企業法務戦士の雑感 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2007-01-04

[][] 「業務連絡」文書の疑惑。

以前、職務著作の成否が争われた事例としてご紹介した、宇宙開発事業団元職員による著作権存在確認等請求事件。


原審である東京地判平成17年12月26日(第29部・清水節裁判長)*1では、プログラムの一部について原告は創作者にあたらない、また原告が創作者にあたるものについても職務著作が成立する、として原告側の主張を全面的に退けていたのだが*2、昨年末にその控訴審判決が出された。


知財高判平成18年12月26日(第1部・篠原勝美裁判長)*3


控訴審では、控訴人(原告)側に付いていたはずの代理人がいつの間にか消えていて、その分、主張が過激になっていたりもするのであるが、


いかに

「事業団は、人工衛星ロケットや追跡管制に関して、多くの設計改修やシステム構築などの提案をしたが、これに反対し、控訴人を左遷したり、職務外しなどをした後、控訴人に内緒で、控訴人の解析結果や提案やプログラムなどを無断流用した。さらに、事業団は、控訴人が個人管理していた本件各プログラムにつき、控訴人との協議を持つこともなく、一方的に消去した。この無断消去は、控訴人が本訴を提起する直接の動機をなった事柄であり、個人の知的活動へのぼうとくであるとともに、古代の奴隷制も同然である。原判決が、これらの事情を無視しているのは、不当である。」(5頁、太字筆者)

といった主張を行ったところで「原告側がとにかく怒っているらしい」ということ以上のことを理解するのは難しいのが現実で、結局、控訴審においても、原告側の主張は全面的に棄却された。


もっとも、結論はともかく、依然のエントリーで問題にした「留学期間中に作成したプログラムの著作権の帰属」に関する判旨については、一部理由説明に不可解な点もある。


そこで、以下では職務著作の成否の部分を中心に、本判決を取り上げてみることにしたい。

プログラムの著作物性

被告側は、本件で争われている11のプログラムの著作物性を否定する主張を一貫して行っていた。


原審ではこの点について特に判断されずに職務著作の成否の論点に移っていったのだが、控訴審ではこの点につき、以下のような基準に基づいて1つ1つのプログラムについて著作物性の有無を判断している。

「プログラムに著作物性があるといえるためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものであることを要するものであって、プログラムの表現に選択の余地がないか、あるいは、選択の幅が著しく狭い場合には、作成者の個性の表れる余地もなくなり、著作物性を有しないことになる。そして、プログラムの指令の手順自体は、アイデアにすぎないし、プログラムにおけるアルゴリズムは、「解法」に当たり、いずれもプログラムの著作権の対象として保護されるものではない。」(43-44頁)


結果として、争われているプログラムの多くについて著作物性が認められたが、プログラム11(別紙2「STAT」(オリジナル)」については、「全体として表現に選択の余地がほとんどなく、わずかに表現の選択の余地のある部分においても、その選択の幅は著しく狭い」として、著作物性が否定されている*4


控訴人(原告)はプログラムを創作したか

次に「原告は、本件各プログラムを作成(創作)したか」という争点につき、本裁判所は原審の認定を一部覆し、争われていたプログラム全てについて、原告(控訴人)が(単独ないし共同で)創作した者に当たることを認めた。


原審で、原告に創作者としての地位が認められなかったプログラムというのは、「業務の一部を外部企業に委託」して制作されたもので、事業団の職員は「現場の指示監督を行う監督員」に過ぎなかった、というものだったのであるが、本判決においては、

「控訴人による、・・・の解析を支援するためのものであって、被控訴人CRCのeらは、控訴人の職務を補助するものとして、控訴人の指示監督の下で、控訴人と共同でプログラミング作業を行い、本件プログラム1及び2を完成させたものと認められる。」(54頁)

と控訴人に創作者としての地位を認めている。


本件では結局職務著作の成立が肯定されているため、ここでの判示は結論に影響を与えなかったものの、通常の場合における著作者の認定を考える上では参考になる判旨だといえるだろう。


職務著作の成否

さて、本件において最も重要な職務著作の成否について。


控訴審は、原審に続き、「法人等の発意」要件や「職務上作成」要件において使用者側の具体的な指示がなくても職務著作の成立を認める見解に立っている。

「法人等と業務に従事する者との間に雇用関係があり、法人等の業務計画に従って、業務に従事する者が所定の職務を遂行している場合には、法人等の具体的な指示あるいは承諾がなくとも、業務に従事する者の職務の遂行上、当該著作物の作成が予定又は予期される限り、「法人等の発意」の要件を満たすと解するのが相当である。」(59-60頁、太字筆者)

「「職務上作成する著作物」の要件については、業務に従事する者に直接命令されたもののほかに、業務に従事する者の職務上、プログラムを作成することが予定又は予期される行為も含まれるものと解すべきである」(60頁)

実際に会社の中でどのように仕事が行われているか、ということを前提に考えるならば、上記のような判断になるのはある意味当然であり、その結果、「事業団が各種プログラムの開発を業務として行う方針をとっていたこと」や「技術系職員の間でプログラム作成はほぼ必須のものとされていた」といった事実が認定されている本件においても、通常の業務の過程で控訴人が制作したプログラムの著作権が、控訴人に帰属するという結論が導かれる余地はなかったように思われる。


一方、控訴人のフランス留学中に作成・発表されたプログラム(本件プログラム12(KALMAN))については、原審の事実認定等を見る限り、控訴人の主張が認められる余地もあるように思われたのだが、これについても裁判所は、控訴人が提出した「海外研修計画」において、プログラム12の作成が予定又は予期されていた、として、「法人等の発意」等の要件充足性を認めている。


控訴審であらためて出てきた事実関係を見るかぎり、控訴人のフランス留学は、控訴人自身が主張するような「個人留学」ではなく、事業団の業務の一環として行われたもののように見受けられるから*5、結論としてはこのように解する方が常識には沿うのであろう。


だが、原審でも問題になっていたように、控訴人と被控訴人(事業団)の調査国際部長との間の「業務連絡」において、

「プログラム著作権の帰属に関して、「留学中開発プログラム(1件)・・・個人に帰属」とされ、加えて、「職務/職務外にかかわらず宇宙開発事業に資する職員のソフトウェア著作権は、全面的に事業団が承継するため、規程/手続きの整備作業中である。」」(72頁)

と記載されていた事実はやはり重いのであって、ここで事業団内部の規程に「この業務連絡は、その内容が事業団の意思決定そのものに関するもの、例規的なもの又は基準的なもの等には用いないものとする。」(72頁参照)と書かれているからといって、上記業務連絡が「事業団の意思を表示するものでないことが明らか」とした本判決の論旨はやや強引であるように思われる*6


また、「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」との要件に関しては、控訴人が留学期間中に発表した論文に「プログラムのソースコードオブジェクトコードが記載されていない」ことをもって、プログラムそのものが「控訴人の名義で公表されているとは言い難い」(74頁)と判断し、未公表著作物として扱うことで職務著作要件充足性を肯定しているが*7、このような処理を行った場合、ソースコードまで開示してしまっていればよかったのか、という誤解を招きかねない*8


控訴人が職務上プログラムを作成したと認定されている状況において、論文発表の際に「日本宇宙開発事業団衛星設計第1グループ技師」という肩書きが付されているのだから、端的に使用者名義での公表と同視しても良かったのではないか、と思うのである。


本件では、最終的に本人訴訟となったこともあって、控訴人側の主張が理論的な精緻さを欠いていたように思われるし、それゆえ法的に意味のある説示よりも、

「控訴人は、昭和49年4月1日、事業団に雇用されて以来、事業団に対して労働に従事する義務を負うとともに、その報酬を受けていたものである。したがって、控訴人は、事業団に対して労働に従事するに当たり、事業団の命ずる職務に従事しなければならないのであって、職務中に「個人の自由な研究活動」をし得る立場にはない」(79頁)

とか、

「たとえ、控訴人の提案あるいは意見が採用されない場合があったとしても、控訴人のした研究、開発が無意味なものとなるわけではなく、少なくとも、事業団の目標達成のために、複数の提案あるいは意見が出されることは、比較の上からも、議論を深める上でも重要なことといわなければならない。また、控訴人が事業団の横流し、無断流用、無断消去と主張することからすれば、本件各プログラムは、事業団において生かされていることになり、控訴人のした研究、開発が無意味なものではなかったことを自ら裏付けているものである。」(82頁)

だとかといった、“聞き分けの悪いお子様”向けのお説教のような説示が目立ってしまっているのであるが、もう少し主張を工夫すれば、よりきわどい勝負になる余地(留学期間中の制作に関する部分だけだが)があったように思えるし、これが留学期間中の成果物の帰属が問題になる事例すべてにあてはまる先例となると考えるのは早計であろう。

*1:H12(ワ)第27552号。http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/683C8598E4E61EC4492570DF001C9775.pdf

*2http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20051229/1135881963#tb

*3:H18(ネ)第10003号・著作権存在確認等請求控訴事件。http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070104101733.pdf

*4:この判断が妥当かどうかは、直接判決資料にあたって確認されたい。

*5裁判所が認定しているように、休職という形をとりつつも給与の7割は支給されているし、控訴人の上司も控訴人に先立って同様に留学している。

*6:それをいうなら、一定の事業団の意思の存在を認めた上で、事業団と控訴人との間でのやり取りをもって「別段の定め」を行ったとはいえない、等の認定を試みるべきではないだろうか。

*7:「公表されるとすれば、事業団の名義の下に公表されるべきものであった」として職務著作の要件該当性を肯定した。

*8:そういう問題ではないことは言うまでもなく明らかだろう。

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