橋梁談合に罰金最高6億4000万円

「国や旧日本道路公団が発注した鋼鉄製橋梁(きょうりょう)工事を巡る談合事件で、独占禁止法違反(不当な取引制限)罪に問われた横河ブリッジや川田工業などメーカー計23社と8被告の判決公判が10日、東京高裁であった。高橋省吾裁判長は「極めて大規模な入札談合で、社会に与えた損害は甚大」と述べ、両社にはそれぞれ罰金6億4000万円(求刑罰金8億円)を言い渡した。罰金額は独禁法違反事件では史上最高額となった」(日経新聞2006年11月10日付け夕刊・第1面)

近年引き上げが続いているとはいえ、
それでも最高5億円だったはずの罰金刑が、なぜこんなに高額になったか、
といえば、
「国発注分と旧日本道路公団発注分の二件の併合罪として、罰金8億円を求刑」*1
したからに他ならない。


「社会の絶対悪たる“談合”を廃絶しなければ気がすまない」
という正義感の強い(笑)論者が主流を占める現在の状況下では、
やむを得ない結論、ということになるのだろうが、
こういう動きを推し進めていった結果、
公共事業の世界にまで第二・第三の「ヒューザー」のような事業者が
出てくることになったとしたら、誰がどう責任をとるのだろうか?


“談合”企業を痛烈に批判しているメディアは、
先のヒューザー事件の時、耐震強度偽装に関与した事業者のみならず、
民間の検査機関やその検査機関に業務委託した自治体まで叩いていた。


この二つの“バッシング”の整合を図り、
メディアを納得させる「回答」を模索するならば、

「完全なる自由競争環境を作り出した上で、受注業者の仕事の質を公的機関が徹底して管理する」

というところに行き着かざるを得ないだろうが、
公的機関の側でそのような体制を整えるコストは、
おそらく“談合”を止めることによって得られるリターンに
匹敵するものになるのは間違いない*2


受注調整も是とするこれまでの受注者側・発注者側の「常識」と、
“談合”という競争制限行為を是認しない、という
公取当局や有識者の「常識」が食い違っていたのは明らかであるが、
いずれの「常識」が正しいのかは、実際のところ誰にも分からない。


ゆえに、世論の煽りをそのまま受けたような過剰な制裁を、
司法当局が安易に加えることは慎まれるべきではないか、と思うのだ。


本件談合事件に関し、
裁判所がいかなる事実認定に基づいて上記のような判決を書いたのか、
新聞報道を読んだだけでは判然としないのであるが、
筆者は、単に表面的なところだけを見て、
“悪徳企業が断罪された”と手放しに喝采をあげる気には
とてもなれないのである・・・。


なお、奇しくも、上記判決が掲載された日の、
日経新聞の夕刊コラムに、
課徴金減免制度によって方針転換を迫られる
企業側弁護士(岩下圭一弁護士)の姿が描かれていた*3


これまで、特定の有力な弁護士に仕事が集中する傾向にあった独禁法業界だが、
「刺すか刺されるか」的ムードが強まっている今、
実務の現場的危機感から、「いざという時に頼れる事務所」を
新たに開拓しようとする動きはより強まってきているように思われる。


パイの縮小が懸念される法曹業界にとって、
これが朗報であることは間違いないだろうが、
重責を担うだけの仕事の質が担保されなければ、
ダメージを受けた企業もろとも、泥沼にはまり込むリスクをはらんでいる、
というのもまた事実*4


クライアントの側にとっても、
受任する側にとっても、
何とも悩ましい話であるのは間違いない。

*1:前掲・第17面。

*2:さらに言えば、仮に施工不良によって事故でも起きようものなら、その社会的コストは現在“談合”によって失われているそれの比ではない。

*3:第5面「法化社会/日本を創る第9回・司法取引の衝撃 戦術転換」

*4:仮に、弁護士のミスリードによって、8億円、いや、それ以上の制裁を企業が受けることになったとしたら・・・と考えると、受任案件が増えた、と手放しで喜んでばかりもいられないのではないだろうか。

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