何が明暗を分けたのか。

静岡県内(浜松市)において、「ロクラク2ビデオレンタル」という名称で事業を営むハウジングサービス業者(債務者:株式会社日本デジタル家電)に対し、放送局(債権者:株式会社東京放送静岡放送株式会社)が複製権、著作隣接権に基づく仮処分命令を申し立てていた事件の決定が先日下されている。


東京地決平成19年3月30日(H18(ヨ)第22046号)*1


ハウジングサービスをめぐっては、「録画ネット事件」(知財高決平成17年11月15日)、「選撮見録事件」(大阪地判平成17年10月24日)*2で放送局側の差止めが認められている一方、「まねきTV事件」(知財高決平成18年12月22日)で放送局側が敗れるなど*3、明暗が分かれる形になっているのだが、公刊されているものとしてはおそらく4件目(?)にあたる本件では、放送局側の言い分が認められ、差止仮処分が認容されることになった。


仮処分事件にしては双方の主張も比較的充実しているし、何度か審尋期日も設けられていたようであるが、先行する同種の事件において裁判所の考え方が概ね明らかになってきていることもあって、全体としてみると、法律論の争いよりも債務者(日本デジタル家電)側のサービスの実態がいかなるものか、という「あてはめ」レベルでの攻防が目立っている。


そこで、裁判所の決定理由を見ていくと、まず目を引くのが冒頭の、

著作権法上の侵害行為者を決するについては、カラオケ装置を設置したスナック等の経営者について、客の歌唱についての管理及びそれによる営業上の利益という観点から、演奏の主体として、演奏権侵害の不法行為責任があると認めた最高裁判例最高裁昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決)等も踏まえ、行為(提供されるサービス)の性質、支配管理性、利益の帰属等の諸点を総合考慮して判断すべきである。」(46頁)

というくだり*4


そして裁判所は、当事者間で争われていた、①「サービスの目的」、②「機器の調達・設置・管理の主体」、③「放送番組の複製のための環境整備を誰が行っているか」、④「経済的利益の帰属」といった点について、次のような判断を下した。

(ア) 本件サービスの目的
「債務者が行う本件サービスは,上記第2,1(3)のとおり,利用者が,手元に設置した子機ロクラクを操作して,離れた場所に設置した親機ロクラクにおいてアナログ地上波放送を受信し,これを録画することによりテレビ番組を複製し,複製した番組データを子機ロクラクに送信させ,子機ロクラクに接続したテレビ等のモニタに,当該番組データを再生して,複製したテレビ番組を視聴することができるというサービスを,利用者に対し提供するものである。」
・・・(略)・・・
「これらのことからすれば,本件サービスは,利用者において例外的に異なる利用形態をとる場合があるとしても,日本国外において,日本のテレビ番組を視聴させることを目的として構築されたものであると解するのが相当である。」

(イ)親機ロクラクの設置場所およびその状況
「本件サービスに供されている債務者所有の親機ロクラクのほとんどが、債務者の実質的な管理支配下にあり、債務者は、これらの親機ロクラクを、本件サービスを利用するための環境の提供を含め、一体として管理しているものと解すべきこととなる」(52頁)

(エ)本件サービスを利用する際の送受信の枠組み
「本件サービスを利用する際には、上記(1)エ(オ)(カ)のとおり、債務者においてあらかじめ設定したメールアドレスを用い、債務者の管理するサーバを経由して、指示やデータの送受信が行われることとなる」(52頁)

(オ)本件サービスによる利益の帰属
「債務者は、本件サービスによって、上記(1)エ(ウ)のとおり、「初期登録料」及び「レンタル料」を取得している。」(53頁)

(カ)小括
「以上の事情を総合考慮すれば,債務者が,本件サービスにおいて,大多数の利用者の利用に係る親機ロクラクを管理している場合は,別紙サービス目録記載の内容のサービス,すなわち,本件対象サービスを提供しているものということができ,この場合,債務者が,本件著作物及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を管理し,それによる利益を得ていると認められる。」(53頁)

以上のうち、(ア)については、「モニタ要領」や申込欄の住所記載欄の表示、その他の広告等から、(通常の)「テレビ番組の録画、再生」や「インターネットビデオのダウンロード視聴」などの用途もある、という債務者の主張は苦しかったといわざるを得ないし*5、当事者間において激しく争われた(イ)についても、

「本件サービスに先立つ本件モニタ事業の実施時には,債務者事業所内に親機ロクラクが設置されて債務者が管理していたという事実が認められる以上,債務者において,親機ロクラクの移動及びその後の設置場所について,一定の客観的な資料をもって明らかにすべき状況にあることは当然といえる。また,確たる根拠がないにもかかわらず,第三者への妨害行為等を口実に,客観的事実関係を明らかにしようとしない上記債務者の対応は,本件保全手続の当事者として,極めて不相当なものといわざるを得ない。」(51-52頁)

と指弾されるような状況では、債務者にとって厳しい判断になることは予想されたことといえるだろう。


モニタ事業実施時と、実際のサービス開始以降とで親機の設置箇所を変えた背景には、当然ながら放送局側からの差止めを回避する意図があったものと思われるが*6、そうでなくとも立証の程度が軽減されている仮処分事件において、「債権者側のストーリー」を崩すに足るだけの客観的証拠を出せなければ、展開としては苦しくなる。


結果、裁判所は、「債務者は、本件対象サービスにおいて、本件著作物及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っている」というべき、と認定し、債務者の著作権侵害主体性を認めている。


仮に、本件が今後本訴に移行したときに、今回行っていた程度の主張立証で、放送局側が勝てるかどうかは何ともいえないのであるが、本決定で争われた内容、そしてそれに対する裁判所の判断を他の同種事案と比較しながら見ていくと、「事業者の関与の度合」による違法と合法の境界線がうっすらと見えてくるような気がする。


いずれにせよ、「カラオケ法理」に乗っかり続けている限り、ハウジングサービス事業者が“丁寧に”ユーザーサポート(専用機のセット販売、設置管理のサポート、番組情報の提供等)をすればするほど、著作権(隣接権)侵害のリスクが増す、という帰結になるのは明らかであろう。


なお、裁判所は、

1 債権者株式会社東京放送が,本決定送達後7日以内に金300万円の担保を立てることを執行実施の条件として,債務者は,債務者が運営する別紙サービス目録記載のサービスにおいて,別紙著作物目録記載の著作物を複製の対象としてはならない。
2 債権者静岡放送株式会社が,本決定送達後7日以内に金300万円の担保を立てることを執行実施の条件として,債務者は,債務者が運営する別紙サービス目録記載のサービスにおいて,別紙放送目録記載の放送に係る音又は影像を,録音又は録画の対象としてはならない。

という決定主文につき、債務者の主張に応答する形で、「利用者が親機ロクラクを自宅等に設置するなどの場合を含まない」、「著作権又は著作隣接権侵害が問題にならない態様のものまでがその対象に含まれるものではない」と解説しているから(55頁)、債務者が主張しているように、「親機ロクラク」の管理を債務者自身が行っていないのであれば、本決定によっては債務者の事業には何らあたりがでない、ということになるし、仮に裁判所が認定したような態様で債務者がサービスを行っていたとしても、今後サービスの態様を変更すれば事業は継続できるということになるが、果たしてこれが債務者にとって慰めになるのだろうか。


まぁ、「コンテンツ流通促進」といった政策的見地からの議論については、他の識者の皆様方に譲るとして、小市民たる筆者としては、放送局の方々に、見逃した番組のワンシーンを「YouTube」でチェックするといった庶民のささやかな楽しみくらいは残しておいて欲しいものだと切に願っておくこととしたい・・・。

*1:第29部・清水節裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070330182742.pdf

*2:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20051029/1130606705#tb

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20061225/1167066489#tb、地裁決定については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060826/1156554700#tb

*4:いわゆる「カラオケ法理」に照らして判断する、という発想自体はこれまでの裁判例と大差ないのだが、この種の事件に適用することには批判も強い「キャッツアイ判決」をいきなり引いてくるとは・・・といった感はある。

*5:なお、現在の日本デジタル家電のウェブサイトを見る限り、国外への録画転送という用途は前面には打ち出されていないように見える(http://www.rokuraku.com/)。

*6:当事者の主張によれば、本件サービスのビジネスモデルが確定したのは、平成17年3月頃ということである。

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