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2008-05-02

[][]特許料値下げカウントダウン!

通常国会が大混乱を来たしている最中、「特許法等の一部を改正する法律案」がさりげなく可決され、無事成立している(平成20年4月18日付官報に掲載)。


ガソリン暫定税率をめぐってこれだけ大騒ぎしている中で、これだけ大幅な特許・商標料金の減額を断行するとは、経産省もなんと太っ腹なことかと(笑)。


ちなみに、今回の法改正は、特許料の話だけではなく、他にもいろいろと興味深い変更点を含んでいるため、実務の参考とすべく、以下、簡単に眺めておくこととしたい。


「特許法等の一部を改正する法律案」の概要*1


以下、概要のペーパーの項目ごとに、中身を順に追ってみていくことにする。

1 通常実施権等登録制度の見直し

1-1 特許の出願段階におけるライセンスに係る登録制度の創設

1-2 現行の通常実施権登録制度の活用に向けた見直し

1-1の「出願段階におけるライセンス」については、それを可能にする手段として、「仮専用実施権」(第34条の2)、「仮通常実施権」(第34条の3)が新たに創設されている。


具体的な条文を見ると、

(仮通常実施権)

第34条の3

 特許を受ける権利を有する者は、その特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、その特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、他人に仮通常実施権を許諾することができる。

(以下略)

第34条の5

 仮通常実施権は、その登録をしたときは、当該仮通常実施権に係る特許を受ける権利若しくは仮専用実施権又は当該仮通常実施権に係る特許を受ける権利に関する仮専用実施権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる。

2 仮通常実施権の移転、変更、消滅又は処分の制限は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。

ということで、出願段階のライセンスについても、登録を前提として第三者に対抗しうる地位を認める制度設計にしていることがわかる。


現に、特許出願後登録前の発明等についても実施許諾、使用許諾の対象とする実務が、ある程度普及していることに鑑みれば、そのようなライセンスの法的位置づけを明確にする、という法改正の意図自体は評価してよい。


個人的には、従来から問題となっている、「出願中の特許と登録された特許の内容が大幅に異なる」場合に対する対処が十分になされているか、という点が気になるところで、例えば、特許出願後の大幅な補正によって、当初実施許諾対象に含まれていた「実施製品A」の製造行為が登録特許の実施許諾範囲から外れた場合、

「仮専用実施権(仮通常実施権)に係る特許出願について特許権の設定の登録があったときは、その特許権について、当該仮専用実施権(仮通常実施権)の設定行為で定めた範囲内において、専用実施権(通常実施権)が設定されたものとみなす。」

という条項(第34条の2第2項、第34条の2第3項)をどのように解釈するのか、といった点に若干疑問を感じているのであるが、その辺は立法担当者の解説を待つことにしたいと思う。


また、上記1-2にあるとおり、今回の一連の法改正では、これまで評判の悪かった通常実施権登録制度について、

「通常実施権の登録事項のうち、秘匿の要望が強い登録事項((1)ライセンシーの氏名等、(2)通常実施権の範囲)の開示を一定の利害関係人(政令指定事項)に限定する」

とし、さらに「対価の額又はその支払方法」を登録事項から除外する、という大きな改正を加えている。


これは、産業活力再生特別措置法によって、先行して設けられている「特定通常実施権許諾契約」の登録制度(いわゆる包括型ライセンス登録制度)に倣ったものだと思われ*2、実務サイドの要請に少しでも応えようとする姿勢自体は、これまた評価されて良いと思う。


実際のところは、登録事項の範囲やその閲覧可能性をいかに限定したとしても、それだけで登録制度の利用促進を図るのは難しいように思われるし*3、「改正されたから利用しよう」というニーズもごく限られたところにしか生まれないのではないかと思っているのだが・・・。


なお、「仮専用実施権」、「仮通常実施権」が新たに法律上明定されたことにより、関係する諸条文にもいくつか修正が加えられている(職務発明に関する特許法第35条3項など)。


また、企業実務的には契約のフォーマット等で微修正が必要になると思われる(面倒だが仕方あるまい)。

2 不服審判請求期間の見直し

拒絶査定を受けた出願人の手続保証の観点から、以下の措置を講ずる。

特許査定不服審判請求期間を「3月以内」に拡大。

権利を求める技術的範囲等の補正可能時期を、審判請求と同時にのみ可能と変更

これについては、以前のエントリーでも紹介したとおりである*4


「3ヶ月」も与えてやった上に、補正の機会をそれと合わせて制限すれば、不服審判を申し立てるものとそうでないものの選別が進むだろう・・・、という深い思惑を見て取ることができる改正なのだが、企業側の担当者レベルで見れば、ヤッツケ仕事をする時期が、拒絶査定の2週間後になるか、それとも10週間後になるか、といったレベルの違いにしかならないように思えてならない。


3 優先権書類の電子的交換の対象国の拡大

世界的な特許出願の増大に対応して、出願人の利便性向上及び行政処理の効率化の観点から、優先権書類の電子的交換を世界的に実現するため、優先権書類を電子的に交換できる対象国を拡大。

良いことではないでしょうか。取り立てて感想を述べるほどのことでも・・・。


4 特許・商標関係料金の引き下げ

4-1 中小企業等の負担感の強い10年目以降の特許料の重点的引き下げを含む特許料の引き下げ(平均12%の引き下げ)。

4-2 諸外国と比較して高額であり、中小企業等の利用割合の高井(件数で36%)商標の設定登録料等の引き下げ(平均43%の引き下げ)。

やはり今回の改正の中で、インパクトがもっとも大きいのはこれだろう、と思う。


特許庁のサイトでも、既に告知が行われており、「6月1日より適用」というリリースが既に既成事実化して一人歩きしている状況である*5


特許庁が出している説明ペーパーでは、「中小企業対策」が前面に打ち出されているようであるが、実際のところは、大企業、それも年間数百件以上にわたる特許・商標の出願、更新を繰り返している企業にとっての影響が大きいわけで、現場では既に「出願・更新控え」なる現象も起こっている*6


何せ、これまで151,000円かかっていた商標更新費用が、「48,500円」になる、というのだから、今後の各社の商標更新戦略に大幅な影響を与えることはほぼ間違いないといって良い。


個人的な意見としては、既に記したとおり*7、更新費用がなぜ高い金額に設定されていたのかをもう少し熟慮していただいてもよかったのではないか、と思っているのだが、インフレの暗雲が世の中を覆おうとしている現在、「値下げ」というサービスを受けられること自体、感謝しなければならないのだろう。


5 料金納付の口座振替制度の導入

国庫金の電子決済インフラの整備に伴い、特許料等の料金の納付手続の簡素化を図る観点から、料金納付について、銀行口座からの振替えによる納付制度を導入。(平成21年1月運用開始予定)

取り立ててコメントするようなことではないので割愛。



なお、担当大臣が甘利明氏ということもあって、国会会議録を見ると、この種の法案の審議にしては、比較的実のある議論が展開されているなぁ、といった印象を受ける。


特に衆議院経済産業委員会での北神圭朗議員をはじめとする民主党議員の質問は、いろいろと鋭いところを突いていて興味深く感じた次第なので、お時間のある方には、一読されることをお勧めしたい*8

*1特許庁HPに掲載されているのは、閣議決定された原案のみであるが(http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/puresu/press_tokkyohoutou_kaiei_200201.htm参照)、審議経過状況等を見ても、特に修正等は付されていないようなので、そのまま法案になったものと理解している。

*2:産活法上の通常実施権登録制度の概要及び内在する問題点の分析については、松田俊治「産活法による新たな包括型登録制度とライセンス取引をめぐる問題点について」知財管理58巻1号41頁(2008年)が丁寧に解説しており、参考になる。

*3:なぜなら、結局のところ、日常業務において、1件1件のライセンス契約が持つ意味というのはさほど大きいものではないし、多くの実務者は、それでもあえてコストをかけて登録する必要があるとは思っていないからである。

*4http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080202/1201974522

*5http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/tetuzuki/ryoukin/fy20_ryoukinkaitei.htm

*6:昨年の「小売商標フィーバー」に引き続き、6月、7月に大量に仕事を抱えることになる特許庁の商標審査部署の方々には同情の念を禁じえない。

*7http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080106/1199598440

*8http://kokkai.ndl.go.jp/参照

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