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2007-09-17

[][]またしても大阪

大阪地裁の著作権関係事件、と聞くと、条件反射的に「著作者に有利な結論」を思い浮かべてしまうのは筆者だけではあるまい。


「著作物性」等、入り口部分で時に厳しい絞込みを見せたり、「間接侵害」の成立を否定したりして、権利者の救済に一定の限界を設けようとする、東京地裁の一部コートへの対抗意識を見せているのだろうか、などと余計な詮索をしてみたくもなるのだが、そんな中、また新たに著作者にとってはお得な判決が出された。


大阪地判平成19年7月26日(H16(ワ)第11546号)*1

原告は有限会社日本システム設計。

被告は株式会社ケル・システム。


本件では、原告が「グラブ浚渫施工管理システム」に関するプログラムの著作権に基づく差止請求・損害賠償請求がなされており、その前提として、これらのプログラムの著作権が原告に帰属しているか、が問題となった。


プログラムを開発したのは、原告会社の代表取締役である「個人・A」、プログラムの開発を委託したのは、被告会社の代表取締役である「B」がかつて代表取締役を務めていた訴外・橘高工学研究所(破産宣告を受けたために、別会社として被告法人が設立されたようである)と、紛争当事者とプログラム作成当時の当事者が微妙にずれている上に、作成当時、著作権の帰属を明確に定めた契約書等がなかったことが問題を複雑にしている。


そして、これらのプログラムの中には、画面のトップページに「Kittaka Engineering Laboratory」という表示が現れたり、「Copyright(c)by Kittaka engineering Laboratory Co.,Ltd」という表示が付されているものも存在しており、対外的には開発委託者である訴外・橘高工学に既に著作権が譲渡されたと思われるような状況も存在していた。


だが、裁判所は、本件プログラムの元となった「GIX MS-DOS版」の著作権が原告に帰属することを認めた上で、それに「新たな創作性を付加して創作した著作物」である本件プログラムについても、原告に著作権が帰属することを認め、原告側の差止・損害賠償請求をほぼ全面的に肯定したのである。


このうち、本件プログラムに関して言えば、橘高工学が、プログラム開発者であるAに対して、「著作権の譲渡代金と評価できる対価はもとより、開発費の支払もせず。ソースプログラムも渡され」ていない、ということであるから、著作権譲渡を否定した判断もすんなり理解できる*2


だが、そのベースとなる「GIX MS-DOS版」の著作権の帰属に関する判断はかなり微妙だ。


例えば、橘高工学はAに対し月100万円の固定報酬を支払っており、さらにGDX開発時にも対価として一定の額を支払っているのだが、裁判所は、

「著作権を譲渡するということは、著作権法21条ないし28条が規定する著作者の権利を全て譲渡するということであり、対象となる著作物の経済的価値が大きければ大きいほど、譲渡する著作権の対価も高額なものとなるのは当然である。そして、著作物の経済的価値の大小については、同著作物の複製物が販売されている場合は、その販売価格の多寡が参考となる」(73頁)

「本件において、GIX MS-DOS版の著作権の譲渡の対価であると評価することができる程度の額の金銭の授受の有無について検討すると、GDX等の開発からGIXシリーズの開発ないし修正に至るまで、例えば、GDX等の複製物が少なくとも一船分200万円ないし300万円で販売されていることに見合うような著作権譲渡の対価が、著作権の譲渡時に授受されたと認めるに足りる証拠はない」(73頁)

として、報酬の対価性を否定している。


しかし、固定報酬プラス一時金、歩合報酬の支払いによって、発注者側がプログラム著作権の譲渡を受けるというパターンも決して珍しいことではないのであって、上記のような理屈で対価性をあっさりと否定できるのか、という点については疑問が残る。


さらに、「GIX MS-DOS版」に関しては、ソースプログラムが橘高工学に提出されており、橘高工学がAの関与なしにプログラムの複製物を販売していた実態もあったし、「橘高工学」の表示がソースプログラムやメニュー画面に表示されるという実態もあった。


にもかかわらず、裁判所は、

「GIXver1.62以降は、橘高工学はAの関与なしにプログラムの複製物を販売することができるようになったものの、その著作権が橘高工学に譲渡されたのではないく、Aが、橘高工学による当該バージョンのデッドコピーを許諾ないし黙認していたにすぎないものと解される。」(75頁)

「GIX MS-DOS版の各ソースプログラムないしメニュー画面に、橘高工学の表示が現れるが、これらについて「(c)Copyright」等が付された著作権表示はなく、単にAから見た納入先である橘高工学の名称を記載したものにすぎないと考えられる」(75頁)

として、これらの事情を被告側に有利な材料とは解釈しなかった。


だが、GIXよりも前に開発されたプログラムや、その後「Visual Basic」により開発されたプログラムに関しては、著作権譲渡合意の存在を肯定するかのような事情があることも認められているのに、本件プログラムの帰属に関する結論を導く場面についてだけは、このように被告側(委託者側)に厳しい判断を下すことに、果たして合理性は認められるのだろうか?


ベースとなる著作物の著作権の帰属と、その翻案物の著作権の帰属が異なれば、差止が認められる範囲や損害賠償額の算定などの点において、より難しい判断を迫られることになるのは確かなのだが、だからといって、「まず結論ありき」ではいかんのではないか、と思う。


筆者自身、判決文の読み込みが足りない部分もあるし、ソフトウェア開発の実情について必ずしも深い理解を有しているとはいえないので、確信を持って「おかしい」と言い切ることはできないのであるが、いろいろと疑問が残る判決なのは確かである。

*1:第26部・山田知司裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070817154004.pdf

*2:著作権表示の矛盾については、「仮に、完成して十分な対価が支払われたあかつきには、橘高工学がGIXver3.00という特定のバージョンについて、対外的に著作権があるように振る舞うことを許容するという意思がAにあったとしても、それは対価の支払を受けた後の予定に止まり、橘高工学からの対価支払がないために実現しなかったもののように思われる」(93頁)と説明されている。

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