知財立国時代の寵児の凋落

何度も業務改善命令が出されたにもかかわらず、刷新されるのは社長の首ばかり・・・という悲惨な状況に陥っていたジャパン・デジタル・コンテンツ(JDC)信託に対し、とどめを刺すような処分が下った。

金融庁は18日、著作権管理・運用を主力とする信託会社のジャパン・デジタル・コンテンツ(JDC)信託に、新規業務の3カ月間の停止と顧客財産の返還を命じた。顧客の信託財産を流用し、同社の借金返済に充てるなど重大な法令違反が発覚。現状では顧客の信託財産の保全が難しいとして、顧客資産の返還命令という異例の処分に踏み切った。」(日本経済新聞2009年6月19日付朝刊・第4面)

資金をお客様から預かってナンボの信託会社に資産返還命令を出す、というのは、「お前はもう死んでくれ!」というに等しい処置だし*1、これに加えて「新規業務の3カ月間停止」とくれば、ぐうの音も出ないだろう。


そして、何より深刻なのが、これらの不祥事の背景に、同社の慢性的な“赤字体質”があったように思われることだ。一部の経営者や社員の問題で済むならまだ救いがあるが、最低限の業績や資金繰りを維持するために、構造的に不正行為が行われていたのだとしたら、もはや救いようがない。


同社のHPには、依然として華々しい“戦果”が掲げられているし、プレスリリースでも、あくまで今回の処分を「過去の不祥事に対する制裁」と位置づけて、淡々と将来展望を述べているのだが*2、信託財産の流用が日常的な所業になっていたのではないか?、とさえ疑われる一連の不祥事をみる限り、わずか従業員数29人の同社が、短期間で体制を立て直せるかどうかには疑問符を付けざるを得ない。




ちなみに、こんな会社でも、知財バブル真っ盛りの頃には、「知財立国時代の旗手」としてあちこちで取り上げられていたものだ。


特に、ビジネスモデル特許だとか、職務発明だとかいった、大衆受けしそうな花形テーマの議論がひと段落した後に登場してきた「知財経営」「知財信託」ブームの折には、この会社の社長が、弁護士や大手監査法人の会計士やコンサルティング会社の人々と並んで各地でのシンポジウムの壇上に上がり、未来を揚々と語っていたのがまだ記憶に新しい・・・。




いくら形がなく、資産価値の算定が困難だからといって、「知財」を活用したビジネスや資金調達スキームをすべて“虚業”として切り捨ててしまうのは、ちょっとやりすぎだろうと思う。


だが、パイオニアの崩壊に続き*3、このJDC信託が奈落の底に落ちたのを見ると、評論家が口で言うほど、「従来の古典的なビジネスモデルから脱して「知財」をメシの種にする」のは簡単なことではない・・・ということを、あらためて思い知らされるのである。

*1:もちろん、同じ顧客から再度信託を受けることができれば、引き続き業務を続けることはできるのだろうけど。

*2:http://www.jdc.jp/

*3:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080606/1212864598参照。ちなみに今年の同社の事業報告には「特許関連」というセグメント自体がもはや存在していない。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html