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2007-07-30

[][] 「補足」の重み

先日、知財高裁第3部(飯村敏明裁判長)の判決が面白い、というネタを取り上げたが(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070708/1183936893#tb)、このコートに脅威を感じているのは特許庁だけではないかもしれない、という話。


既にあちこちで話題になっている一本の判決がある。


知財高判平成19年7月25日(H19(ネ)第10022号)*1

この判決、人形作品を被写体をして制作された写真集の著作権の帰属をめぐって争われた事案のようなのだが、残念ながら、高裁判決は原審判決に“継ぎはぎ”したものになっているため、事件の全体像を把握するのは容易ではなく、判決内容そのものの当否を論じるのは難しい。


むしろ、本判決で特筆すべきは「補足」として記された以下のくだりである。

「本件は,本件紛争の実体に照らして,以下の点で,控訴人(一審原告)の主張の整理が十分に尽くされていないとも解される。すなわち,(1)控訴人が著作権の保護を求めようとする著作物は何か(本件各人形か,本件各人形を被写体とする各写真か,控訴人の作成した本件文章か,本件写真集か),(2)著作権の保護の対象が本件写真集であるとすれば,原著作物との関係はどのようなものか(独立の著作物か,二次的著作物か,編集著作物か),(3)控訴人が著作権を取得した原因は何か(具体的にどのような創作的な活動を実施したか),(4)被控訴人のいかなる具体的行為を著作権侵害行為に当たる不法行為と主張するのか(被控訴人が本件出版社をして本件写真集を出版させた行為か,被控訴人が本件出版社から金銭を受領した行為か),(5)被控訴人の行為は,控訴人の有するいかなる具体的な支分権(複製権,翻案権など)との関係で侵害行為となるのか,(6)主位的主張と予備的主張とはどのような関係に立つのか等の各事項において,整理の尽くされていない点が残る。しかし,これらの点については,既に,原審の第1回弁論準備手続期日において,裁判所において控訴人(一審原告)に釈明を求めた審理経過を踏まえ,当審においては,控訴人(一審原告)が釈明した結果に基づいて,若干の補足をした上で,控訴審としての審理を終了した(なお,当審では,職権で和解勧試をし,和解手続も経由した。)。」(11-12頁)

原告(控訴人)側の主張を整理して裁判所に提出するのは、原告代理人に求められる役割のうちのイロハの「イ」ともいうべきことであるから、裁判所にここまで言われてしまうと、原告代理人としては、立場上相当キツイのではないかと推察される。


本判決で付加された

「以上のとおり,控訴人は,本件写真集に掲載された各写真の撮影をすることもなく,また,撮影に創作的に関与したものではないから,各写真に係る著作権を取得することはない。また,本件写真集が,独立の著作物,編集著作物又は二次的著作物のいずれかに該当するか否かはさておいて,控訴人は,本件写真集の制作に当たって,当該写真集に掲載した素材の選択又は配列などの創作的な表現に関与したと評価することはできないから,控訴人が,本件写真集に係る著作権を取得することはない。」

「前記(1)の認定事実によれば,本件写真集に掲載された本件各人形の写真は,本件各人形の形状・色彩等をただ単に写真の形式を借りて平面的に改めたものではなく,Aらにおいて,被写体として選択した本件各人形ごとに構図,カメラアングル,背景,照明等の組合せを選択,調整するなど,さまざまなアイデア,工夫を凝らして撮影し,作品として完成したものであり,正に,撮影者であるAらの思想又は感情を創作的に表現したものであるから,二次的著作物としての創作性が認められることに疑いを入れる余地はない。」(9-10頁)

といった説示から推察すると、恐らく原告(控訴人)側は、「写真集」に掲載された写真そのものの著作者としての地位(制作への寄与)を主張するのみで、被写体である「人形作品」の著作者としての地位にあることや、「人形作品」と「写真集」の関係(二次的著作物といえるものかどうか等)について、あまり充実した主張を行わなかったのではないだろうか。


だとすれば、本件のような事案で原告側に有利な結論を導くのは難しい*2


それゆえ飯村コートが最後に付加した「補足」は、本事件の帰趨に非常に大きな意味を持っているように思われる。そして、このような核心をついた指摘が、判決文において公然と晒されることは、当事者、そしてその代理人にとっては、まさに“脅威”というべきではなかろうか・・・。


ウォッチャーとしてネタに事欠かないというのは有難い限りであるが、実務サイドにいる人間としては、いろいろと複雑な気分になる。

*1:第3部・飯村敏明裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070725164336.pdf

*2:逆に、このあたりの主張立証が的確になされていれば、キャンディ・キャンディ事件最高裁判決等を引いて、原著作者としての原告に有利な結論が出された可能性はある。

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