「著作物性」をめぐる争い。

最近の著作権関係裁判例より2つ。


既に大塚先生のブログなどでも取り上げられているので、
最低限の紹介にとどめるが、
いずれも、著作権侵害事件における「著作物性」の判断に関し、
いろいろと考えさせられる事例となっている。

東京地判平成18年3月23日(H17(ワ)第10790号・著作権侵害差止等請求事件)

事案の概要については、下記サイトを参照のこと。
http://ootsuka.livedoor.biz/archives/50408252.html#trackback


okeydokey氏のサイトでも言及されている。
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20060325/1143219798


本件では、原告(訴訟係属中に死亡したため、長男が受継)が作成した
「模写」作品の著作物性が争われたのだが、
裁判所は以下のように述べた上で、一部について原告作品の著作物性を認めた。

「絵画における模写とは、一般に、原画に依拠し、原画における創作的表現を再現する行為、又は、再現したものを意味するものというべきである。したがって、模写作品が単に原画に付与された創作的表現を再現しただけのものであり、新たな創作的表現が付与されたものと認められない場合には、原画の複製物であると解すべきである」
「これに対し、模写作品に、原画製作者によって付与された創作的表現とは異なる、模写製作者による新たな創作的表現が付与されている場合、すなわち、既存の著作物である原画に依拠し、かつ、その表現上の同一性を維持しつつ、その具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が原画の表現上の本質的特徴を直接感得することができると同時に新たに別の創作的表現を感得し得ると評価することができる場合には、これは上記の意味の「模写」を超えるものであり、その模写作品は原画の二次的著作物として著作物性を有するものと解すべきである」(太字筆者)

上記規範を前提とするにしても、その具体的なあてはめが妥当なものといえるかは、
実際に原告の作品を見てみないと何ともいえない。


「新たな創作的表現」の捉え方如何によっては、
先行する「模写」の著作物性が容易に認められることによって、
後続の「模写」行為そのものが影響を受ける事態も生じうるのであって、
著作物性を肯定する考え方が、
必ずしも“描き手”側に有利な結論を導くことになるとは限らない。


本件においては、被告出版社側の無断掲載(デッドコピー)という
“悪質な”行為ゆえ、上記のような結論になったと言えるのかもしれないが、
「著作物性」を厳格に解するようになってきている近年の裁判例の潮流の中で、
上記のような判断を是とするか、ということについては、
議論の余地もあるように思う。


ただ、亡くなった原告は、かつて新橋玉木屋事件で勝訴した原告でもあり、
自己の作品の“著作物性”にこだわりを持っていたことは容易に推察できたのだから、
交渉の最中に著作物性の欠如を主張してしまった被告には、
やはり、根本的な部分で“戦略ミス”があった、と言わざるを得ないだろうが・・・。

知財高判平成18年3月29日(H17(ネ)第10094号・請負代金請求控訴事件

これまた大塚先生のブログにてご紹介あり。
http://ootsuka.livedoor.biz/archives/50404281.html#trackback


本件ではウェブサイト上の文章、写真の著作権侵害が争点になっているが、
裁判所は、写真の「創作性」を消極的に見積もり、

「創作性が微少な場合には、当該写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべきものである」

と述べてはいるが、現実には被告(被控訴人)の侵害行為態様に触れた上で、
デッドコピーとして本件写真の複製権侵害を認めていたりもする。


これも実際に現物を見てみないことには何とも言えないのだが、
原告(控訴人)の写真は、あくまで自社が取り扱う商品を撮影したものに過ぎず、
創作性を発揮する余地は限られるように思われるから、
被告(被控訴人)側の使用態様が「デッドコピー」という
“悪質な”ものであったことを差し引いても、
著作物性を否定する、という途はあったように思われる*1


裁判の“結論”というのは、とかく一人歩きしがちで、
スジの悪い事案であるがゆえに原告の請求が棄却された場合でも、
「○○については著作権侵害が認められない」という結論だけが
先走っていたりするし、
逆に被告側の行為の悪質性ゆえに、著作権に基づく救済がなされた場合でも
「○○について著作権侵害が認められた」という結論だけが
大手を振って“実務の世界”でまかり通っていたりする。


裁判所も、抽象的な規範の部分では一定の統一見解を打ち出してはいるが、
こと、具体論になると、裁判所単位で違いが出てくるのはもちろん、
時には合議体レベルでさえ、判断にバラつきが出ていたりするから、
事前のリスク回避を至上命題とする法務担当者にとっては、
なかなか頭の痛いところである。


もっとも、著作権者を怒らせさえしなければ
この世の著作権がらみの紛争の多くは防ぐことができるわけで、
そう考えると、著作物性の有無などは、
たいした問題ではないのかもしれないが・・・。


人気blogランキングへ

*1:もしこの手の“商業写真”の著作物性がすべからく認められるのであれば、「もぐら叩き」担当が何人いても足りなくなる(自社のウェブサイトから無断で写真コピーして、堂々と自分のウェブサイトで公開している輩は数え切れないほどいるわけで・・・。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html