「良識ある専門家集団の声」なのか、それとも「ギルドの論理」なのか?

日弁連の会長選挙が行われたらしい。

「日本弁護士連合会(会員約2万5000人)は8日、平山正剛会長(73)の任期満了に伴う次期会長選挙を実施し、元大阪弁護士会会長の宮崎誠氏(63)を選出した。任期は4月1日からの2年間。宮崎氏は8日の記者会見で「2010年に司法試験の合格者を3,000人にする政府方針の見直しを求めたい」と述べた。」(日本経済新聞2008年2月9日付朝刊・第34面)

宮崎氏の得票、9,402票に対し、対立候補である東京弁護士会高山俊吉氏(67)が7,043票(投票総数の42%)を集めるという異例の展開。


記事の中では、法曹人口増員の政府方針に対して異論を唱える最近の動きが批判票として高山候補に流れた、という分析がなされている。


もっとも、記事中では淡々と論じつつも、社説やコラムでガツンと叩くのが日経クオリティ。


同じ日の朝刊の社説では、早速「『弁護士は多すぎ』は本当か」というタイトルで、

「法曹への国民の需要は増えていない。現に仕事があぶれる弁護士がでている」

という最近とみに目立つ弁護士の“本音”に対する批判を展開している*1

「『大幅増員すれば弁護士間の生存競争がひどくなり、人権の擁護・社会正義の実現を目指す仕事には手が回らなくなる』。増員反対派の、こんな言い分にうなずき、法曹は増やさないほうがよいと判断する国民はどれほどいるだろう。」

というくだりを読んで、ハラワタが煮えくり返っている先生方は多いのかもしれないが、残念ながら、筆者の周囲を見回す限り、法曹とのかかわりの薄い(が社会問題への関心は高い)世の一般職業人の見方(俗に言うエグゼクティブ階級の人々も含め、日経紙の読者に重なる層)が、概ねこの社説に書かれていることと一致しているのもまた事実。


営業叩き上げの某部長氏は、

「長い人生のたかだか2〜3年、他人より勉強して試験に受かったからって、特権階級気取るんじゃねぇ」

みたいなことをよく言っているし、洋行帰りの某MBAホルダーは、

「弁護士が増えて競争が激しくなれば、自然と適性のある優秀な人だけが生き残るでしょ」

とお約束のセリフをさらっと行ってのける。


「士」の付く資格をいくつか持って社内で活躍している某先輩などは、

「そもそも資格をとったら永久に職が保証されるなんて幻想を抱いている方が異常。できる仕事の中身が変わるわけでもないのに、何でそんなに騒いでいるのか全く理解できん。」

と、これまたなかなか手厳しい。


頓珍漢な法務大臣が出てきたおかげで、関係者以外にも法曹増員問題に関心を持つ人々が増えたのは確かだが、そんな多くの人々は

「所詮ギルドが既得権益を守ろうとしているだけ」

としか見ていない、というのが実情であろう。


もちろん、一般的な“世論”が常に正しいわけではないことは、これまでの歴史が何度となく証明しているわけで、「専門家集団の中にいる人にしか認識し得ない事実」や「専門家集団の中にいる人しか持ち得ない職業意識や倫理」、そしてそれらに根ざした提言は尊重されるべきだと思うのであるが、

「高水準の報酬を得られないことには志の高い人間は集まらないし、理想とされるべき業務の遂行もままならない」

といった理屈で攻めたところでこの国の多くの人々(&その意を汲んだ政治家達)の共感を得ることはおそらく不可能だと思われるから(たとえ、その理屈が的を射たものだったとしても)、せめて外形だけでも“一般市民的の琴線に触れるような”理屈をこねる必要がある*2



時計の針を無理に逆戻りさせようとしても、時計が壊れるだけ。


日経の社説にあるような、“儲からないレアな仕事”(国選弁護や法律扶助業務など)以外にも、実務屋の目から見て、法曹に対する潜在的ニーズが存在すると思われる分野は山ほどあるのだから*3、前向きな議論はいくらでもできるように思われるのであるが、まぁ、とりあえず今は対岸の火事


飛び火してこないよう祈りながら、ただぼんやりと眺めるほかないのが現実である*4

*1:日本経済新聞2008年2月9日付朝刊・第2面。

*2:日本医師会並みの政治力を身につける、という裏技もあるが、あまりお勧めはしない(笑)。

*3:特に、企業法務の反対側の方向に・・・。

*4:いつ飛び火してくるか分からない、という事情はあるのだが、それはまたあらためて触れることにしたい。

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