのような主張を認めるわけにはいかなかったように思われる。

*4:原告は被告との契約締結に先立ち、被告に対して「有形・無形固定資産」を売却する、というスキームを使っており(計2億3000万円程度)、被告はこれが「一定期間の営業を行う権利の対価にあたる」ということを前提として、この主張を行っている。

*5:さらに言えば、第1覚書の締結後の数々の被告の“悪行”ゆえ、上記のような判断にいたるのであって、平成12年当時に裁判所に持ち込んだとしたら、解除権の行使が権利濫用として退けられた可能性は否定できない。

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