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2009-01-15

[][]知財高裁の親切心

仏画写真の複製物を御札(御影)として使用することが不競法上の形態模倣、又は不法行為にあたるかが争われた事件の高裁判決が昨年末に出された。


結論としては、地裁高裁ともに原告(控訴人)側の請求を棄却したのであるが、不正競争防止法の「使い道」を考える上では興味深いこの事件。結論は同じでも素人目で見たときの“印象”が大きく異なる高裁地裁両判決の比較と合わせて、もう少し詳しく見ていくことにしたい。


知財高判平成20年12月24日(H20(ネ)第10051号)*1

控訴人(原告):X

被控訴人(被告):四国八十八ヶ所霊場会、Y


本件で問題になったのは、書籍に掲載された原告撮影の写真の複製利用であるから、通常であれば著作権法上の問題として処理されそうなものだが、原審(東京地判平成20年4月25日、H19(ワ)第29381号*2)では、

「平面的な作品を撮影対象とする写真において、正面から撮影する以外に撮影位置を選択する余地がない上、様々な技術的な配慮も、原画をできるだけ忠実に再現するために行われるものであり、独自に何かを付け加えるというものではないから、そのようにして撮影された写真は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)とはいえない」(原審5-6頁)

ということが「争いのない事実」として認定されてしまっているし、控訴審でも同様だったから、そうなると後は不競法か不法行為くらいしか手立てはない。


そこで、本件では、専ら不競法2条1項3号該当性&不法行為の成否が争われることになったのである。


シンプルな原審判決

さて、原審である東京地裁の判決は、実にシンプルなものであった。


まず、不競法2条1項3号に基づく損害賠償請求について、裁判所は、同号にいう「他人の商品」に当たるものは、「各写真」ではなく、「書籍そのもの」であるとした。


そうなると、個々の御影と「他人の商品」が実質的に同一とは到底いえないことになってしまうから、

「原告は営業上の利益を侵害される者に当たらない」(15頁)

という結論が導かれることになる。


また、判決は、「仮に・・・」と続けて、「本件写真の各複製物が・・・「他人の商品」に当たるとしても、原告写真と本件御影は、いずれも同一著作物を忠実に再現することを目指したものに他ならないため、両者は結局似ざるを得ない、として、

「本件写真の各複製物に表現された線及び色は、同種の商品が通常有する形態であり、本件御影のお砂踏本尊の線及び色は、同種の商品が通常有する形態の点で、本件写真の複製物と実質的に同一であるに過ぎない」

と、原告の主張を退けている*3


一方、不法行為については、被告担当者の行為に、「原告の成果にただ乗りした面」があることを認めつつ、

「原告が被告霊場会所有のお砂踏本尊の御影を作成して販売する行為は、被告霊場会の著作権を侵害する行為であり、原告がそのような事業に乗り出すことは考えられないため、原告と被告霊場会は、競合する関係にない」

「被告霊場会が原告らに撮影で協力したことにより、書籍の発行が可能となったこと」

を挙げて、不法行為にあたらないとしている。


元々著作権で保護できない写真について、強引に保護を求めた時点で若干スジが悪い事案といえるから、裁判所としてもサクサク片付けたかったのかもしれないが、ちょっと物足りない中身だったのは否めない。


高裁判決の丁寧さ

それでは、知財高裁の方はどうだったか。


さすがに地裁判決だけでは説明が足りないと思ったのか、高裁は個別の争点について、比較的丁寧に論じている。


まず、不競法2条1項3号については、

「改正前不正競争防止法2条1項3号による商品形態模倣行為の規制は,後行者が,先行者の「商品」の形態を模倣した商品を譲渡(販売)するなどして,当該商品につき先行者と競争する行為が,一方では商品化・商品開発に伴う資金,労力等を節約でき,かつ開発リスクを回避することができるとともに,他方では,先行者の市場先行の利益を損なうものであって,これを無制限に許せば,先行者と後行者との間に競業上の著しい不公平を生じ,不公正な競争行為であると観念されることを理由とするものである。そうであれば,同号にいう「商品」とは,競争の目的物たり得るものとして独立して取引の客体とされているものをいい,ある商品を構成する要素の一部であって,それ自体が現に独立して取引の客体とされていないようなものは,ここにいう「商品」には該当しないものと解するのが相当である。」(24-25頁)

とした上で、原告が「商品」に当たると主張していた写真が冊子の一部を構成するものに過ぎないことから、「商品」に該当しない、とした*4


また、不法行為の成否については、本件写真の複製物独自の経済的価値が、

元の著作物に直接接しなくとも、本件写真所収書籍に接するのみで、手軽に宗教的ないし精神的充足を得られるという利点を有する

点にあるとした上で、元の著作物が忠実に再現されていない本件御影によって、

「上記本件写真の複製物独自の経済的価値は、何ら損なわれるものではない」(27頁)

とした。


そして、被控訴人霊場会との関係では、原審同様に、

「控訴人が、本件写真又はその複製物を複製して御札(御影)を制作、販売することは、被控訴人霊場会の許諾がない限りなし得ない」

ということを認定した上で、

「被控訴人霊場会との関係において、控訴人の当該御札(御影)制作、販売の利益の侵害を考慮することはできない。」(30頁)

と侵害される(可能性がある)利益の性質を明言しつつ、その侵害を否定した。


さらに原審で「ただ乗りした面」と指摘されている点については、被控訴人側の利益が「作業の省力化の利益」であることを指摘した上で、原告写真所収冊子の発行が可能となった背景に、「被控訴人霊場会の協力」があったことに言及し、

「被控訴人霊場会が、・・・作業の省力化の利益を得たからといって、上記(2)、(3)のとおり、これにより控訴人の権利、利益を何ら侵害していない本件の下においては、不法行為を構成するほどの違法性があるものと認めることはできない。」(32頁)

として、その行為の違法性を否定したのである。



既に述べたように、本件のような無理スジの事案では、どんな解釈論によったところで、原告の請求が認められるとは考えにくいのだが、どうせ棄却するなら控訴審判決くらい丁寧に書いてくれた方が、原告の納得感も高まるし、公益に資する(笑)んじゃないか、と思ったりもするわけで・・・。


本件は、不競法上の「商品」性の解釈や、「不法行為」の成否をめぐる考慮要素、といった問題を考えるための素材、というのみならず、判決の書き方を考える上でも、興味深い素材だということができるように思う。

*1:第4部・田中信義裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090107115112.pdf

*2:第40部・市川正巳裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080501153859.pdf

*3:判決はさらに、共通する部分が「同種の商品が通常有する形態」にあたらないとしても、本件御影の再現は「粗雑であるから」原告写真と同一のものとはいえない、とした。

*4:本件写真の複製物が経済的価値を有することをもって「商品」に該当する、とした原告の主張も退けている。

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